23:失った者同士
「私も…いや俺も話して良いでしょうか?」
イデアルが俯いて少ししてからレイルは話し掛ける、イデアルは顔を上げてレイルを見ると静かに頷いた。
「俺はそれなりに恵まれた方だったと思います、両親は亡くなりましたが村は俺一人養えるくらいの余裕はありましたし村にいた師匠に剣術を教われたので」
言葉を崩して話すのはレイル自身の身の上話だった、イデアルはどうしてか分からない様子だったがひとまずは話を聞いていた。
「十五になって幼馴染みと一緒に村を出て冒険者になってからはとあるパーティに誘われて活動してたんです、幼馴染みにも告白して恋人になって冒険者としても順調に活動できてたと思います」
「そうか…」
「だけど浮気されて全て失くしました」
レイルの言葉にイデアルはぎょっとした顔をするがレイルは構わず続ける。
「浮気相手は同じパーティの野伏でそれなりに信頼してた男だったんですがね…あいつは冒険者として順調に成長する俺の事を妬んでいた」
「しかし、それで何故浮気などに…」
「俺の恋人だったからですよ、俺から奪ったという事実があいつを満足させられるものだった」
「…」
「恋人と仲間の浮気を知った時は思考がぐしゃぐしゃになりました、別の男と交わる姿が醜い獣の様に見えて他の仲間も裏切るんじゃないかと疑心暗鬼になった…」
レイルの話にイデアルは黙って続きを促す、レイルはそれを確認して当時の心中を吐露した。
「頭では分かってた、他の仲間はそんな事する人達ではないと…だけど長年連れ添った幼馴染みの裏切りはそれを塗り潰すくらいの怒りを覚えた」
「それは…当然であろうな」
「だから逃げた、あのまま一緒にいれば事情を知って抜ける事を許してくれたハウェルにも何かと世話を焼いてくれたアレッサや世話になった人達を巻き込む、その前に全部切り捨てて逃げた」
「…」
「縁を切って全部失くして…自棄になって死のうとした先にいた竜と戦って終わろうとした」
「…だがレイル殿は生きている」
「倒したんです、そして自分の中に残っていたものを見つけた」
レイルはそう言うとイデアルに向き直り、自身の思いを告げた。
「人は大切な何かを失くした時に理屈で動くのは難しい、だけどそれを呑み込めれば自分に残ったものに目を向けられる」
「残った…もの…」
レイルは立ち上がるとイデアルと向かい合う、そして剣を構えた。
「だからぶつけてくると良い、内に抱えているもの全て吐き出してもう一度考えてみれば…見えなくなってたものが見えるかも知れない」
イデアルは少しの間だけ沈黙する、だが立ち上がって曲刀を握り直すとレイルを見据えた。
「レイル殿、少しだけ八つ当たりをさせてもらう」
「どこからでも、好きな様に」
その言葉を皮切りにイデアルはレイルに叫びながら曲刀を振るう、それは王子ではなく一人の少年として上げられた叫びだった…。
―――――
王城の一室、騎士であるキリムが控える中でマイラはあの日に瞼に焼きついたものを夢に見ていた。
眼に映るのは紅蓮の焔だった、街を始めとして森も山も海も焼き尽くす紅蓮の焔が夢の中のマイラすら焼き焦がさんとするかの如く荒れ狂っている。
焔の中にシルエットが浮かび上がる、業火の中にいながら尚それははっきりと姿を浮かべていた。
それが放つ光がマイラの眼を…。
「きゃあああああっ!?」
「どうされました!?」
悲鳴と共にマイラはベッドから身を起こす、悲鳴を聞いたキリムが部屋に入って傍に来ると荒い呼吸の後にキリムを確認した。
「ここは…?」
「ウェルク王城の一室です、合議の後に魔眼が異常を起こしたと伺っております」
「魔眼が…」
「…回復術士を呼んで参ります、ここは安全ですので落ち着いてください」
キリムはそう言って足早に部屋を後にする、マイラはシーツを掴みながら先程まで見ていた夢を信じられないでいた。
業火の中で一際輝く姿でも特に眼に焼きついたものを…。
「輝く翼…」




