神眼の十字架
「まあ、落ち着きなって!」
「んえっ?」
《隠伏隠密》を解除しながら、アイシアの持つデカい黒い十字架を武器主で引き寄せ、十字架の長い部分にある刳り貫かれたような感じで作られた取っ手を掴み肩に担ぐ。
「やっほーアイシア、三日ぶりだな」
「……レイ、又侵入してきたんですか?」
「許可証貰ったからもう不法侵入じゃないんだな~これが!」
訝しむような視線?(スカーフ付けてるから実際、目を向けられてるか分からん)をしてくるアイシアに問題無いと返す。
それにしてこの黒十字架重いな、アイシアのあの細腕で持てるような重さじゃないと思うのだが?何か秘密がある筈、調べる!
「で、何しに来たのですか?」
「ん?ああ、お前らのこと知ることは試験官として重要だってユナさん達に言われたんで、知りに来た」
「それ以外には特に無いんですか?」
「無いね、俺は必要無いと思ったんだけどね~」
「どうしてです?」
「俺の力なら、そんなことしなくても他人の情報なんて幾らでも手に入れれるし、ノエル試す?」
これも修行の成果で『記憶庫』で更に詳細に周囲の情報を閲覧できるようになり、調べる範囲を個人単位まで狭めることが出来るようになったお陰で、さっきみたいな最近の悩みとかまで知れるようになった。
ユナさん達は相変わらず調べられないが、普通他人に知られたくない情報とかまで知れるようになってしまったのが、悩みにもなった……スリーサイズとかな。
「………止めときます」
「そうか、っと確かしっかり自己紹介してなかったよな?」
「そういえばそうです」
二人にもレイと名乗ったし、ユナさん達もレイって説明したから、こいつ等にはしっかりした自己紹介をまだしていない。
これから色々と知ろうとするわけだし、それくらいは先にしておかなくちゃな。
「俺はレイナイト・カラーレス、こう見えてSランクの冒険者だ、ユナさん達とは…まあ色々あって、懇意にしている」
「……やった……また会えましたっ///」
「レイナイト・カラーレス殿でしたか!我が国の大氾濫の際はありがとうございました!感謝してもしきれません!」
「その歳でSランク…なるほど」
「Sランク、ならばあの威力も納得、我はまだまだなようだ」
「見た目ルト達とあまり変わらないのに凄いですねー」
「Sランクの方が僕達の試験を持ってくれるなんてっ光栄ですっ!」
「あの強さはそういうことなのね」
「ん~?……他にもありそうな気がするんだけどなぁ?」
驚いてくれて有難いね、後流石にグレアスは俺のこと知ってるのね。
まあ、広義的に考えれば国の恩人だし、グラント王にはお金貰ったしね。
さて、雑談でもしよっか。
「という訳で雑談でもしようか、何か訊きたいことある?」
「はいはーい、レイさんのーメインウェポンは何ですかー?ルト達と戦った時は手ぇ抜いてましたよねー?」
もっとこう、日常的な感じの聞いてくと思ったら、めっちゃ戦闘に関して訊いて来ますねぇ。
まあ、手を抜いてることは彼女らの前で言ったし、気になっても仕方が無いか。
でも、これ中々難しいな、俺は『武器主』のお陰でどんな武器でも基本は最高精度で扱えるし、黒白はどんな武器にでもなるから正直これと言って使ってるの無いんだよな。
現時点の瞬間最高火力なら極昌の冒険者達特製魔道手榴弾、扱いやすさなら黒白の大太刀形態、本来の火力を予測するなら真理を壊す灰塵剣、慣れなら黒白のガントレット形態、難しい……けど、そうだな。
「これだな」
「それは……何ですかー?黒い玉に見えますけどー?」
「俺のスキルの力を物質化したものだよ。俺は大抵の武器ならどれでも最高精度で最大限の力を扱えるんだけど、当然武器だけの力じゃ火力はあまり出ない訳で、結局の所俺のメインウェポンはスキルという結論に至った次第だ。まあ、スキルだけでも出せる火力は制限されるから、一概にそうとも言えないが今の俺の結論ではスキルということでな、大体どんな武器も持ってるし、使うの特に定めてる訳じゃないから、意外と難しいんだよ、俺の場合わな。じゃなきゃ、このジョブに俺は就いてないしな」
どっちも大切だが、俺スキル無しじゃ戦えないし間違って無いと思う。
……スキルが無くても戦えるようにする修行もするか、絶対必要になる。
「ま、武器種で敢えて言うなら、此奴かな」
「こちらは大太刀ですか!確か我が国を助けていただいた時も使っていたと聞きました!これが……!」
「ところで、さっきから気になってたけど、グレアス、我が国の大氾濫の際って何のこと?わたし知らない」
「む?知らないのですか?リーチェ殿?」
「というか多分グレアス以外知らないと思うぞ、ニュースになったけど、情報統制がされたからな。と言っても基本広まらんようにしただけだが」
「成程、我らが知らないのはそういうことか」
ユナさん達は国王達が決めたって言ってたから、多分知らないと思ってたけど当たってたね。
これは言ってもいいのかな?まあ、広めないようにしっかり言えば問題ないか。
黒白を指輪に戻しながら、机の上に座り落ち着く。
俺は、ユナさん達の関係とかリュミス様からの情報提供の部分をうまい具合に誤魔化しながら、王創国であった奈落の大氾濫の出来事を掻い摘んで話した。
そういえば、結果的に被害は無かったけど、アレが起きた理由俺なんだよな……終わったことは気にしない気にしない、よな?
