40:垣間見える真意(バニスside)
「クロムバイトが負けた、か…」
アスタルツ城内を歩きながらバニスは呟く、顎に手を添えながら思案する彼は誰に聞かせる訳でもなく呟いた。
「全盛期の肉体を再現した筈なんだけどな…状況からして邪魔が入ったとも考えにくい以上レイルとセラだけでクロムバイトを倒したというのか…蛇蠍の魔王ムシュフシュを喰い殺したあのクロムバイトを」
一人呟きながら歩くバニスはやがて口角を上げる、まるでそうなる事を予測していたかの様な予想していた事が的中したかの様な笑みだった。
「もはや魔王級のものすら彼等は超え始めてきたか、ゼルシドといいレイルといい…脆弱な人から生まれながら良くその域まで強くなれるものだね」
長い廊下の先にある地下へと続く階段を降りる、灯りもない暗闇に塗り潰された階段を降りながらバニスは笑う。
「やはり次の段階を用意したのは正解だったね、ここまで追い込んだ以上彼等は必ず私の所まで来るだろう」
階段の先にある扉を開く、開けた瞬間扉の奥からは常人なら顔をしかめて鼻を抑えてしまうくらいの獣の臭いが溢れ出るがバニスは苦もなくその空間へと入った。
そこは牢屋だった、かつてアスタルツで表沙汰に出来ない事をした者や危険な人物を捕らえていたそこは今や格子の向こうには様々な姿形をした者や魔物達が死んだ様に蹲ってるのもいれば格子を掴んで牙を剥くのものもいた。
悪臭と獣の様な声が響く中バニスは悠然と歩く、そして最奥の牢屋へと着くと格子の先にいる者へと話し掛ける。
「やあ、調子はどうかな?」
「…」
「相変わらず無口だね、その体はそんなに気に入らないかい?」
「…気に入ると思ったのか?」
格子の先にいる男が少しだけ体を動かしながらバニスを見る、体中に繋がれた鎖を鳴らしながら響いた声はひどく潰れていた。
「…ろくに食う事も出来ん体にしておいてふざけた事を抜かすなよ?」
「ふざけたつもりはないのだけどね?」
「…用件はなんだ?」
「いやなに、そろそろ試運転してみようかと思ってね」
「?」
訝しげな視線を送られたバニスは柔和な笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「三日後、此処に私を殺そうとしてくる者が来る、君達はその相手をしてもらいたい」
「…君達?」
「彼等が努力の甲斐あってようやく安定してきたんだ、君に従う様に調整したから彼等と一緒にやってくれたまえ」
「…良いだろう、だがひとつ聞かせろ」
「答えられる事なら」
男は鎖が床を擦る音を立てながらバニスを見る、黒い宝玉に金の環が入れられたかの様な人外の眼で。
「貴様は何がしたい、俺を化物に変え、人でも魔物でもないものを造ってまで何をするつもりだ?世界征服でもするつもりか?」
男が発した問いに少しの間だけ沈黙が下りる、騒がしかった獣の声が何故か静まり返った。
「…私が何をしたいのか?決まっているとも」
バニスの笑みがより一層深まる、もはや自分の死すらどうでも良くなっていた男は目の前の笑みを浮かべる者に久しく感じていなかった悪寒が背中を走った。
「私はね、私の好きなものを見たいだけだよ」
予約投稿にし忘れたorz




