52:最強の盾と
「やはり奇跡だったか…」
レイルは思わず舌打ちをしそうになる、ズィーガから変容した左腕を始めとして全身から放たれる圧は並の兵士や冒険者が卒倒するであろうほどの重さを伴っていた。
「確かに奇跡と言いたくなるほどのものだな…こんなものにありがたみなど感じれはせんがな」
皮肉に口を歪ませながらズィーガはレイルに迫る、オハンの角のひとつが伸びて剣の様になるとそれを真一文字で振り抜いた。
振るわれた角を手甲で受け止める、身体強化と『硬身』を発動しても衝撃がレイルの身体を震わせた。
「――――――――――――――――――ッ!!!」
受け止めた瞬間オハンの口から鼓膜を破るのではというほどの叫びが放たれる、角と叫びの異なる衝撃に一瞬の気を取られた瞬間ズィーガの蹴りがレイルの腹に刺さった。
「かはっ!」
自ら後ろに跳んで威力を軽減するが間を置かずにズィーガの拳が迫る、突き出された拳を避けながら逆手に持ち変えた剣で斬りつけるがオハンによって防がれた瞬間叫び声が上がる。
(この叫び、間近で聞くと身体に響く!)
震える身体に無理矢理命じて動く、だが攻勢に転じようとする度に叫び声が上がって攻め切る事が出来ず、逆にズィーガがその隙をついてレイルに攻撃を放っていく。
少しずつではあるがズィーガの攻撃はレイルを捉えていき、そして放たれた正拳突きは防御ごとレイルを吹き飛ばした。
防御した腕に痛みと痺れが走る、動きに支障はないがまともに受ければ意識を刈り取られかねないほどの一撃を受けながらレイルは打開策を考える。
(ひとまず試すか…)
レイルは構え直すとズィーガの攻撃を徹底的に捌いていく、今までの様に動き回ったり反撃などは行わずその場で防御にのみ神経を集中させた。
ズィーガの攻撃に更に魔力が集まり威力が高まる、もはや破城槌と遜色ない威力を誇る攻撃を弾き、受け流しながらレイルは魔力を練り上げる。
ズィーガがレイルを防御ごと打ち抜こうと腰を捻って右腕を引き絞る様に構える、その瞬間レイルは構えられたオハンを蹴ると『天脚・衝』を放ってズィーガを吹き飛ばす。
「その程度でオハンを…」
「竜剣術…」
ズィーガが反撃に出ようとした瞬間レイルは剣に膨大な魔力を注いで巨大な刀身を形成する、溢れ出した魔力で生まれた漆黒の鉤爪を思わせる刀身をレイルはズィーガに向けて振るった。
「『崩天爪牙』!」
竜の鱗すら斬り裂く漆黒の斬撃が唸りを上げてズィーガに迫る、オハンと衝突した斬撃は周囲に轟音と衝撃波を撒き散らしながら押し込んでいくが…。
「くっ…くくっ…」
ズィーガの口から笑みが零れる、床を踏みしめ全身の筋肉を膨れ上がらせながら斬撃を受け止め、そして気合いの声と共にオハンが叫び声を上げると斬撃を逸らしてあらぬ方向へと弾き飛ばした。
「今のは肝を冷やしたぞ!」
「…『崩天爪牙』を弾くか」
レイルは半ば予感はしていたがそれでも零さずにはいられなかった、竜剣術の中でも屈指の威力を誇る技を真正面から受け切られた事は同時にオハンを破壊するというのは不可能に近いという事に他ならないからだ。
「あの男はこれを最強の盾だとほざいていた、あながち間違いではないらしい…ではこちらの番だ」
ズィーガが再びレイルに打ち出す、打ち出された拳から魔力の塊が放たれて矢の様に迫るがレイルは身を捻って避けると矢継ぎ早にそれは放たれた。
(あっちも似た様な技を!だが…)
確かに連射して放たれる魔力の塊は厄介だが対処が出来ないというほどのものではない、拳弾を避け再び剣に魔力を注ぎながら距離を詰める。
(あの盾を壊せないなら本体を斬る!)
拳弾の威力と速度を見切ったレイルは一気に距離を詰める、右腕を引き絞る様な構えを取ったズィーガを視界に捉えながら再び『崩天爪牙』を放とうと懐に飛び込もうとした瞬間…。
「彼方を斬り裂け、この奇跡の名は…“地断虹剣”」
虹の輝きがズィーガの右腕から放たれた。
オジキの様にドリルみたいなのではありませんm(__)m




