42:開戦前
「如何ですかな?」
白髭を伸ばした老人にレイルは問われる、その腕と脚には黒く輝く手甲と脚甲を装着していた。
レイルは装着した状態で軽く動いたり剣を抜く動作を行う、ひとしきり終えて感心した様に息を吐くと老人に向き直った。
「見た目に反して動作に何の支障もない、この戦闘衣もですがこれ程のものを作って頂きありがとうございます」
レイルはそう言って老人に頭を下げる、老人はウェルク王国一の武具職人でありレイルが今着ているエルグランドの鱗から作られた戦闘衣とクロムバイトの鱗から作られた防具を作った人だった。
「礼を言うのは私の方ですぞ、生きている内に二度も古竜の素材を使って武具を作れるという機会を与えてくれたのですからな」
久々に休まず手を振るえた、と笑いながら言うと老人はレイルに表情を改めて向き直った。
「もはやこの老いぼれ思い残す事はありませぬがレイル殿達は違いまする、私が作った武具がレイル殿の道を開く助けとなるならば私にとってそれこそ至上の誉れなのです」
「誉れ…」
「ええ、ですので礼をと言うならば生きて、そして勝ってくだされ、それがなによりの礼となります」
御武運を、そう言い残すと老人は兵士に案内されて後にした。
―――――
「良く似合ってる」
「ありがとう、セラも似合ってるぞ」
装いを新しくしたレイルにセラが飾らぬ称賛を贈る、セラが身に纏っている法衣も元々着ていたのをベースに仕立て直したものになっていた。
二人で王城のテラスに向かうとそこにはシャルとローグが、そしてゾルガとエリファスが来ており王城の前には大通りどころか見渡す限りの二国の兵士達で埋め尽くされていた。
「こうして見ると圧巻だな…」
「一万五千の兵に志願した冒険者達の連合軍だもの、私もこんな光景見るのは初めてよ」
「今から戦前の王からの激励と聞いたんですが…これだけの人達に声届くのですか?」
「ああ、それならば問題ない」
レイルが浮かべた疑問に対してゾルガが指を指しながら答える、そこには床に立てられた杖の様な魔導具が鎮座していた。
「あれは風の魔術が込められた魔導具でな、あれに向かって声を掛ける事で各所に設置された魔導具から声が届く様になっている」
「それは、凄いですね…」
「魔導具も戦闘以外の用途があるという事だな、これは試作段階で離れた場所には届かないそうだが完成したものがアスタルツにあれば侵攻をいち早く察知できたかも知れんな…」
ゾルガがどこか憂う様に呟く、だが気を取り直してレイルに向き直るとどこか悪戯めいた笑みを浮かべた。
「まあ声は兵達全てに届くという訳で心配はない、なんならレイル、ウェルク王の後に君から激励でもしてもらえんかね?」
無茶ぶり




