20:潰竜との語らい(バニスside)
「ふふ…」
アスタルツ首都パンデラム…否、今はバニスによって改められてパンデモニウムにある城の玉座にバニスは座っていた。
「私の思念を通してダメージを与えてくるとはね、流石はフラウと言ったところか」
フラウが放った“精神破壊”は肉体ではなく魂や思念を通して攻撃する闇の高等魔術だった、常人であれば廃人となっていてもおかしくはない威力なのだがバニスは額を指で弾かれた程度の様ですぐに玉座から立ち上がった。
そして天井に手を翳すと直後に天井が崩れる、バニスの翳された手から炎が吹き出して崩れてきた天井を焼き払った。
「些かご挨拶ではないかな?クロムバイト」
「ぬかせ、この程度貴様には雨粒の様なものであろうが」
崩れた天井からクロムバイトが降り立つ、その姿はレイルと戦った時とは違い破裂した右手も元通りになっていた。
「頼み事は失敗したみたいだね」
「貴様が不完全な甦らせ方をしたせいで退かねばならなかったのだ、完全であればエルグランドとその宿主を喰らえたであろうに」
「なるほど…彼に阻まれたのか、つまり私の情報は正しかったという事も立証された訳だね」
バニスはそう言って微笑むとクロムバイトはどうでもいいと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「そんな事よりこの体だ、魂と同調させるのを早める事は出来ぬのか」
「私も君くらいのものとなると造るのは初めてなんだ、まあ三日もあれば同調は済むだろう」
「三日か…ならば貴様のところから竜共を貰っていくぞ、エルグランドとの喰らい合いに邪魔が入らぬ様にせねばな」
「折角甦ったのだからもっとゆっくりしたらどうだい?そんな急いでも…」
バニスは言葉を言い切る直前に跳び退く、すると振り下ろされた爪が床を砕いて穴を穿った。
「我は貴様の配下ではない、勝手に甦らせた以上は我も勝手にやらせてもらう」
「ただの提案だよ、従って欲しい訳じゃあないさ」
「ふん」
クロムバイトの金色の眼がバニスを睨む、歴戦の戦士でも震えてしまいそうな威圧感が放たれるがバニスは未だ微笑みを携えて立っていた。
「貴様の目的も貴様がなぜ今更この世界に来たかになど欠片も興味がない、我は喰らい合えればそれで良い」
「知ってるとも、君はその為にかつて魔王すら殺したのだからね」
「エルグランドと歯応えのある人族を喰らったら次は貴様だ、覚えておけ」
クロムバイトはそう言い残すと翼を拡げて飛び立つ、そして咆哮をあげるとパンデモニウムにいた竜の魔物達がクロムバイトが飛び去った方向へと続いて動き出した。
それを眺めながらバニスは笑う、笑みは深くなっていくとやがてけらけらと嗤い声をあげた。
「六百年前とまるで変わらないなぁ彼は、だがまぁこれはある意味試金石としては丁度いいかも知れないね」
バニスはウェルク王国がある方向へと視線を向ける、山を超えた先にいるであろう者に僅かばかりの期待を込めた声で呟いた。
「ゼルシドの後継レイル、フラウの愛弟子セラ…今代の不確定要素である君達はクロムバイトを倒して私のところにまで辿り着けるかな?」
バニスが見下ろした先には破壊された街を埋め尽くす魔物と魔人達が闊歩している、それを見下ろすバニスの影が巨大な翼の様に拡がった。




