4:夢
それは荒涼とした大地だった。
風に乗って血の臭いが届き、周囲におびただしいほどの骸が積み上がるそこで目の前にいるそれを見る。
かつて友であった者、共に競い、共に認め合った者は今や蛮神の呪いに比肩する怪物となって自分の大切なものを破壊した。
これが神が与えた運命だと云うのだろうか、家族と同胞を殺して怪物へと堕ちた友だったものと争うのが結末だと言うのだろうか…。
だとしたら許せない、こんな運命を与えた蛮神を、友を陥れたこの歪みを許さずにはいられない。
例え永劫戦う事になろうと…。
―――――
「う…」
部屋に差し込む光に目を隠しながらレイルは起き上がる、そして今しがた自分が見た夢を思い起こしていた。
(あれは…。)
見覚えのない光景だった、だが夢の中の自分が抱いた激情はただの夢と片付けられないほど鮮明に覚えている、それに夢の中の自分が手にしていたのは…。
「永劫争剣…」
傍らに立て掛けてある剣を一瞥する、朝日に照らされたダインスレイヴは黒い刀身を照らされながら静かに佇んでいた。
(記憶、なのか…?)
「んぅ…」
レイルのすぐ隣で寝ていたセラが身動ぎしながら声を上げる、寝惚け眼でレイルを見上げると普段よりも弛緩した雰囲気を纏いながらレイルの腕に自身の腕を絡めて目を閉じようとする。
いつもよりも甘えてくる仕草にそのまま見ていたくもあるが日が昇った以上寝続けるのも良くないと考えてセラの肩を揺する。
「セラ、起きてくれ」
「…んー」
言外にまだ寝たいと告げてくるセラに少しだけ罪悪感を感じながらもレイルはセラを起こすと身支度を整えて部屋を出た。
―――――
「連絡が来ない?」
朝食を終えてシャルと話しているとアスタルツに関しての話題が上がった。
「えぇ、基本的には伝令や使い魔による伝書で連絡を取ってたんだけどその両方とも取れなくなったわ」
「…偶然と考えるにはタイミングが良すぎるな」
国の重要な文書を任された伝令と使い魔が連絡もなく消息を断ったとなればバニス教団に襲われたと考えるべきだろうが確証がない、単純に山越えなどに時間が掛かっているだけなのかも知れないからだ。
「エルメディアからの返事はもう来ているわ、私達は二日後に出発するけどもしかしたらレイル君達には今日にでも出る事になるかも知れないわ」
「会合に合わせてか」
「えぇ、仮にバニス教団の仕業なのだとしてもレイル君達以上の対応が出来る人はいないもの」
その後シャルの推測は正しく、レイル達はウェルク王から準備が整い次第アスタルツへと向かって欲しいという依頼と共に親書を渡される事となった。
王家の紋章が施された親書を手にレイルはアスタルツへと向かう事となったがその先で起きていた事をこの時ウェルク王国にいた者は誰も想像出来ていなかった…。




