47:最後の夢
「止まって、レイル君」
ダンジョンと化したアスタルツの首都を見ていたレイルにシャルが声を掛ける。
「防壁を境に結界が貼られてるわ、これ以上近付くと弾かれて気付かれる可能性がある」
「結界…」
「それにここまでの移動で魔力も大分使っているでしょ?今のアスタルツに向かうなら万全にしてからにしましょう」
「了解した」
レイルは首都から少し離れた森へと着陸させて魔術を解除すると竜の姿が霧散する、シャルは自身のポーチから独特の文様が画かれた札を取り出して四方に貼りつけると小規模な結界が構築された。
「とりあえずこれで魔物達には気付かれないと思うけど念のために交代で休憩しましょう、レイル君とセラちゃん、私とローグで四時間ずつ休憩して準備を整え次第潜入する」
「それほど休んで大丈夫なのか?」
「連合軍は教皇様とフラウ様がいなくても三日日は持つくらいの備えがあるわ、防衛に徹していればより長期戦を行う事も可能な筈よ」
レイルの問いかけにシャルは諌める様に答える、そして焦りを落ち着かせる様に続けた。
「ここまでに半日掛かって今は日が沈んでる、ダンジョン化してる所に魔物が活発化する時間帯に飛び込むのは危険だわ、私達が託された事を成す為にも今は休みましょう」
「…了解した」
話し終えた四人はひとまず休憩してから具体的な潜入方法を話す事になり、ひとまずレイルとセラは仮眠を取る事にした。
―――――
友を手に掛けてからどれほどの時が流れたのだろうか。
多くの戦場へ向かった、幾多の魔と戦い、数え切れないほどの命を奪ってきた。
そして遂に神の一柱を殺してみせた、幾多も存在する格の低い邪神であったが長きに渡る放浪と闘争の果てに神を殺したのだ。
だがどれだけ剣を振るっても、どれだけ敵を屠ろうと喪失感が無くなる事はなかった、神を殺しても空虚な心が満たされる事はなかった。
なんと虚しい人生であろうか、なんと空ろな生き様だろうか、殺す事しか出来なかった光なき生涯は無意味としか思えなかった。
ああ、どうかこの剣を受け継ぐ者よ、願わくば汝達の…に…があらん事を。
―――――
「うっ…」
目を覚ましたレイルはゆっくりと周囲を見渡す、少し離れた所にランタンが置かれ、そこで見取り図の様なものを広げて見ているシャルと装備の点検をしているローグがいた。
すぐ傍にはセラがレイルの肩に寄りかかって眠っており、月の位置からまだ交代の時間には猶予があったが眠気がなくなったレイルはなるべく動かない様にしながら自身が見た夢を思い起こしながら永劫争剣に触れる。
ゼルシドが振るっていた聖具、三つの呪いを宿す魔剣、レイルが見た夢でもこの剣の持ち主は闘争に明け暮れた生涯だった。
(だが…)
途切れとぎれになってはいたがレイルに流れ込んできた感情の中には憤怒や憎悪とは違う何かがあった、まるでレイルに何かを伝えようとする様に見る夢にひとつの疑問が浮かび上がる。
「宿っているのか?お前にも…」
レイルの口から零れた問いに黒い剣が答える事はなかった…。




