43:発破
「…それは将軍や副将がやるものでは?」
突然振られた話に若干戸惑いながらも返すとエリファスは微笑を浮かべながら口を開いた。
「普通はそうですが是非とも頼みたいんですよね、今のレイル殿ならばかなりの効果があると思いますから」
「効果、ですか?」
セラが首を傾げながら呟くとエリファスは流れる水の様に話し始めた。
「まずレイル殿は王国兵からはゾルガ将軍との模擬戦や独眼巨人との戦いでかなりの評価を得ています、帝国からも黒騎団を壊滅させる力を持った奇跡を三人も倒したという事で貴方は一目置かれているのですよ」
「いや実際に倒したのは…」
「広義に解釈すればそうなりますから、それに加えて先日のクロムバイトとの戦いはあの場にいた全員が見ていたんです、あのアスタルツを滅ぼした強大な竜を倒す所をね」
エリファスは眼下の兵士達を見ながら話し続ける、その中には姿を見せたレイルに対して敬意を込めた眼で見る者もいた。
「今やレイル殿は兵や冒険者達にとって英雄と言っても差し支えないでしょう、そんな貴方から激励を受ければ兵達の士気が上がるというものです」
エリファスの話にレイル自身が驚いていた、評価や地位に興味などなかった筈なのにいつの間にそうなったんだと思わずため息をつきそうになってしまう。
「…理由は分かりましたがそれでも陛下の後というのは荷が重い気がします」
「前向きならなんでも良いんですよ、最前線に立つ者が前向きなら後に続く者も自ずと前を向くものですよ」
「…陛下と皇帝が許して頂けるならやりましょう」
却下されると思いそう提案したレイルだがその後に現れたウェルク王達から異口同音で許可が下りたのでレイルは兵達の激励を行う事になった…。
―――――
「それではこれまでのバニス教団との戦いの要となってきた冒険者、レイル殿より激励があります」
王達からの激励がつつがなく終わると司会進行を行っていたエリファスが魔導具から離れてレイルに譲る。
(何を言えば良いのか…)
レイルは魔導具越しに集まった兵士達を見据える、その中に二国の兵装ではない者を見掛けて此処に集まった中には志願した冒険者や住民もいるのだと聞いたのを思い出した。
(彼等が戦う理由は…)
志願した者達の眼を見てレイルは思い浮かべていたありきたりな台詞を仕舞い込む、そして魔導具に向けて言葉を発した。
「この場に集まった者の中にバニス教団に大切なものを奪われた者はいるか?」
レイルが発した言葉に多くの兵士達がどよめくが幾ばくかの者が反応を示した。
「奴等は俺達の事をただの供物程度にしか考えていない、ここで止められなければ奴等は俺達も俺達が大切に思う者達も踏みにじっていくだろう」
レイルの言葉に今度は集まった者達全員が息を呑む、どよめきが治まり全員が固唾を飲んでレイルを見ていた。
「お前達はそれで良いのか?奴等に大切なものを奪われ続けながら誰かに奴等を止める事を期待するのか?奴等を倒せる俺や他の誰かに全部任せても良いのか?」
「…良い訳があるか!」
集まった者の中から一人の男が声を上げる、声を上げた冒険者の男は眼に強い怒りの輝きを宿していた。
「奴等に俺の相棒は殺された!馬鹿だったがあんな奴等に殺されて良い奴じゃなかった!あいつの仇を討ってやらなきゃ浮かばれねえ!!」
「そうだ…俺だって子供を殺された、まだ十にもなってなかったんだぞ!?」
「俺だって恋人を…」
ぽつりぽつりと声が上がる、各所から上がるそれは大きな怒号となって沸き立つとレイルは一際感情を込めた声で叫んだ。
「だったら戦え!!!」
「「「っ!?」」」
「これ以上奪われたくないなら戦え!お前達が守りたいものはお前達が守れ!奪われたなら取り返せ!取り返せないなら奪われたものがどれだけ大切だったか奴等に思い知らせろ!!!」
レイルの竜の咆哮に匹敵する叫びが王都に響く、だがそれは身をすくませるものではなく各々の自尊心を煽るものだった。
「自分の大切なものを会った事もない誰かに任せるな!お前達の手は大切なものを守る為の!自分を貫き通す為の武器を持てるだろう!?」
「当たり前だ!」「言われるまでもねぇ!」「その為に兵士になったんだ!」「これ以上奴等の好きにさせてたまるか!」
レイルが剣を引き抜き掲げると集まった者達も各々の武器を掲げる、その場に集まった全ての意志すらひとつに集まっていた。
「なら戦え!!!」
「「「戦え!!!」」」
「取り返せ!!!」
「「「取り返せ!!!」」」
「大切な者達と共に在る世界を勝ち取るぞ!!!」
「「「おぉ――――――――――――っっっ!!!!!!」」」
天を衝くかの様に響く鬨の声を背にレイルは下がる、下りてきたレイルをエリファスは拍手で迎えた。
「予想以上の成果です、やって正解でしたね」
「フォローする必要はなかったな」
「フリック、こいつ俺にくれねえか?黒騎団の団長に迎えてえんだが」
「儂の配下ではない、勧誘は本人にするがよい」
「見事な激励でした、レイル殿」
周囲が口々に言う中、勢いに任せてとんでもない事を言ってしまったと今更になって羞恥心が襲ってきたレイルの傍にセラが寄り添う。
「…カッコ良かった」
「…ありがとな」
羞恥心とは別にレイルの顔は紅くなった…。




