後悔からの始まり編
1 こんな時期もありました
見慣れない景色が車の窓から見える。しかし心が躍らない。躍らせることができない。
運転席にいるお母さんが車窓を開けてくれた。初めて来た町の匂いは私の鼻を突いた。
「私この町好きになれるのかな……」
か細い声でこう言った私にお母さんは優しく笑った。
私もその後なにも喋らなかった。
4月の最初の最初、私とお母さんは新しい学校に行き知らない先生(当然だが)に学校内を案内してもらった。
生徒が一人もいない日時のため廊下にはその先生の長たらしい話し声だけが響く。
簡単にまとめるとこう言っていた。
『この学校の生徒総数は日本でも多いほうなんですが、いじめも少ないんですよね~。お子様もきっと馴染めますよ。個性を尊重する学校なんでね。』
ありきたりすぎる……これは決まり文句なんだろうな。だって同じことを二回言っていた。個性を尊重するって何? 具体的になにをしているの? 疑問点を挙げても消化できないし考えるだけ無駄だ。
この学校で真新しい生活が始まる。一週間後に。
始業式当日の朝。すこぶる目覚めが悪い。鏡の前で身だしなみを整える。去年と同じ服装であるが、ヘアゴムは水色から黒色に変えたのだ。いつもよりちょっと高めにポニーテールをくくり、笑顔をつくってみた。
なぜか重いがらんどうなランドセルを背負って家を出た。
ここからが長かった。学校までの通学、始業式の合計二時間半。たいして内容を覚えていない。
そしてついに今年の担任の先生になるであろう人に六年五組の教室の前に連れてかれて、しばらく待機させられた。
その待っている時間に教室のドア越しに聞こえてくる先生の声を聞いていると、急激に緊張がこみ上げてきた。
だが大丈夫。この日のために私はイメトレを何回もしてきた。もう一回イメトレをしようと思った矢先に
「それでは転校生に挨拶をしてもらいましょう! 真鱈さん入ってきてー!」
軽快な声で呼ばれた私はあたかも落ち着いているかのような様子で、教室に入った。教室の人間が私を見る。とりあえず黒板のほうを向いてそこに自分の名前が書いてあることに気づいた。これは先生が書いたのだろう。そして再び前を向きわたしの自己紹介を始めた。
「関東から引っ越してきました。真鱈です。得意なことはサッカーで好きなことは絵を描くことです。一年間よろしくお願いします。」
予定通りの自己紹介を終えると大きいのか小さいのかよくわからない拍手が起こった。
廊下側から二番目後ろから二番目の席に座らされ、一通り先生が話し終えて休み時間になった。
私の予定ではこの後何人かが私の机の前に来て話しかける。
案の定人がこっちに来た。女子が七人。おしゃれなのもいれば、大したことがない奴もいる。その中でも明らかリーダーっぽく長い黒髪でだぼだぼなロンTを着た目のくっきりした女子が私に話しかけた。
なんとなく不快感を覚えるような甘ったるい声で。
初とうこうです。
ここからも真鱈のこじらせぶりが発揮されます。