2:特使
サミット開催?
「直接、という事はエルメディア皇帝とアスタルツ王をこちらに招くという事ですか?」
ゾルガの発言にウェルク王が首肯すると渋い顔になる。
「確かに連携を取るには最良の手だとは思いますが…大丈夫なのですか?こちらに向かう途中でバニス教団の襲撃や空いた首都が狙われる可能性は充分にあるかと、それにエルメディアはともかくアスタルツは移動の手間が掛かります」
ゾルガが言う手間とは地理的な問題の事だ、大陸の南部にあるアスタルツはエルメディアと違いウェルク王国との間に険しい山岳地帯があり整備された道はあるがそこを越えるのに二日は掛かる。
なによりもその山岳地帯は多種多様な魔物の他に山賊なども度々現れるが場所が場所ゆえに襲撃されても確認が遅れる、もしくはされない事がある為に生半可な護衛や防衛手段では越えられないのだ。
平時ならばともかく未だバニス教団の戦力が未知数である今は王自身が動くのは非常に危険であるのが現状なのである。
「うむ、お主の言う事は尤もだ…だがバニス教団は魔王を生み出す事さえ可能な上に奇跡に至っては一人で国を堕とせる力を有しているのは先の件で分かっていよう、時間を掛ければ奴等は新たな聖具を得る可能性も捨て切れまい」
「それは、そうですが…」
「それに手を打たない、という訳ではない」
ウェルク王はそう言ってレイル達に顔を向けると順繰りに見ながら告げた。
「確認がとれ次第ライブス教皇とシャルロッテの二人はエルメディアへ、レイルとセラにはアスタルツに特使として向かってもらい護衛として就いてもらいたい」
「護衛?」
「うむ、ウェルク王国にはフラウのお陰で城壁と王城の修復も終わり備えは出来ている、それに我が国はバニス教団に対する個の戦力が両国に比べて揃っている…と言っても良い」
その言葉に一同は確かにと納得する、五英傑であり未だ一線を越えた実力を持つフラウとライブス、黄金級冒険者でありバニス教団と戦ってきたレイルとセラにシャルロッテは国に一人いるだけで国の戦力に影響を及ぼす存在になっている。
「そのお主達を特使として行ってもらうのはこちらがそれだけの覚悟を示し、ならびに誠意を示す事にもなる…引き受けてくれるか?」
「…私とセラは問題ありませんが」
レイルはウェルク王の問いかけにセラに視線を向けて首肯するのを確認すると答える。
「アスタルツに向かうのは私達で問題ないのですか?私達が黄金級になったのはつい先日の話で誠意を示す、というのであればゾルガ将軍の方が適任に思えますが」
レイルの疑問にウェルク王は少しだけ感心したかの様な声を漏らすとその疑問に答える。
「確かにお主の言う事にも一理ある、だが先に話した通りアスタルツは行き来するのにあの山を越える必要があり襲撃の可能性を考えればお主達が適任なのだ」
それに、とウェルク王は一息置いてからレイル達を送る理由を告げる。
「アスタルツの国風、とでも言うべきかあの国では生まれを問わず実力ある者を好む傾向がある、他国であろうと黄金級冒険者として正式に認められたお主達なら軽視される事はまずない、黄金級とはそれだけの箔がある」
「…そういう事でしたか、教えて頂きありがとうございます」
レイルが頭を下げるとウェルク王は良いとだけ告げてライブスの方を見る、ライブスはにこやかに頷いて了解の意を示した。
「では両国から返事が届き次第四人には特使として向かってもらう、それまでは心身を休め万全の態勢を整えてくれ」
ウェルク王がそう締めて解散となりレイルはセラと共に謁見の間を後にする。
(まさか国の特使になる日が来るとはな…)
アインツを出た時の事が随分と昔の様に思えるのだった…。
それぞれの国風としてはウェルク王国=人格が重視、エルメディア=歴史や血筋が重視、アスタルツ=実力が重視される傾向があります。




