33:受け継がれた魂
この世界に置いて魂に関わる術は少ない。
理由は幾多もあるがその最たるものはそもそも魂に関わる術を使える者が少ないというのがある。
物理現象ならばともかく精神や魂といったイメージを捉えがたいものや知覚しにくいものは通常の魔術で再現しようがないからだ。
高位の光や闇の魔術ならばそれらに関わるものも再現できるがそれを使える様になるには莫大な時間と努力が必要になる。
何より魂に関わる術は扱える様になったとしてもそれを伝えれる者、その術を扱える資質を持った者がいなければ受け継ぎ様がない。
故に降霊術や祈祷術といった生まれ持った希少な資質を必要とする術の多くは大戦の影響もあって失伝しまっているのが現状だった。
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「誇り高き先達の魂達よ!力を貸してくれ!」
イデアルの周囲に顕れた鎧の巨漢が大剣を手に走る、それに続く様に戦装束に身を包んだ魂達がクロムバイトに向かっていった。
「ぬああっ!!」
クロムバイトが尻尾から魔力を放出しながら薙ぎ払う、それによって魂達は蹴散らされるが再び体を構成させると各々の武器を突き立てた。
クロムバイトに群がる様に魂達は立ち向かっていく、槍を持つ魂が鱗の間に槍を突き込み、剣を手にした魂が脚に刃を振るった。
魂達の正体は知覚の継承によってイデアルに宿っていた歴代アスタルツ王達だった、初代の王であり偉大なる祈祷士であるアラシアの術理がイデアルの資質と意志と結びつき、自らの内にある魂を具現させた。
それぞれの一撃はクロムバイトの命を左右するほどのものではない、さりとて無視できるほどのものではない事がクロムバイトを苛立たせた。
「この…雑魚共がぁっ!!!」
クロムバイトが怒りのままに魔術によって衝撃波を放つ、衝撃波に魂達は吹き飛ばされて散るがその直後にレイルが発動した直後を狙って灼刃を振るった。
クロムバイトは片腕で庇うが鱗を裂いた刃は喰い込んで肉を焼きながら半ばまで断つ、牙を噛み締めながらクロムバイトは魔力で作り出した腕でレイルを下から殴りつける。
「吹き飛べぇっ!!!」
寸前に剣で防いだレイルを重力魔術によって重力を真上へと反転させて吹き飛ばす、高速で空へと墜ちていくレイルの真上には雷が渦巻く雷雲があった。
「やつが生み出した雷に焼かれるが良い!!!」
雷雲に突っ込むレイルに向けてブレスを放とうとした瞬間、クロムバイトの焼かれた眼を光線が穿ち凍てつかせていく、見れば翼が半分ほどまで縮小していたセラが杖を構えながら周囲に“第四円”を幾つも展開していた。
それと再び体を構成した魂達が向かっていく、クロムバイトはそれらに意識を割かざるを得ず歯軋りを響かせながら応じる。
「ぐっ、うぅ…っ!!」
イデアルは苦悶の表情を浮かべながら踞る、今まで感じた事のない魔力の枯渇に襲われ今にも意識を失いそうだった。
まだだ、まだ倒れるなよ我が後継よ
イデアルの意識、いやすぐ傍から声が響く、顔を向けると独特の装束に身を包み獣の頭蓋が嵌められた杖を持った男がいた。
「アラシア…様?」
我を始め、皆お前の意志に応じて顕れた、そのお前があの竜を倒す前に倒れてはならぬ、そして見届けるのだ
アラシアの魂は上空の雷雲へと顔を向けた。
お前が託した者が竜を討つその時を
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雷雲の中へと入ったレイルの周囲を荒れ狂う雷が走る、だが雷は一筋たりともレイルに当たる事はなかった。
「…エルグランド」
雷雲の中でレイルが呟く、それに呼応する様に雷が一際激しく輝いた。
「準備は良いか?」
(ああ、やつを打ち砕くには充分であろう)
周囲からエルグランドの声が響く、レイルはそれを聞くと“竜血魔纏”を発動させて半竜人となった。
「これで決めるぞ、エルグランド!!!」
(おうっ!!!)
レイルが剣を掲げる、すると雷雲の雷が掲げられた剣に集まっていく。
納まり切らずに溢れ出した雷はレイルが構えると戦場全てに届くのではないかと錯覚するほどの雷光と轟音が鳴り響いた。
剣を包み込む雷光が獲物に喰いつこうとする竜の様に荒ぶった…。