「まあそんなこんなで、奈落の大氾濫は収束したって訳だ」
「そんなことがあったんですか、当事者からしっかり聞くとこれはまた違う視点で考えれますね……」
「わたしの想像より凄い人……」
「面白かったですー」
「この目で見れなかったのが残念だな」
「でも何故これほど出来事の情報が統制されたのですかね?」
「確かにっ」
痛いとこ突いてくるね、アルン、出来れば言って欲しくなかった。
これ、幾ら王族やユナさん達の持ってる生徒だからって、許可なく俺が話していいのか分かんないんだよな。
予め聞いておくべきだったか。
「さあ、それぞれの王に訊いてみたら?俺からは言えないね」
「各国の王らが関わっていると、貴方は一体……?」
「この間は聞けたのに、今は全くと言って良い程レイさんの心の声が聞こえない。この短期間に対策を?そもそも神覚器官を防ぐってどういうことですか?」
「自分の知っていることが全てじゃないってことだ。俺レベルになれば、対策の仕様は幾らでもある」
真っ赤な嘘である!
本当は敵に同じような奴が居た場合に困るから、ユナさんに相談して色々と対策を教えてもらったのである。
神覚器官は俺の《死》と同じく、いや少し格落ちするが権能の力と同質のものが宿っている為、常人には防げるわけも無い。
それにしてもこの十字架、戦闘特化過ぎるな、所有者適応、経験進化、身体強化、権能強化、連鎖反応、魔力増幅、魔力破壊、治癒阻害、破堕、反理などなど今の解析状況でも百を優に超える数の能力、この世界の聖女というのを俺はまだ深く知らないが、此奴はこんな少女の持つ武器じゃない、明らかに強すぎる、それに…何処か神魔器や真器と同じ力を感じる、一体何なんだコレは?
……引き続き調べていくとして、アイシアは撲殺系聖女だったのか?でも結界使ってたしな~いや、基礎の練度だけ挙げて、他は戦闘に振ったのか、でノエルはそれのサポートだな。
ノエルの耳はサポートにはもってこいだし、相性抜群だろう。
「ところで、何時まで私の『過去罪科の黒十字架』を弄り倒しているの?返して欲しいのだけど」
…………………ッ!?
「もうちょっとだけ…………オッケ、訊きたいんだけどアイシアは此奴について何か知ってるか?」
「いえ、あまり。古の時代からあるとても強力な武器ということと所有者を選ぶということ、そして私には適性が有って扱えるってことしかしらないわ。それがどうかした?」
「いや、何でも。はい」
「ありがと」
ふ~ん、本人には教えていないとね、教会は闇が深そうだ、そもそもこれについて知っているか知らんが。
天王神魔達はもちろん知ってるんだろうけど、業が深すぎるね、人間ってのは。
あの十字架……人間で出来てやがる。
途轍もない数の封印、いや隠蔽が施されていて時間が掛かったが、確実にあの十字架は人間を素材に作られている、それも知るのも嫌になる方法と数え切れない程の人間の命でな。
恐らく、神魔器や真器を再現しようとしたのだろう、権能と同質の力を内包する神覚器官を持つ人間を基礎に他の人間も大量に使い、正しく神魔器や真器の領域の武器を作り上げた。
"人理武装 真理看破・神眼の十字架"が、あの今『過去罪科の黒十字架』という銘の武器の本当の名だ。
人理武装ねぇ、あんな人の道を外れた武器に付ける名前じゃない、本当にな。
此奴は主に神眼を持つ人間を素材に使って作られている、だから同じ神眼持ちじゃなきゃ扱えない、適性?笑わせるなよ、唯素になった奴らが同胞に共鳴しているだけだ。
胸糞悪い、最悪だ、一体どれ程狂った思考をしていればこんなもの思い付く!!
