8:騒然
フォルトナールのギルド職員はおっさんばかりです(悲しい現実)
『天竜の封窟』を出てから翌日、昨日の傷の具合を確認して体を動かすのに問題がない事を確認してから冒険者ギルドに入ると中の買い取りカウンターに向かう。
冒険者には稼ぎ方がふたつあり、ひとつはギルド経由で依頼を受ける。
もうひとつが倒した魔物の素材を買い取ってもらう事だ。
基本的に前者の方がギルドへの貢献になるから評価が得られるし、報酬も下手な素材を売るより貰えるから受ける冒険者は多い。
だがいまや名声や立場に執着がないレイルには日々を生きるだけの金があれば良いし、そもそもドラゴンの素材を売った金で半年は衣食住に困らない程度の蓄えがある故に買い取りだけでも問題はない。
「素材の買い取りを頼みたい」
「はいよ、んじゃそこの素材置き場に置いてくれや」
言われるままにダンジョンで倒した魔物の素材を置いていく、『白骨蜥蜴』の鱗や『竜骨兵』の骨などを出していき、最後に『フルフル』の首を置くと職員と近くにいた冒険者達の顔がぎょっとしたものになる。
「おい、それフルフルだよな?」
「?…そうだが」
「…誰かとパーティー組んでたのか?」
「単独だが」
そう答えると職員が眉間を揉みほぐす様な仕草をして唸ってしまう。
「フルフルは何度か討伐されてるだろう、なんの問題があるんだ?」
「…確かに討伐はされてるぜ、白銀級が所属するパーティーがぼろぼろになってな」
どこか呆れた顔をしながら職員は査定と買い取りをするから待ってろと言い残して素材を持って奥へと入っていく。
待ってる間、周囲がひそひそと話していた。
…おい、あれマジでフルフルなのかよ?
…一度やり合った事がある、間違いねえよ
…別の奴等がやったのを横取りしたんじゃねぇか?
…この街で今更あんなアガリの少ねぇ所いく奴がいんのかよ?
疑惑やら興味やら様々な視線が向けられる、ただ最初にギルドに来た時のアレもあってか直接聞こうとする者はいないようだ。
「待たせたな、こいつが買い取り金だ」
「…多くないか?」
「フルフルの素材は希少だからな、滅多に市場に流れない分高く出せるんだよ」
金の入った袋を受け取る、皮は売ってないからドラゴンの時の半分くらいだがそれでもかなりの金額になってる。
「おう、昨日の今日でやらかしてるじゃねえか」
声の方に向くとザジが声を掛けてくる、どうやら買い取りが終わるのを待っていたらしい。
「やってる事は他と変わらないと思うけどな」
「団体ならともかく単独でアレをやるのは普通じゃねえよ、出来るなら詳しく聞かせてくれや」
「…あぁ、金も入ったし一杯奢るよ」
そう言うとよっしゃと破顔したザジと共に酒場のカウンターの方へ向かおうとするレイルの目の前にアイスブルーの瞳があった。
「え?」
「…」
瞳の持ち主、セラがレイルの目の前に立ってこちらを見ていた、レイルの方が頭ひとつ高いためか少し見上げる様にしている。
「…やっぱり見間違いじゃなかった」
「え?」
「…彼、借りても良い?」
ぽつりと呟くと隣にいたザジにそう問う、ザジは一瞬ぽかんとした顔をするが慌てて首を縦に振る。
「そう、それじゃ行きましょう」
「え、おいどういう事なんだ!?」
セラに手を引かれてギルドの出口に向かう、状況が飲み込めないが慌ててザジに銀貨を投げてすまんとだけ伝えてギルドを後にする。
レイル達がギルドを出た後、フルフルを持ち込んだ以上の噂と騒ぎになったのは言うまでもない…。
...これ拉致では?(・・)




