閑話:笑い、嗤う
次回は久々の人物紹介になります
「こうなったかぁ」
夜の帳が落ちた頃、とある黒い影に覆われた山の頂上にて青年、バニスは山吹色の瞳に星を映しながら呟く。
「ゼルシドが潰れるのは予想してたけどアステラを道連れにするのは予想外だったなぁ、永劫争剣の機能が上手い具合に弱くなってたから大丈夫かなと思っていたけどまさかカリギュラの残滓が消えるまで生きるなんて…本当に君は私の思惑を越えてくれるね」
呟きの内容とは裏腹にバニスの口調は楽しそうだった、まるで劇のどんでん返しを観たかの様に。
「ゼルシド、君なら私にまで届いたかも知れないね…でも駄目だった、これで私に届きうる者はいなくなってしまったが…まあそれは最初から期待してなかったから仕方ない」
どことなく寂寥感を醸し出しながらバニスは苦笑いじみた微笑みを浮かべたがすぐにそれを消してしまった。
「アステラ、君のお陰で私の考えは予想以上に進んだよ、君が抱いた欲望と生死操槍のお陰で妄想は理想となり、理想を現実に変えれる算段がついたのだから」
バニスは嘆く様に呟く、だがそれは悼むというよりは使っていた愛用の道具が壊れてしまったという様な響きだった。
「そうだね…君の事はさしずめ“魔獣の聖母”とでも語り継ごうかな?君が為した事は間違いなく教団のものにとっては素晴らしい功績だし、そういった象徴たり得る存在があればそれに寄せられる者もいるだろうからね」
そう独り言を呟きながら微笑む、微笑みは深くなり、やがて哄笑へと変わった。
「あぁ面白い、ほんの少し唆して場を整えるだけでこれ程までに波紋を起こすだなんて人の愚かさはどうしようもなく救い様がないのに目を逸らさずにはいられない」
ひとしきり笑ったバニスは嘲笑を浮かべる、その笑みはどこまでも傲慢に人という存在への嘲りが溢れていた。
「それでいながら決して愚かなだけでは終わらない、必ず過ちに気づく者が現れ過ちを正そうとし手を取り合う…本当にいつまでも見てて飽きないよ」
だが次の瞬間には嘲りが消え去りどことなく愛おしさすら感じさせる表情を浮かべながらバニスは立ち上がる。
「そろそろ始めようか、理想を現実とする為に、愚かで面白い人々の為に…」
バニスの背後の影が蠢く、山の頂上を覆っていたのは巨人や混合獣などと言った多種多様にして大量の魔物の群れだった。
「興じるとしようか、国盗りと国創りに」
闇の中で唯一白に染まるバニスは侮蔑と期待を込めて微笑んだ。
一応これで3章は終わりです、次章もどうか一読お願いしますorz




