49:神の領域
門を越えて城に入るとそこには異様な光景が広がっていた、城の内部を血管の様なものが覆って脈打っており壁際には淡く光る透明な卵の様なものが並んでいた。
卵の中には様々な魔物の幼体から成体だけには留まらず臓器や頭部といった生物の一部だけが浮かんでいる光景にレイル達は生理的な嫌悪感を覚えた。
「なんだこれは…」
レイルの口から思わず零れた呟きに誰も答えられなかった、だがセラは幾つかある机に置いてある資料に気付いて目を通した。
「これって…」
セラは置かれていた資料の内容を確認しながら卵の中にある臓器や頭部を見る、すると臓器は鼓動する様に動いており頭部はギョロリと目をセラに向けた。
「生きてる、この状態で…」
「それに魔物も見た事がないのばかりだわ…まさか一から造り出したとでも言うの?」
セラが手にした資料をレイルは確認する、人が書いたと思えないほど精緻な文字で書かれていたのは魔物の解剖結果や種族ごとの能力や差異など詳細はレイルでは理解できないがそれが自分達の持つ知識を遥かに凌ぐものだという事は理解できる。
「魔物とはいえ生命をここまで弄ぶなんて…奴等は神の領域に足を踏み入れようとでもしてるの?」
「知った事か、胸糞悪いのだけは確かだ」
口元を抑えながら呟くシャルにローグが吐き捨てる様に答える、そして奥へ進もうとした瞬間それは起きた。
「キュルルルル…」
部屋に並ぶ卵のひとつから鳴き声が響く、レイル達がそちらを見ると卵の中に入った巨大なカマキリの様な魔物の眼がレイル達を捉えていた。
カマキリは自らの鎌を卵に突き立てて破り出てくる、中の液体が床に音を立てて広がっていき鳴き声を上げながら体を震わす。
それに呼応する様に周囲から破れる音と水音が幾つも響く、レイル達の周囲には様々な姿をした魔物達が至るところから現れて包囲していた。
「素通りさせる気はないって事か」
「そうみたいね」
レイルが身体強化を発動すると同時に魔物達が一斉に飛び掛かった。
―――――
「“樹氷白刃”」
魔物達が飛び掛かってきた瞬間セラが周囲に氷柱を展開する、突然現れた氷柱に飛び掛かった大半は貫かれてその動きを止めた。
貫かれた魔物を足場にしてレイルが剣に魔力を込めながら跳躍する、爛れた肌をした巨人を脳天から真っ二つにして着地すると勢いを殺さず周囲に剣を振るった。
「竜剣術『乱尾衝』」
放たれた複数の斬撃が群がろうとした魔物達を斬り裂く、斬られても向かってくる魔物を頭から両断していく。
「だらぁっ!!」
ローグは戦槌を甲殻を纏った猪の魔物に叩き込む、戦槌は甲殻を砕いて猪を絶命させるだけには留まらず他の魔物を巻き込んで壁に叩きつけた。
そのローグの後ろに現れた眼のない巨大な蛇の魔物が牙を剥き出しにして襲い掛かるがその口の中に飛来したナイフが刺さり、柄に嵌められた魔晶が爆発を起こして頭を吹き飛ばした。
「大盤振る舞い、しないといけないわね」
シャルはそう言いながらポーチから魔晶が嵌められたナイフを取り出しては投擲していく、ナイフは吸い込まれる様に魔物達の頭に命中しては爆発して絶命させていく。
レイル達を包囲していた魔物は次第に数を減らしていく、そして最後の一体をレイルが斬り捨てると辺りは漸く静寂を取り戻した。
もはや床が見えなくるほど魔物の死骸で埋め尽くされた部屋をレイル達は後にする、部屋の奥にあった階段を登ると下の部屋よりも更に広い部屋へと辿り着いた。
「ああ、来たか…」
その部屋の中央に座り込んでいた男がレイル達を見ると潰れた声でそう漏らした…。




