48:剣士の矜持
やられたと思いました?
ぶしゃり、と血が飛び散る。
ゼルシドが剣を握った右手首を自らの左手で血が飛び散るほど強く握りしめていたからだ。
「え?」
レイルの首を裂く寸前で止まった刃を震わせながら歯を食い縛ったゼルシドはレイルを蹴り飛ばすとその場で膝をついてしまった。
「きひ、がっ…くそ、がぁ…」
全身を覆い尽くしていた魔力が剥がれていき顔の一部が露になる、狂気に染まった眼に対して露になったもう片方の眼には理性の光が宿っていた。
「きひ、殺す…うるせぇ、壊す…黙れ、ははは…」
魔力が吹き荒れる、カリギュラの魔力がゼルシドの体を鎧の様に纏わりついて侵食するが露になった眼がレイルを捉えた瞬間ゼルシドが叫ぶ。
「邪魔を…すんじゃねぇ!!!!!」
ゼルシドの叫びと共にカリギュラの魔力がゼルシドの中へと消えていく、肩で息をするゼルシドはレイルへと向き直ると剣を握りしめた。
「…それが師匠が俺の前からいなくなった理由ですか?」
「…はっ、俺もヤキが回ったもんだ、魔王程度に当てられて、奴に良い様に使われるとはな」
ゼルシドは笑いながら話し始める、まるで自らを嘲る様に。
「40年前に魔王を殺して以来、ずっとこいつは俺の中にいやがった、あのクソ野郎共を殺してからも四六時中俺の中で気にいらないのを殺せだのなんだのと言ってきやがって耳障りで仕方なかったぜ」
そしてゼルシドは吐き捨てる様に続けた。
「漸く抑えられたと思ってた所に奴等が来やがった、バニスの野郎に頭を弄くられてこのザマだ…ぐっ!」
言い終えた瞬間、ゼルシドは顔をしかめて胸を押さえる。
「…どうやらあまり時間がねえらしい」
そう呟くと剣を構える、レイルは言葉にされずともゼルシドの意を理解した。
「…どうしても駄目なんですか」
「ああ」
レイルの問いかけにゼルシドは短く答えた。
「持ってたもん全部失くして、壊した果てに剣しか残らなかった、クソみてえな人生だったが死に様ぐらいはてめえで選ぶ」
剣を構えたゼルシドが魔力を放つ、一切の無駄なくそれは全身を巡り刀身へと伝わった。
「魔王になるなんざクソ食らえだ、俺は死ぬなら剣士として戦って剣士として死ぬ、それだけは譲らねえ」
「…」
「甘いだけじゃなにもできねえぞ、馬鹿弟子」
ゼルシドは告げる、それにレイルは言葉を返さず“竜血魔纏”を解くと身体強化を発動して剣を構えた。
なによりも雄弁な答えにゼルシドは少しだけ口角を上げる、そしてその直後にどちらからともなく駆け出した。
ゼルシドの剣が空間を裂いて閃く、レイルはそれを避けて刺突を放つ。
ゼルシドは放たれた刺突を身を捻る様にしてかわす、そのまま捻った勢いを利用して独楽の様に回転して剣を振るった。
レイルは『天脚』を発動して前に転がる様にして迫る刃をかわすと即座に翻って剣を振るう、ゼルシドも迎え討つ様に剣を振るうと二人の剣がぶつかり合う。
互いの剣が交差する、縦横無尽に振るわれる刃のぶつかり合う音が空間に木霊しては消えていく。
二人の戦いは互いの譲れぬものを貫き通す為の剣士の決闘と化していた…だがもしもこの場にセラや他の誰かがいたのなら別の印象を抱いただろう。
全力で打ち勝とうとするレイルと笑みを浮かべるゼルシドが剣を交わす姿は、まるでチャンバラ遊びをする親子の様だった…。
教団ろくなことしねえな




