13:潰竜クロムバイト
「この様な所にいたとは…己の足下ほど見えにくいとはこの事よな」
黒竜が地を震わせる様な低い声で呟く、余計な手間を煩わされたとでも言う様な内心を表したかの様な声音で放たれたそれすら聞いた者の体を震わす圧が籠っていた。
「まぁ良い、小さき者共よ、恨みはないが我が寂寥を慰める為にもその短き命ここで果てるが良い」
その言葉と同時に黒竜の口に魔力が集まっていく、魔力は黒い輝きとなって集束していきブレスとなって馬車に放たれた。
「む?」
轟音と土煙が周囲に広がる、黒竜は終わったかとその場を飛び去ろうとするが気配を感じ取って土煙の先を見る。
土煙を切り裂いて斬撃が黒竜に迫る、首を傾けて避けると馬車の前で剣を振った体勢のレイルと空中に展開していた氷の盾を解除したセラが黒竜の眼に写った。
「我がブレスを防ぐか、多少はマシな様だな」
(…何故生きている?)
レイルの剣から声が響くと同時に光り出す、光は馬車を囲う様にして竜の姿に変わっていった。
(潰竜クロムバイト、かつて滅びた筈の貴様が何故生きている?)
厳かな声を響かせてエルグランドは黒竜を睨みつけた。
―――――
「エルグランド?エルグランドか!?まさかこの様な形で貴様と再会するとはな!」
クロムバイトと呼ばれた黒竜が叫ぶ、レイルは傍らに現れたエルグランドとクロムバイトを交互に見やる。
「知り合いなのか?」
(我と同じく古き竜の一柱よ、だがおかしい…)
「おかしい?」
(やつは滅びた筈だ、我が封じられる百年前にな)
「…ならあれは」
クロムバイトに視線を戻す、目の前にいる黒竜は魂だけの存在ではないのは先程のブレスで嫌というほど伝わっている。
「かかかっ!しかし随分と衰えたなエルグランド!かつて天を我が物にしていた時とは大違いよ!」
(抜かせクロムバイト、貴様こそ死してもその愚かさは治らなかった様だな)
「かかかっ!その皮肉な口も相変わらずか!まぁ良い、あの人の群れよりは衰えようが貴様と貴様を滅ぼした者の方が楽しめようぞ!」
クロムバイトが歓喜を籠めて声を響かせる、だがその言葉の中にあるものを聞いて馬車から降りる者がいた。
「人の群れ…それは父上達の事か?」
馬車から降りたイデアルが問う、扉を掴む手は心なしか震えていた。
「答えろ、父上達をどうした!?」
「…はて、あの群れ共の事か?」
クロムバイトはうって変わった様に冷淡な声になるとなんでもない事の様に告げた。
「とうに死んでいるだろうよ」
「…っ!!」
「途中で飽いたがあの後魔力の高まりと周囲を焼く炎が昇っておったからな、あれを受けて生きれる者が居ったら我が喰ろうておるわ」
さもどうでもいい事の様に言い放つクロムバイトはイデアルに吐き捨てる様に続けた。
「貴様の父とやらは弱かった、我が寂寥の慰めどころか眠気覚ましにもならなかったわ」
「…父上を!アスタルツの者達を愚弄するのか!?」
「ハッ!気に入らぬならば我を倒してみろ!力なき者の思いなど通す事が出来ねば無意味だ!!」
クロムバイトの全身から魔力が噴き出す、質量を伴ったそれは周囲の木々を震わせた。
「貴様の父も!あの群れ共も己を貫き通す力ないが故に死んだのだ!力なき者は力ある者の糧となろうが踏み潰されようが異を唱える資格すらないと知れ!!」
質量を伴う叫びが馬車を揺らす、イデアルは余りの圧に動く事はおろか反論する事すら出来ない自分の惨めさに歯を噛み締めた。
だから気付かなかった、すぐ傍にいた筈の者がいない事に…。
「矮小な存在が大層な口を聞くでな…」
「なら…」
クロムバイトが更に言葉を続けようとした瞬間、すぐ近くから声が響く。
眼を声の方に向けると拳を握り締めたレイルが写ると同時に拳が叩きこまれ、その直後に“轟天裁火”がクロムバイトの顔に放たれて爆発する。
燃え盛る雷火に焼かれながらクロムバイトは吹き飛ばされる、木々をへし折り土煙を上げながらその巨体が墜ちる。
「…俺がお前を潰しても構わないよな?」
雷を拳に纏わせたレイルが墜ちた巨体を見下ろしながら告げた…。
挨拶(物理)




