27:激化する戦場(複数視点)
「か…かか…かかかか!!お前達は!お前達はどれだけ我を喜ばせれば気が済むのだ!?」
クロムバイトがわなわなと体を震わせて叫ぶ、歓喜に身を震わせる体はミキミキと音を立てて大きくなっていき鱗もより鋭利になっていった。
「滾る!血潮が泡立つ程に滾り火がつかんと思えるくらい熱が体を駆け巡っておるわ!!今ならば我を甦らせた奴に礼のひとつも惜しくないぞ!!!」
クロムバイトの口に魔力が集約していく、それに対抗する様にエルグランドも口に魔力を集約する。
そしてエルグランドの口から極光のブレスが放たれ、クロムバイトの口から漆黒のブレスが放たれる、極光と漆黒は衝突して周囲に轟音と衝撃波を撒き散らしながら迫ぎ合う。
ふたつのブレスが弾け飛んだ瞬間、レイルとセラを背に乗せたエルグランドとクロムバイトは互いに飛翔して相対し咆哮を戦場に轟かせた。
―――――
「“紅炎波動”!」
戦場の空にてフラウは手から赤い炎の刃を放つ、刃は一斉に襲い掛かった飛竜を真一文字に斬り裂き、広がる炎は周囲にいたワイバーンの皮翼を焼いた。
墜ちていくワイバーンを尻目に竜が迫る、竜の口から炎のブレスがフラウの視界一杯に広がった。
フラウは全身から魔力を噴出してブレスから逃れる、その先にいた別の竜がブレスを放とうと口を開いていた。
「これでも…飲んでなさい!」
フラウが腕を振りかぶると手の平に圧縮した空気の塊が現れる、腕を鞭の様に振るって投げられたそれは竜の口に入り今まさに放たれようとした炎に反応して一気に燃え上がった。
肥大化した炎が喉で荒れ狂った竜は空中でもがく、フラウはその間に背後に回り込むと鱗の間に手を添えた。
「“鉄鋼断刃”」
詠唱と共に鱗の隙間フラウの手から現れた鉄鋼の刃が突き刺さり内部を貫く、刃はフラウの魔力によって内部で大きくなって竜の心臓を斬り裂いて胸から飛び出した。
断末魔を上げながら竜は墜ちていく、フラウはそれを確認しながらも周囲を見渡すと周りにはワイバーンと竜がフラウを囲んでいた。
「やっぱり竜種は面倒ね…」
そう愚痴を溢しながらフラウは再び魔術を構築し始めた。
―――――
「来るぞ!総員構えろ!」
地上では大盾を持った重装の兵士達が隊列を組んで竜の体当たりを受け止める、竜は顎を開いて一人に噛みつくと鎧ごと兵士を噛み砕いた。
その直後に後衛の魔術士達が協力して発動した大魔術が放たれる、巨大な岩の杭が竜の首に突き刺さり吹き飛ばした。
「やった…」
「ガアァ――――――――――ッ!!!」
貫かれた竜を踏みつけて別の竜が兵士達の前に現れる、二本脚で立ち上がった竜が兵士達にブレスを吐こうと口を開いた。
「ぼうっとしない!!」
兵士達の後ろから飛び出した黒い影が竜の前に踊り出る、影が突き出した刺突剣は鱗が少ない腹側を突き破って心臓を貫いた。
今まさに出ようとしていたブレスは影が直後に突き刺された刀によって顎が閉じられ周囲に広がる事はなかった。
「まだ来るわよ!生きたければ今は死ぬ気で戦いなさい!!」
刺突剣と刀を引き抜いたシャルは兵士達をそう叱咤すると戦場を駆ける、シャルの前に立ち塞がった竜が牙を剥くが迫る死の門をシャルは地面を滑る様に避けるながら腹に刀を突き立てた。
魔力の込もった刃は妖しく輝いて腹を縦に裂く、シャルが脚下を滑り抜けると血と臓物が流れ落ちながら竜は倒れ悶えた。
「引っ張り出して正解だったけど…」
シャルが使っている刀は妖刀と呼ばれる類のものだった、シャルが持つ魔導具の中でも一際強力な代物だったが魔力の消耗が一際激しいという欠点がある。
シャルが持つ武器で下位種とはいえ竜の頑丈な体に対抗できるのはこの刀しかなく、シャルはこの戦場に出てから使い続けていた。
「グオォ―――――――――――――――ッ!!」
「!?、しま…」
度重なる戦闘と魔力の消耗によって察知が遅れたシャルの背後から竜が襲い掛かる…。
その竜の頭が突如として地面に叩きつけられた。
「え?」
竜の頭には武骨な戦鎚が突き刺さっており、それが鱗と頭蓋を砕いて血で赤く染まっていた。
「…これ」
「危なかったなぁシャル」
しゃがれた低い声と共に戦鎚が引き抜かれる、そこには使い込まれた鎧と外套に身を包んだ顔に幾つもの傷痕がついた巨漢がいた。
「ギルド長に言われて来てみたら、随分面白い事になってんじゃねえか」
戦鎚を肩に担いだ巨漢はそう言って笑みを浮かべた。
名前だけは出てました




