54:時間稼ぎ
「レイル君はひとまず回復して」
シャルはそう言ってローグと共にズィーガへと飛び掛かる、ズィーガは地面を蹴って下がりながらも二人と対峙した。
シャル達が気を引いてる間にレイルはアイテムポーチから取り出したポーションで体力と魔力を回復する、するとセラが声を潜めてレイルへと耳打つ。
「五分だけで良い、詠唱を邪魔されない様にして」
「なんとか出来るんだな」
「ん」
「分かった」
レイルは立ち上がると竜の血を励起させる、肉体が徐々に強靭な竜の血肉へと変化し“竜血魔纏”を発動させたレイルは金色の眼でズィーガを捉えた。
「絶対に手出しはさせない」
鋭い牙を覗かせながらレイルは床を蹴った。
―――――
ズィーガに向けてローグの戦槌が振るわれる、まるで独楽の様に体を回転させながら絶え間なく振るわれる戦槌をズィーガはオハンで受け止めた。
オハンごと殴り飛ばそうと全力で叩きつけた筈の一撃をズィーガは踏ん張って受け止めると右腕のカラドホルグをローグの腹に向けて打ち出す。
「ちっ!?」
身を捻ったローグの脇腹をカラドホルグが削る、掠めた程度でありながら虹の刃はローグの脇腹を抉って血を蒔いた。
「凄まじい力だ、どうやらお前は相当な数の魔物と戦ってきた様だな」
ズィーガはカラドホルグを収納してローグの腕を掴むと膝を跳ね上げて腕と膝でローグの肘を挟み込む様に打つ、鎧の関節部を通して与えられた衝撃にローグは顔をしかめた。
「ぐわっ!」
「だがそれ故かな、対人の経験が少ない様だな!」
ローグが怯んだ僅かな隙にズィーガは腕を取りながらローグの懐に入る、空いた腕でローグの腹に肘打ちを放ち、足を払ってローグの体を浮かすと全体重を乗せて背負い投げた。
「対人に於いては力より技術が重要だ!」
ローグの体が勢い良く床に叩きつけられる、受け身が取れない様にズィーガが乗し掛かり叩きつけられる様に投げられたローグは肺の空気が一気に押し出されて一瞬だけ意識が飛んだ。
ローグを貫こうとカラドホルグを展開したズィーガは背後からの気配を感じて体を捻ってオハンを構える、飛来したナイフが弾かれると死角から刺突剣が迫った。
跳び退いて避けたズィーガにエストックとナイフを手にしたシャルが迫る、縦横無尽にズィーガの周囲を駆けながら繰り出される連撃にズィーガは感嘆の声を漏らした。
「お前は生粋の暗殺者か、人であった時の俺すら不覚を取ったかも知れんな」
襲い来る連撃を捌きながら呟くズィーガにシャルがエストックを突き出す、その刃をオハンの口が咬み止めるとシャルは柄の仕込み刃を引き抜いてズィーガの首を狙って振るう。
だが刃は突き刺さる事なく甲高い音を立てて弾かれた瞬間オハンがエストックを咬み砕いて叫びを上げるとシャルは抵抗する間もなく吹き飛ばされた。
「オハンと同化した俺の体はオハンそのものには及ばないが頑丈になっていてな」
刃が通じなかった種明かしをしながら右腕を振り上げる、そしてシャルに向けて振り下ろそうとするが雷の様に迫った影の振るう剣が襲い掛かりズィーガは思わず避けた。
「ほう…お前人間ではないのか」
ズィーガの前に思わず冷や汗が流れるほどの圧を放つレイルが立つ、一瞬で距離を詰めて振るわれる剣をカラドホルグで受けるが流れる様に頭突きがズィーガの顔面に直撃してたたらを踏ませた。
「血…?」
鼻から出てくる血を拭いながらズィーガはレイルに向き直る、自身の血が流れるなど随分と久しぶりだった。
「くくっ…面白い!」
ズィーガは狂喜に顔を歪ませると全身の魔力を励起させてレイルへと迫った…。




