31:削り合う
「まずはエルグランド!次は貴様だレイル!!」
エルグランドの消失を見届けたクロムバイトはレイルに向けて吠えるが高速で目前まで迫ったレイルが剣を振り上げていた。
「竜剣術『灼咬』!」
剣から溢れだした魔力が炎へと変換される、刃は放出された炎と共に紅蓮の軌跡を描いて振り下ろされてクロムバイトの眼を斬り裂き傷口を焼き焦がした。
「ぬあっ!?」
思わず斬り裂かれた眼を押さえたクロムバイトの鼻先をレイルは『天脚・衝』で蹴り飛ばす、たたらを踏んで後退したクロムバイトを金色の眼で睨みながらレイルは口を開いた。
「傷口が塞がっていると再生が出来ない様だな」
「!」
「最初の時も雷に打たれた時も、お前は焼けて塞がった傷を削り落としていた」
炎の熱によって紅く輝く剣を構えながらクロムバイトとの距離を詰める、そして地面を砕くほど踏み込んで肉薄した。
「なら…傷を開く間もなく焼き斬ってやる!」
「かか!やってみろレイル!!」
灼刃と黒爪が閃く、クロムバイトの周囲を縦横無尽に跳び回りながら剣を振るうレイルに対してクロムバイトは巨体を俊敏に動かして片腕に尻尾と全身を駆使してレイルを叩き潰そうとする。
振るわれた尻尾を跳んで避けたレイルは尻尾を斬り落とそうと上段に構えるがその瞬間クロムバイトの黒爪が迫る、だが黒爪がレイルを斬り裂く寸前に地面から出現した巨大な氷塊が腕を抑えつけた。
レイルはそのまま地面を打ちつけた尻尾に剣を振り下ろす、一際強い力と炎が込められた刃は鱗と骨を斬り裂いて長大な尻尾の三分の一を斬り落とした。
氷塊を砕いて爪が振るわれるが素早く後ろに跳び下がって避けたレイルの口から白い息が出る、見れば周囲には霜が降りていた。
「遅くなった…」
「いや、むしろ助かった」
レイルの頭上からセラが声を掛ける、“氷獄王”を展開して氷の翼をはためかせたセラはクロムバイトの周囲から数百にも及ぶ氷柱の槍を放ちながら牽制する。
クロムバイトは氷柱の槍を煩わしそうに払いながら魔術を構築しようとするが再び接近したレイルに気付いて断たれた尻尾を振るって弾き飛ばす。
その間も降り掛かる凍気と氷の嵐に対して体中を流れる竜の血をマグマの様に沸き立たせながら高熱を纏ったクロムバイトは愉悦と歓喜を抑え切れないとばかりに顔を歪めた…。
―――――
激しい戦いの音が王城にまで届く、その一室から戦場を見ている少年がいた。
(戦っている、兵も…騎士も…冒険者も)
戦場でも一際激しい戦いを繰り広げている黒竜が目に映る、先程まで白く燃える竜と争っていた黒竜は鈍色の衣を纏った剣士と翼を生やした魔術士と凄まじい戦いを繰り広げていた。
(私は…このままで良いのか?)
少年は窓枠を掴む手に力を込める、その胸中では継承した知識と理性が自分を抑えていた。
(私では…戦場に出ても足手まといだ)
そんな事は分かっている、あの場に未熟な自分が行けば十中八九死ぬだろう、だが…。
(進めるのか?このまま何もしないで、私は呑み込めて生きれるのか?)
受け継いだ知性と理性が、先代達の霊が周囲で止めている様に見える、この場にいる事が最善の道なのだと。
だが、思案する少年の頭の中にひとつの記憶が甦る、それは自分に一人の人間として向かい合ってくれた者の背中だった。
彼もまた自分と同じく大切なものを奪われ失った者だった、それでもその痛みを飲み込み乗り越えて立ち上がり、あの恐ろしい黒竜を相手に一人で戦って退けた。
(自分はどうだ?)
あの背中から、自身の傷を理解してくれた彼から何を教わった?今自分がしなければならない事は…否、自分がしたい事はなんだ?
(私は…っ!)
傍らに置かれた曲刀を掴んで部屋を出る、理性が訴える最善も理屈も捩じ伏せて少年は走る。
(何もしないまま!一矢報いる事も出来ないまま呑み込んで生きるなど!出来るものか!!)
国を奪われた、支えてくれた配下を失った、尊敬していた父親を殺された、それに加担して嘲った者に何もせずにいる自分を許す事など出来ないと自身の心が叫ぶ。
…それが汝の意志か。
頭に響く理性の訴えの中にそんな声が紛れていた気がした…。




