18:布告
バルセドの発言にウェルク王達はおろか後ろに控えている騎士達からも動揺か走る、しかしすぐに気を取り直したライブスが発言した。
「皇帝陛下、それは無茶というものではないですかねぇ」
「そうか?単独でダンジョンボスの古竜を倒した上に今回だって一人で戦って撃退したんだろ?言うほど無茶を言ったつもりはないがね」
椅子を軋ませながらバルセドはレイル達の方へと視線を向け直した。
「そっちの嬢ちゃんの魔術の腕も聞いてる、相手が未知数な以上広域をまとめて攻撃できる魔術士は一人でもいた方が良い」
「む…」
「こっちから攻めるにせよあの山が厄介過ぎるだろ、どんな手段を使おうが軍を連れていくには時間が掛かる上に他のルートはねえ、なら古竜をそいつ一人に引き受けてもらって嬢ちゃんには大軍を相手にしてもらう方が良いだろ」
バルセドの言には一理ある、たった一人で大軍相手に通じる手段を持つのはセラにフラウ、そして準備が必要となるがライブスのみなのだ。
軍を動かそうにもあの魔物が跋扈する山岳地帯を進むにせよ山を焼くにせよ莫大なコストが掛かるのと被害が出るのは目に見えていた。
「…今回戦った古竜は完全ではありませんでした」
レイルはバルセドから目を逸らさずに答える。
「どんな事があったかは知りませんがあの竜は自らを不完全な甦り方をしたと言っていました、その状態のやつにすら追い込まれて勝てると豪語できるほど自惚れてはいません」
「…へぇ」
レイルの返答にバルセドは興味深そうな視線を向けるとぽつりと漏らす、そしてまた話そうとした瞬間…。
「勢揃いの様でなによりだね」
突如この場にいる誰でもない声が響く、その直後に部屋の燭台の火がひとりでに燃え上がり円卓の中央へと浮かび上がる。
炎は少しずつ人の形になっていくとやがてそこには彫像のように整った容姿の青年が浮かんでいた。
「はじめましてと言っておくよ今代の王達、私はバニス、今回は挨拶を兼ねてお邪魔したよ」
山吹色の眼で周囲を見渡しながらバニスはそう言って微笑んだ。
―――――
レイルを始めとした周囲の者達が一瞬で戦闘態勢に入るがフラウがそれを手で制する。
「無駄よ、これは炎を媒介にして思念を飛ばしてきてるだけ…攻撃しても意味はないわ」
「流石はフラウだね、一瞬で私の魔術を看破したか」
バニスの称賛にフラウは不快そうに顔をしかめる、それを流し見ながらバニスは話し出す。
「私が今回来たのは戦う為じゃないんだ、今回来たのはこちらの諸々の準備が終わったのでそれを伝えに来たんだ」
「準備…だと?」
「そうとも」
そうして言葉をひとつ区切るとバニスは居住まいを正す、実体ではない筈の姿からは一際強い圧が放たれた。
「今この時を以て我等バニス教団は国家の設立を宣言する、そしてこれから我等はバニス教“国”として異端である君達に対する粛正を行う、即ち…ウェルク王国およびエルメディア帝国への宣戦布告をしに来た」
放たれた言葉に全員が沈黙する、それを見たバニスはサプライズが成功したかの様な悪戯めいた笑みを浮かべた。
「う…そ…」
その笑みを浮かべる姿を見て零れた声は誰の耳にも届く事はなかった…。