更にムカつくのはあの武器はシリーズの一つだということだ。
全部で六個、人理武装は存在する、あの業の深いが武器が後五個この世界に存在するってことだ、一体どれだけの人間の命を使ったのかねぇ……。
そして謎なのは何故そこまでして作る必要があったのか、何故それだけの人間を使うことが出来たのかだ。
過去に一体何があった?この世界の歴史にそんな記録は無かった筈だ。
残念ながら、製作者は何故か見えないというか、その欄が存在していなかった。
謎と怒りが尽きない、が今考えても分かるわけも無い、これ以上の情報が無いのだから。
思考を落ち着かせ、アレの解析が終わると同時に増えた黒白の命令の効果の方を確認する。
………これは、今じゃなきゃ純粋に喜べたのによ。
「《千変万化》」
命令を言うと同時に俺の手に白と黒の二色で構成されているが造形から意匠まで完璧に同じな"神眼の十字架"が出現する。
「それはっ!?どういうこと!?色は違うけど、確かに私のと同じなのだけど……感じる力は私のより強いわ」
「『過去罪科の黒十字架』世界に一つしか存在しない筈、どういうことですか?」
「ッ!!こんな物が二つと在ってたまるかっ!!!!」
「ひっ」「っく」「あっ」「なっ」「うぐっ」「……」「があっ」「かはっ」
ノエルの言葉に、落ち着かせていた思考が一気に沸騰し、思わず言葉を返す。
怒りでスキルの力が漏れたのか、皆床に膝を突いたり、倒れる。
何をしているんだ俺は!さっさと頭を冷やせ!勝手に俺が調べたことだ、何も知らない彼女らに当たり散らすような真似をしていい訳がない。
「……済まん、立てるか?」
「あのっ、だっ大丈夫な、何ですかっ?」
「ちょっとあったが、もう大丈夫だ……杖、天使の吐息、皆落ち着いたか?」
明らかに大丈夫じゃない彼女らを見て、即座に黒白を杖に変えて、精神を安定させる魔法を発動させる。
はぁ~精神も鍛えなきゃな、どうすればいいんだろ?
「本当に済まん!全面的に俺に非がある。罵倒でも何でも受け入れよう」
「……いえ、レイさんにも何か、理由があったのですよね。あの一瞬に感じられた凄まじい怒りは理由も無しでるわけもありませんし」
「私もそう思うわ。それに偶にそういうこともあるわ」
「怖かったですけど、直ぐに対処してくれたので私も別にいいです」
「小生も気にしていないですよ」
「凄い気だった、どうすればそういう風になるか教えて欲しい」
「今の我の強さの指標にもなった、気にする必要は無い」
「こんな時はっ、美味しもの食べましょう皆さんっ!」
「代わりにーレイさんのジョブ教えてくれたらぁ許してあげますよー」
情けないねぇ、今後は絶対ないようにしよう。
後ちゃっかり、ルトレスタは俺の情報求めてくるよね、まあジョブなら問題ないだろ。
過去の事件があっても、今は試験や審査が難しいだけで、居ても可笑しくないからな………いや居ないわ。
どっどうする!?俺が特殊な立ち位置ってことがバレるかもしれない!
上手く誤魔化せないかな?
「ルトレスタ、そいつはちょっと……」
「え~教えてくれないんですかぁ、あ~怖かったなぁ~もう失神しちゃいそうなくらい怖かったのになぁ~」
「……………」
「あ~怖すぎてぇ、母様に連絡しちゃいそうです~」
この子凄いな、付け込めるとこガンガン攻めてくるよ、もう何でも使って攻めてくるよ。
あとあざとい!潤んだ目で上目使いをしながら身体を強調するように震えながら迫って来やがる。
まあいっか、いざという時は記憶消すし。
「あ~もう武器職だよ、武器職。これで満足か?ルトレスタ」
「え~武器職は今いない筈ではー?嘘は駄目ですよー」
「嘘じゃねぇよ、ほら、ちゃんと武器職って書いてあるし、マークだろ?」
「お~嘘じゃないんですねーふむふむ、なるほどぉそういうことですかー皆には黙っててあげますよー?極昌の武器職さん」
「っ!?流石だねぇ、あの情報も嘘じゃないらしい」
「あの情報ぅ?」
「気にすんな」
直ぐに俺が極昌なことを見抜くか、喋り方や雰囲気からは想像できないくらい頭の回転が速いな。
ルトレスタとはいい関係で居たいな、今後の為にもね。
さて教室の端から戻って十字架について誤魔化しながら、雑談を再開するとするか。
これからは気を付けなければ
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