35:潰竜の最期
閃光が治まると『天裂穿牙』によって生じたクレーターの中心にレイルはいた。
レイルはクロムバイトに突き立てた永劫争剣を引き抜く、クロムバイトの胸の傷は焼け焦げており引き抜いても血が出はしなかった。
「ぐう...」
レイルは軋む身体を動かしてクロムバイトの上から降りる、地面に降りると膝をついて息を吐き“竜血魔纏”による再生を始める。
するとレイルの頭上に影が下りる、ハッとして顔を上げると起き上がったクロムバイトがレイルを見下ろしていた。
(まずいっ!?)
度重なる消耗によって身体を即座に動かせないレイルに向けてクロムバイトは顎を開くが次の瞬間、苦悶の声と共に血を吐き出した。
吐き出された血がレイルに降り掛かる、直後にレイルの真横に再び横たわったクロムバイトの顔があった。
「か、か…牙を……立てる事すら…叶わぬか…」
口の周りを血で汚しながらクロムバイトはレイルに眼を向ける、その輝きの弱さが魂の灯火が消えかけている事を物語っていた。
レイルの背後にエルグランドが顕れる、淡い光を纏ってレイルの傍に立つとクロムバイトは笑みを浮かべた。
「見事だ…エルグランド……そして、レイル…この我を…喰らう…とはな」
「…お前に勝てたのは俺とエルグランドだけの力じゃない」
レイルには傍にいると誓ってくれたセラがいた、自らが前へと進む為に戦う事を選んだイデアルがいた、イデアルの思いに応えたアスタルツ王達の魂があった。
どれかひとつでも欠けていたら、レイルの剣がクロムバイトに届いていたかは分からなかった。
「お前は俺達に負けたんだ、お前が弱者と蔑んだ者達がいたからこそ俺達は勝てたんだ、クロムバイト」
「か、かか…」
レイルの言葉にクロムバイトは血を吐きながら笑う、自らを見下ろすレイルとエルグランドを見て更に笑みを浮かべた。
「かか…か、なるほど…それが…人の…力か…我を喰らうに…至る、人の…」
(二度の死を経てようやく至ったか、愚か者めが)
「か、かか…」
クロムバイトはひとしきり笑うとレイルへと眼を向ける、そして徐に口を開いた。
「かか…ならば…我からも、貴様に…残すと…しようか」
「?」
「レイル、貴様は…いずれ竜になるだろう」
そうクロムバイトの口から放たれた途切れとぎれの言葉はやけにレイルに耳に響いた。
「戦って…分かったぞ、貴様は…我と同じだ…強さを求め、闘争を求め…己が存在を、証明せずには…いられぬ…」
「…」
「貴様のその力は…人に納まりはせぬ…遅かれ、早かれ…より強靭な、器へと…変容するだろうなぁ…」
クロムバイトはエルグランドを見据える、その瞳には羨望の色が浮かんでいた、
「エルグランド…貴様を初めて…羨むぞ…これほどの…者の行く末…間近で…見れるのだから、な…」
(貴様…)
「かか、天に…連なる…者と…戦えは、しなかったが…悔いは…ない」
クロムバイトはそう言い残すと動きを止める、その瞳からは輝きは完全に消え去った。
「いずれ竜になる、か…」
レイルはクロムバイトが残した言葉を口ずさむ、再生を終えて立ち上がると統率を失った竜達が戦場から離脱していく姿があった。
(レイル…)
「大丈夫だ、エルグランド」
勝ち鬨の声が上がり、戦いの終わりが告げられる中でエルグランドの呼び掛けに答える、クロムバイトの背に刺された剣を引き抜きながらレイルは言葉を続けた。
「どうなるかなんて分からない、だけどもう決めた事だ」
剣の血を払って納める、踵を返してこちらへ向かってくるセラ達の方へと歩きながら答えた。
「最強の剣士になる、他はどれだけ迷ってもこの道だけは絶対に揺るがない…そう決めたんだ」
そう言い切ったレイルの背を見たエルグランドは少しして静かにレイルの剣の中へと戻っていった…。




