44:開戦
宣戦布告から七日後、王都の外壁には連合軍が布陣して身構えていた。
山岳地帯から地響きの様な音が響いてくる、やがて地平の向こうから黒い影が現れ広がり始めていた。
影はまるで大地を飲み込んでいくかの様に広がっていく、やがて影の正体は遠見の魔術を習得した斥候達の眼に映った。
混合獣に血塗れ狼、小鬼騎手といった機動力の高い魔物達が地面を踏み荒らしながら迫る、更に後ろにはオーガやオークといった人型の魔物達が完全武装して続いていた。
「上からもか…」
レイルが呟きながら空を見上げるとそこには鳥や虫といった翼や飛行能力を持つ魔物達の影が確認できた。
「今更だけど準備は良い?」
フラウがレイル達を見ながら問いかける、四人が頷くのを見るとフラウは詠唱を始めた。
「“汝は灼光の卵より孵りし者、黄金の体と紅の翼を持つ者”」
詠唱と共にフラウの全身から火の粉の様な光が浮かび上がる、膨大な魔力が渦巻くと共に周囲に熱風が吹き荒れる。
「“天上の神々に挑み太陽を任された者よ、今こそ紅き翼に乗せて汝が主の日輪の輝きを疾く運びたまえ”!!」
火の粉と共に魔力がフラウの頭上へと昇っていくと魔力は紅い輝きと共に広がっていく、やがてそれは神々しい鳳の姿を形成した。
「“紅陽の神鳥”!!!」
フラウの詠唱が終わると同時に鳳は嘶きの様な音を響かせて飛翔する、翼から放たれる紅炎が空に視認できた魔物達を焼き払いながら地上の魔物達のど真ん中に突っ込んだ。
鳳が突撃した瞬間、炎の嵐が吹き荒れ熱風が陣を敷いていた兵士達にまで届く、風が止むと鳳が落ちた場所には隕石が墜ちたかの様なクレーターと焼かれ吹き飛ばされた魔物達があった。
「相変わらず無茶苦茶な…」
「頼もし過ぎるわぁ…」
レイルとシャルは呟くが同時に被害から逃れた魔物達がこちらに向かってくる、更には魔物達の大群は未だその後ろから尽きる事なく迫っていた。
「“顕獣疾駆”!」
レイルが詠唱すると雷火の竜が顕現する、その背にレイル達は乗り込むと竜は翼を拡げ羽ばたいた。
「先生、いってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
フラウは微笑みながら飛び立つセラとレイル達を見送る、レイル達が光の尾を引きながら空を飛んでいくとフラウは魔物達に向き直る。
「行きましたか…」
フラウの隣に錫杖を手にしたライブスが歩み寄る、ライブスの瞳には雷火竜に乗ったレイル達の後ろ姿が映されていた。
「思う所でもあるの?」
「まぁそうですな…手は尽くしましたが結局は彼等に重い役割を背負わせてしまった、その事に己の力不足を思い知らされます」
ライブスが普段の微笑みをやめて憂いを帯びた表情を浮かべる、それを見たフラウは鼻で笑うと口を開いた。
「自惚れるんじゃないわよライブス」
「フラウ?」
「いつまでも私達が背負うだなんて出来ないわ、これから先あの子達はこれから多くのものを背負って生きていかなきゃならない、それが今来ただけの話よ」
「…」
「もう守られてるだけじゃない、あの子達は自分で考えて、自分で選んで、自分で戦おうと前を向いた、私達がやるべきは憂うのではなくてあの子達の後押しする事、それが先に生まれた大人の仕事でしょう?」
フラウの言葉にライブスは少しの間だけ聞き入るといつもの微笑みを浮かべる、錫杖を握り直しながら魔物達の方へ向き直った。
「やはり持つべきは友ですな、この歳になっても己の間違いに気付かせてくれる」
「ふん…」
「フラウ、貴方は魔力を練り直してください、その間は私が引き受けましょう」
「出来るのかしら?」
「ふふ、そうですな…ミリオの様に言うならばこうでしょうかな」
ライブスの足下に白い魔方陣が浮かび上がる、それは次第に広がっていき魔方陣からは神聖さを感じさせる淡い光が放たれる。
「私が生きている限り、何者も通しはしませんよ」




