39:違和感
「フラウ先生」
合議を終えたレイル達は各自で準備の為に散開するがレイルとセラはフラウを呼び止める、ちなみにレイルとフラウは既に和解しておりレイルもセラに倣ってフラウを先生と呼ぶ様にしていた。
「どうしたの?」
「…奴等に関して少し疑問というか聞いてみたい事がありまして」
「…わかったわ、私の部屋に来なさい」
そうしてレイル達はフラウに宛がわれた部屋へと入る、部屋の中は必要なスペース以外は紙束や本、実験用の魔石や器具等で埋め尽くされていた。
「それで、何を聞きたいの?」
お茶を飲む為のテーブルを囲う様にして座るとレイルは自分の中にふと浮かんだ疑問を口にした。
「奴等は…バニスは本当に俺達を滅ぼそうとしてるんですか?」
―――――
「…そう思った根拠を聞かせてもらえる?」
一瞬の沈黙の後にフラウはそう問い返すとレイルは自分の違和感を話し出した。
「俺は今までバニス教団は狂信者の組織だと思ってました」
「実際そうでしょう」
「そうなんですが…思念体とはいえ直に見たバニスは今までと何かが違う気がしたんです」
「…違うって何が?」
セラの問いにレイルはこれまで会ってきた奇跡達を思い浮かべながら答えた。
「眼が違うんだ」
「「眼?」」
「師匠はともかく今まで会った奇跡はその思考が理解し合えない…そう分かるくらい狂った輝きがあった、思考を誰かと共有する気なんてない、願望の為に全てを犠牲にしても構わないと分かるくらいの…」
「…確かにアステラの眼は今でも忘れられない」
セラは最初にアステラと会った時の事を思い出す、今までも悪意に晒された事はあったがアステラのそれはそのどれとも違った。
「だけどバニスは違う、奴の眼は狂ってなかった、どこまでも理性的で今までの誰よりも正気に思えたんです」
「…それがどうして最初の問いに繋がるの?」
レイルの話にフラウは確認するかの様にレイルに問う。
「最初に違和感を持ってから奴等の今までに疑問が浮かんだんです、アステラもバスチールも狂ってはいたがバニスへの忠誠は本物だった、バニスの命令なら奴等は喜んで自害すると思えるくらいに…」
「…ん、確かに事ある事に主とか言ってた」
「なのになんでバニスは今まで奴等に、それこそ40年前に具体的な指示をしない?」
「指示…」
「アスタルツをあそこまで完璧に攻め落とせるならそれこそ奴が始めから主導していれば新たな奇跡を生み出すのもウクブ・カキシュの完全復活も実現していたかも知れない、なにより…」
レイルは言葉を区切ると最も疑問に浮かんだ事を口にした。
「民が欲しいと言うなら猶予など与えずに攻めれば良いだけの話だ」
「…待たずに攻め入って直接力を誇示して帰依を迫れば良い、という事よね?」
フラウの言葉にレイルは頷く、フラウは椅子の背もたれに寄りかかりながら答えた。
「戦力があるなら勢いのままに攻めれば良いのにしなかった、私も最初は猶予というのは虚偽だと思っていたのだけど違った、クロムバイトが独断専行したとしてもそれに乗じて動かなかった、バニスは本当に私達に猶予を与えている…」
フラウはふぅとため息を吐くと椅子に座り直してレイルに向き直った。
「私も疑問に思ってたのよ、そもそも奴等は矛盾しているもの」
「矛盾?」
「バニス教団の理念は“魔物は神の怒りであり罰である、魔王は神を降ろす依代”だっていうのは貴方達も分かってるでしょ」
フラウの問い掛けにレイル達は頷く、フォルトナールでゾルガ将軍から聞かされたものだった。
「魔王を崇拝するというならその魔王を倒す為に顕れる聖具はむしろ教団には忌むべきものじゃない?」
「!」
「…確かに」
「…教団に属する者は聖具を知らなかったのかも知れないけど少なくともバニスは聖具がなんなのかを知っていた筈よ、でなければ今までやってきた使い方が出来る理由が思いつかないもの」
「「…」」
思わず二人して黙り込んでしまう、フラウはパンと手を叩くと切り替える様に口を開いた。
「これ以上はやめておきましょう、話しても全ては憶測でしかない以上水掛け論にしかならないもの、今は私達が出来る事をしましょう」
フラウの言葉にレイル達は頷いて部屋を後にする、だが廊下を歩きながらもレイルはゼルシドが残した言葉を思い出しながら考えていた。
(…この戦いもバニスにとって実験でしかないのか?)




