26:レイルとセラ対クロムバイト
放たれたブレスを二手に別れて避けるとセラはクロムバイトの脚下を凍らせ、レイルが地面を蹴って『崩牙』を発動させて斬り掛かる。
「賢しいわ!」
クロムバイトは脚を覆った氷を砕きながらレイルに爪を振るう、爪は重力魔術によって黒く染まりレイルの剣とぶつかり合った。
黒刃と黒爪がぶつかり合った衝撃が風になって広がる、相殺して互いに弾かれるとクロムバイトの周囲に拳大の黒球が幾多も現れるとレイルに向けて放たれる。
「“潰矢の雨”!」
「“絶氷群盾”」
セラが詠唱するとレイルの前に幾層の氷の盾が展開される、黒球は氷盾をぶつかった箇所を抉り取るかの様に破壊していくがその間にレイルは剣に魔力を集約させて巨大な刀身を形成する。
「竜剣術『崩天爪牙』!」
最後の氷盾が砕けた瞬間に放たれた漆黒の三日月がクロムバイトに迫る、迫り来る斬撃にクロムバイトは爪に溢れ出る程の魔力を込めて振るった。
黒い軌跡を描いて振るわれた爪は斬撃と少しだけ拮抗するが斬撃を打ち消すとクロムバイトはレイルに視線を向けた。
「貴様等風に言うなら“重力断”、とでも言うべきか?」
「…俺の技を学んだのか?」
目の前で起きた事を分析しながらもレイルは『天脚』で上空に跳躍しながら剣を構える。
クロムバイトは翼を拡げて飛び上がり、レイルに向けてブレスを放とうとするがその直後に片翼を地上から放たれた光線が穿った。
「ぬっ!?」
穿たれた翼が音を立てて凍りついていく、だがクロムバイトは自らの血を励起させて熱を生じさせると翼を侵食していた凍気が消えていった。
だがそれによって生まれた隙にレイルは急降下してクロムバイトの頭に目掛けて剣を振り下ろす、察知したクロムバイトは体を捻るが剣は角を斬り落として肩から腹まで一筋の斬り傷を作った。
セラの傍に着地したレイルが上を見上げると傷を再生させたクロムバイトが“潰矢の雨”を再び発動させて解き放つ、降り注ぐ黒い雨をレイルとセラは斬撃と氷の矢で撃ち飛ばすが周囲に落ちた黒球は轟音を立てて地面を穿った。
「“絶凍牙竜”!」
レイルが黒球を捌いて防ぐ間にセラが魔術を発動する、上空に浮かぶクロムバイトの背後から氷で造られた巨大な竜の頭が現れて噛みついた。
(離れた位置に正確に魔術を発動するとは!)
本来であれば石造りの壁すら噛み砕くであろう氷の牙だがクロムバイトの鱗を貫く事は出来なかった、だが予期していなかった攻撃によって発動していた“潰矢の雨”が中断される。
黒球が止んだ事でレイルは再び跳躍してクロムバイトの目前まで跳び上がると『崩牙』を発動して振るうが間に入り込んだ腕に防がれる。
鱗を断ち、肉を裂いた剣は骨まで届くが『崩牙』を以てしても斬れない、だがレイルは片手でクロムバイトの腕の鱗を掴むと空中で側転する様に身を翻して腕を越えてクロムバイトの鼻先に蹴りを叩き込む。
「『天脚・衝』!」
「くおっ!?」
脚先から放たれる衝撃がクロムバイトの頭を仰け反らせる、その状態からも目をこちらに向けるクロムバイトに追撃しようとするが真下から尻尾が槍の如く迫った。
尻尾を剣で受け止めるも打ち上げられる様に空中に放り出されたレイルの頭上に今までのより大きな黒球が出現する。
黒球がレイルに向かって落ちるがレイルとの間に展開された氷の盾に衝突する、黒球が周囲の重力を歪めて高速で落下する寸前にレイルは宙を蹴って発生した重力圏から逃れて着地する。
クロムバイトも体勢を整えて降り立つとレイル達に向き直ると顔を歪めて笑みを浮かべた。
「かかか、やはり戦いとはこうでなくては…一方的な蹂躙などよりも遥かに心躍るわ」
「二対一でもか?」
「群れてこそある強さもひとつの力よ、一度我を滅ぼした者達の様にな」
クロムバイトと言葉を交わしながらもレイルは竜の血を励起させて魔力を練り上げる、そしてセラに目配せするとクロムバイトへと視線を戻した。
「なら…三対一でも構わないよな?」
「何?」
レイルはそう言うと練り上げた魔力を込めた手を地面に叩きつける、その瞬間レイルとセラの周囲に雷火が飛び交った。
「研いてきてやったぞ…お前を喰らう牙をな!」
それはアスタルツの騎士団に伝わる特殊な魔術、自らに宿る属性と魔力に獣の姿を与えて駆使するもの。
「やるぞ!エルグランド!!」
(おう!今こそ雪辱を晴らさん!!)
それがレイルとレイルに宿るエルグランドによって次なる形へと進化する…。
「“顕獣疾駆”!!」
雷火が放つ閃光が周囲を染め上げる、やがて光が止むとクロムバイトの眼前の光景に目を奪われた。
そこにいたのは迸る雷と燃え盛る炎から出来た体をした竜だった、それはかつてレイルが相対し天を支配した偉大なる竜の姿。
「さあ…望み通り喰ろうてやるぞ、クロムバイト!!!」
エルグランドの怒号が雷の如く戦場に響き渡った…。




