14:大地を潰す者
「セラ、後は任せる」
そう言い残してレイルは宙を蹴って跳ぶ、土煙が晴れた先には顔を中心に焼けただれたクロムバイトが起き上がっている所だった。
「か、かか…」
クロムバイトの口から声が漏れる、その直後に焼けただれた箇所を自らの爪で削ぎ落としてレイルの方へと向き直った。
「かかかっ!我が鱗を砕き肉を焼くとは!?短き命でありながらよくぞそれほどの力を得たものよ!眠気なぞ彼方に消え去ったぞ!!」
クロムバイトが歓喜の声を上げながら笑う、血が滝の様に流れる傷は肉が膨れ上がってあっという間に再生していった。
「エルグランド!貴様が敗れたというのも頷けるものよ!これほど我が血を滾らせた者は六百年ぶりだ!!」
完全に再生を終えたクロムバイトが叫ぶ、その威容はかつて相対したエルグランドを超える圧を放っていた。
「…エルグランド、悪いがこいつは倒さなきゃならないみたいだ」
(構わぬ、元より竜としての誇りを捨て闘争に溺れたやつは討たれる直前に同族すら殺したのだ…死ねなかったなら今一度冥界に還してやろう!)
剣が一際燐光を放つ、燐光はレイルを包み込むと体内の竜の血が静かに脈打った。
(レイル、此度は我も力を貸そう!この愚か者にかつて渡せなかった引導をくれてやる!)
「あぁ、了解した!」
剣を構えたレイルの周囲に竜の姿を象った燐光が漂う、クロムバイトは咆哮を上げて飛び立った。
―――――
飛び立ったクロムバイトの口からブレスが放たれる、黒い輝きを放つそれは周囲の大気を引き寄せてレイルに迫るが宙を蹴って避けるブレスに向けて引っ張られる様な感覚があった。
(やつは闇の中でも特異な重力魔術を使う、無闇に受けるのは得策ではないぞ!)
「…それが潰竜の名の由来か!」
宙を蹴り上がりながら『疾爪』を放つ、複数の黒い爪の様な斬撃をクロムバイトは煩わしそうに腕で払うと目前まで迫ったレイルが黒く染まった剣を振り下ろす。
剣が間に出された腕にぶつかる、黒鱗に喰い込んだ刃に更に魔力を流し込むと刃は黒鱗を砕き腕を半ばまで斬り裂いた。
頭上から鋭利な牙が並んだ顎が迫る、腕を蹴って跳ぶとクロムバイトはそのまま回転して勢いを乗せた尻尾が振るわれる。
再び宙を蹴って横に跳んだレイルのすぐ傍を鉄の塊の様な尻尾が通り過ぎる、すぐさま剣を振るおうとするが回転を続けたクロムバイトの尻尾が真横からレイルに迫る。
「かかっ!」
宙を蹴って避けた尻尾が跳ね返ってレイルに叩きつけられる、黒鱗に覆われた尻尾は戦槌の様な破壊力でレイルを吹き飛ばした。
「がっ!?」
吹き飛ばされたレイルに更に尻尾が叩きつけられる、大気を裂いて振るわれる尻尾は四方八方からレイルに襲い掛かった。
「ぬうっ!?」
再び尻尾が叩きつけたクロムバイトの顔が歪む、見ればレイルが尻尾に剣を突き立てて掴まっていた。
剣から魔力を噴出させながら尻尾を駆ける、突き立てた箇所から尻尾をふたつに斬り裂きながら迫ってくるレイルに向けてクロムバイトはブレスを放った。
尻尾は半ば辺りからブレスによって千切れる、ブレスが当たる直前に跳躍していたレイルがクロムバイトの背中に剣を突き立てながら着地した。
「…っ!硬い!」
鱗の間に突き立てた剣は切っ先が喰い込む程度ですぐ下にある骨に阻まれて止まる、すると背中の鱗がビキビキと音を立て始めた。
直感で跳び退いた瞬間レイルが居た箇所の鱗が伸びる、鋭利な槍の様に伸びた鱗は目前まで迫って止まるが跳び退いたレイルは宙に身を任せる事になった。
息つく間もなくレイルに巨大な爪が振り下ろされる、剣で爪を受け止めるが予想以上の重さにレイルは高速で地面に叩き落とされる。
叩き落とされたレイルが地面に衝突して土煙が上がる、クロムバイトは再び顎を開くと魔力を集約させていく。
周囲の光すら呑み込む黒い輝きが口内で密度を高めていく、今までのものよりも段違いの破壊力を有する漆黒のブレスが音すら呑み込んで地上に降り注ぐと一瞬の無音の後に凄まじい轟音と衝撃波を撒き散らした。
ブレスは周囲に木々を粉砕し、まるで隕石が落ちたかの様なクレーターを作り出していた。
そのクレーターの中心から凄まじい風が吹き荒れる、風は巻き上がっていた土煙や礫を吹き飛ばして中心に立つ者の姿を露にした。
「かかか!なるほどな、本番はこれからという訳か!!」
“竜血魔纏”を発動させ、半竜人となったレイルを見たクロムバイトの笑い声が響き渡った…。




