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会津遊一 ホラー短編集

健太君

作者: 会津遊一

私は子供の頃、人を殺した事がある。

それは野原で追いかけっこをしていた時の事。

振り回していた棒で偶然にも友達を殴ってしまったのだ。

慌てて駆け寄るも、健太君は動かなくなっていた。

怖くなった私は、キョロキョロと辺りを見渡した。

そして、誰にも見られていない事を確認してから、1人で逃げ帰ったのだった。


子供心に、もう駄目だ。

誰かに殺されると思った私は、帰宅後も布団の中で震えていた。

だが次の日になっても、叱られることは無かった。

その次の日も、そのまた次の日になっても、何か言われることは無かった。


数日後、いい加減学校に行けと親に怒られた私は渋々と登校した。

すると、健太君の席に花瓶が置いてあるのが目に入ったのだ。

別の友達に、

 「どうしたの?」

と聞くと、

 「事故で亡くなったんだ」

と教えてくれた。

でも、私には分からなかった。

今でも、この両手には健太君を叩いた感触が生々しく残っている。

なのに事故で死んだと聞かされても、私にはピンと来なかったのだ。

呆然と立ちつくしている私を余所に、学校内に何時もと同じチャイムの音が響いたのである。

それはもう、10年以上前の話。

今では夢でうなされる事も無くなっていた。


私は出社前に髭を剃っていた。

すると、何かを吸い込んだらしく、ゴホゴホと咳き込んでしまった。

 「貴方、大丈夫? 顔を真っ赤にさせて」

背後から心配した妻に話しかけられた。

 「ああ、平気だよ」

 「カゼだったら気をつけてよね、もうすぐあの子の誕生日なんだから」

 「分かっているさ」

私がひげ剃りを洗面台に戻すと、何かに気が付いた妻が一言呟いた。

 「あら、でも貴方、首の廻りだけが、やけに赤いわよ」


始めは、直ぐに消えるだろうと気にしていなかった。

だが、その赤は消えるどころか少しずつ濃くなり、徐々に何かの形に成っていったのだ。

最近では、ワイシャツのボタンを全部とめても、首元からはみ出してしまう程大きくなっていた。

全体的に広がっていくので隠しようが無い。

会社の人には虫に刺されたと説明した。


そして最後には赤いシミが、小さな子供の手が首を絞めているようにしか見えなくなっていた。

妻には何度も病院に行くように言われたが、それは無駄だと私には解っていた。

これは健太君の呪いなのだ。

幸せの絶頂にいる私をどん底に落とすため、こうやって嫌がらせをして楽しみ、そして殺すつもりなのだ。

自分のしでかした事が原因とはいえ、それではあまりに惨い仕打ちではないか。

罰を下すのなら、もっと早めにやって欲しかった。


次の日、私は会社を休んで健太君を殺した野原にやってきていた。

そして大地に頭を付けて、大声で叫んだのだ。

 「健太君、ごめんよ、許してくれ! 本当は、ずっと悪いと思っていたんだ! でも、怖くて言い出せなかったんだよ! 今からでも警察に出頭するよ! だから許しておくれよ!」

私は涙を流し、何度も謝った。

それこそ喉が張り裂けようとも、謝り続けるつもりであった。

だが、私の心からの謝罪が通じたのか、喉の辺りが軽くなったのだ。

慌てて胸元を覗いてみると、本当に例の赤いシミが消えていた。

 「健太君、ありがとう」

私はもう一度、頭を下げた。


帰宅すると、妻が慌てて出かける準備をしていた。

 「何か合ったのか?」

 「それが子供の首の辺りが、さっき急に真っ赤になったのよ。だから、ちょっと病院に行こうと思うんだけど。って、貴方、どうしたの? 顔が急に真っ青になっているわよ」

 

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