45:空の魔物
空を飛んでウェルク王国からアスタルツへと向かうレイル達の前に再び魔物達の影が映る、鷹や烏が魔物化した凶兆鷹や大鴉が群れとなっていた。
「どうする?」
「迂回するには数が多すぎる、正面突破しよう」
「仕方ないか」
各々が武器を構えるとレイルは空いた手で魔力を竜へと注いでいく、魔力は竜の口内で雷に変換されていきブレスとなって放たれた。
放たれた雷のブレスが枝葉の様に広がって魔物達を焼いていく、そうして生まれた隙間をこじ開ける様に突っ込んでいく。
「“風霊の加護”」
セラが付与魔を術詠唱すると竜の全体を風の障壁が覆う、それによって巨大な颶風と化した竜は魔物の群れの中を突っ切っていくが魔物達も勢いをつけてレイル達に突撃を行う。
「どらぁっ!」
「竜剣術『乱尾衝』」
風の障壁を突き破ってきた魔物をローグが戦槌で叩き飛ばし、レイルが幾多の斬撃で斬り落とす。
そうしていると魔物達の数が目に見えて減る…否、魔物達がレイルから離れていく、その状況にいぶかしんだレイル達の頭上に影が落ちた。
「マジかよ…」
見上げると思わずローグがそう呟く、レイル達も自分の上で羽ばたくそれを見て息を呑んだ。
それは先程の様に鳥の魔物だった、だが今レイル達が乗っている竜に匹敵する巨体を誇り翼の大きさは10mを優に越えていた。
「ロック鳥なんざとうに滅んだ筈だろ!?」
ローグの叫びと共にロック鳥の眼がレイル達を捉える、片方だけで牛一頭を掴めるだろう足に付いた大鎌の様な鉤爪を振り下ろした。
「全員掴まれ!」
レイルの言葉に各々が竜の鱗を掴む、翼を使って急降下する事で鉤爪から逃れるが巨大な翼を翻してロック鳥は再びレイル達に狙いを定めた。
「くぅっ!?」
「きゃあっ!?」
ロック鳥が巨体を使った体当たりを避ける度に衝撃で竜の体勢が崩れる、持ち直して飛ぶ頃にはロック鳥も体当たりの体勢を整えて突撃してくる。
「くそ!」
「レイルは避けるのに集中して!」
セラがそう言うと同時にロック鳥が突撃してくる、レイルがタイミングを測って竜を動かすととセラがロックに向けて杖を翳した。
「“炎の嵐”!」
杖の先から放たれた炎がロック鳥に襲い掛かる、だが衝突した炎の嵐を突き破ってすれ違ったロック鳥にはダメージを負った様子は見受けられなかった。
「…体を覆う羽根を魔力でコーティングしてる、生半可な威力は通用しないみたい」
「そうらしいな」
眼に魔力の光を灯しながらセラはロック鳥を見る、ロック鳥は羽根に込めた魔力を突撃の際の推進力に変えたり鎧の様にしていた。
「…セラ、俺の代わりに竜に魔力を注いでくれるか?」
「分かった」
ロック鳥が再び上空に昇るのを見ながらレイルはそう言うとローグに向き直る。
「ローグさん、次奴が来たら…」
「何?」
―――――
ロック鳥がこれまでよりも更に高所からレイル達を捉える、そして翼をはためかせ嘶きをあげながら急降下した。
魔力をジェット噴射の様に放出して更に速度を高めてロック鳥はレイル達に突撃する、視認するのも難しかった距離が急速に縮まっていった。
「今だ!」
「…だらぁっ!!」
強化した眼でロック鳥の姿を捉えたレイルはローグに向けて跳ぶ、ローグが打ち上げる様に下から戦槌を振るうとレイルは戦槌の面に跳び乗って打ち出される様に跳んだ。
戦槌によって打ち出された衝撃と『天脚』を合わせてロック鳥に高速で向かうレイルは剣に魔力を込めて巨大な刀身を生み出す、そして迫るロック鳥の頭に叩き込んだ。
凄まじい衝突音が響き渡る、ロック鳥の頭には半ばほど刃が喰い込んだ状態で止まり、ロック鳥の嘴から唸り声の様な音が鳴る。
「“轟火…」
レイルが更に魔力を込めると刀身が紅い炎に変わっていく、炎の刃は周囲に空気を吸い込んで激しく燃え上がり峰から勢い良く噴き出した。
「裁剣”!!!」
炎の刃がロック鳥の硬い頭蓋を斬り裂くだけに留まらず魔力に覆われた羽根を焼きながらその巨体を縦に斬り裂いた…。




