踊らぬ会議
「と、いうことで連れて来たぞ、エーロイ」
『…………』
「あ、あれ?」
何故誰も口を開かない?
エーロイの提案の後、俺は奔走し、シトラス、ネテル、レーシュの許可を得てオリバーとルイーズ、全員に確認を取って、予定の時間にエーロイの部屋に転移で連れて来たんだが、誰も喋ろうとしない。
「はぁ~折角注文通りに準備してやったんだから、感謝の言葉の一つでもないのか?」
現在の俺は仮称ブラックに変装中です。
<いや、フード被って仮面着けてるだけじゃないですか>
変装は変装だぞ?
俺を知らない奴には効果抜群だぜ。
<変装ってそういうものでは?>
まあ、確かに。
て、そんなことはどうでもいいんだよ。
「時間は有限、決行は明日なんだろ?さっさと会議始めんぞ」
「ま、その通りだニャ、ミャーは此処貰うニャ、ブラックはどうするニャ?」
「んじゃ、シトラスの隣で」
昨日は無かったが、部屋の中央に長机とイスが準備されていた。
俺の言葉を聞いて一応は準備してくれていたようだ。
―――――――――――
寝 具 棚
レ シ
|□ □|
オ|長 机|ネ 入
ル|□ □| 口
エ
机
―――――――――――
なんだかんだで全員が席に着いた。
「今回の件は互いの利益になるから、ということでの協力だ。今までのいざこざは知ったこっちゃない。邪魔、つまりは予定外の行動や反逆行為を起こなった場合、お前らもお前らの部下も死んでもらうことになる。不穏分子は消しておくべきだからな。あとオリバー、ルイーズ、お前らも騎士団も例外じゃないぞ」
「私たち、騎士団もなのか?」
「当然だろ、お前らだけ外しちゃ、他の奴らが不利益を被るだろ?だが、安心しろ。俺が殺した協力者側の構成員に関しては、"金"さえ払ってくれれば幾らでも生き返らしてやるよ。もし俺が殺した奴以外で生き返らして欲しい奴が居るならば、それは別途相談だな」
俺がレーシュから受けた依頼は首狩りの確保だ。
正直言って、少し失敗気味だが、依頼自体は達成している。
今やっているのは、完全に独断行為、話や相談がされているだけで、対応してくれとは、直接的な契約のような物では言われていない。
けど俺には、レーシュから貰った免責特権がある訳で。
俺という存在の行為は黙認される、なら別に騎士団殺しても良いよね!
まあ進んで殺す気は無いが、こう確定させておかないと困るんだよ。
死という名の恐怖を平等という正当性で抑えつける為に、それによってこいつらを操作しやすくする為に必要なんだよ。
「なるほど、そういうことですかブラック、貴方中々曲がった思考回路していますね」
「そりゃどうも」
ルイーズはそこら辺気付いたみたいだな、頭の切れる女だぜ。
まあ、それ以外にも理由があったりもする……それは、"金"だ。
最近、あるものを作りたくなってな……それに使う素材が、まぁまぁ高い訳で、お金が欲しいってこと。
実際に俺の貯金を使えば普通に買えるんだが、ほぼスッカラカンになってしまう。
ので、金持ってる奴らから巻き上げようという訳よ!
<私欲塗れですね、お兄さん>
人間、最も大きな原動力は私欲だよ。
自分の為に、自分に都合の良いことの為に動く時が、人間は一番行動の精度が上がる。
俺の持論だがな。
<じゃあ、私がお兄さんに元気でいて欲しい為に色々頑張るという行動は、どうなんですか?私凄い多分頑張りますので、精度も高いですよ?>
それは俺が元気の方がアリスが嬉しい・安心できるという自分の為だよ、表面上では思っていなくても根本は多分そうなんだよ。
自分がそういて欲しいから、ほら自分の為だろ?
<まあ確かに……>
別にそれが悪いって言いたい訳じゃないんだ。
アリスの俺を覆ってくれる気持ちだって、間違いでは無いし、他の場合でも他人を思う心も間違いではない確かな本心ではあるんだろう、けど。
根本はそこには無いと俺は思っているだけだよ。
俺は、相手の為にする行動を相手のせいにしたくない。
行動は全て自分本位で俺自身がそうあってほしいから、そうありたいから行動するだけで、その責任を相手に擦り付けていい訳が無い、と俺が思うから。
<お兄さんは……歪ですね。他人を戸惑いなく殺せるのに、そんな風に相手を思う気持ちがあって、その為に行動できるお兄さんは、歪です。まあ、そんなお兄さんも好きですけどね>
その歪みは多分、一生直らないよ。
俺という存在の根本にある、俺という存在の要だから。
さて、会議に戻るか、アリスと話している間に会議は結構進んでるし。
今は何処の部隊が何処から攻め入るか、話し合っているようだ。
因みにだが、血霊教団の本部であろう営業を行っている場所は、此処とは真反対来た地下街の"血霊館"と言う場所だ。
地下街、想像以上に広かったわ。
『記憶庫』が正常に使えないから分からなかったんだよな。
最初、地上から調べた時は綺麗に解析できたと思ったのだが、内部構造がかなり異なっていた。
何か別の情報を強制的に混ぜられていたようだ。
本当に厄介な力が掛かってんだよな。
「私らノウナースファミリーが正面から」
「騎士団は後方から」
「私たちグーズファミリーが左翼から」
「キリングスと」「ミャーたちパライソの合同部隊は右翼から」
「それぞれ多少の時間差をつけて襲撃するって訳ね?」
大体俺の入る間無く、決定しちまった。
入る気が無かったというべきか?
「ミャーたちの行動は大方決まったニャ。レ――ブラックは何するニャ?」
「んあ?俺?俺は潜入強襲だ。シトラスは俺の方に入れ」
「急だニャ?まあ、大丈夫ニャ。指揮は信頼できる子に任せて置くニャ」
これは既に決めていたこと。
今回の件は、途轍もなく早さが重要だからだ。
昨日、レンに調べて貰った『血霊』という存在は、質の悪さで言えば堕ちた者以上なんだよ。
ギルドの方にも手を回して、ベティアと腕利きを三人呼んでおいた、そいつらとシトラスに『血霊』を相手してもらう。
表裏堕神とやらは俺が一人で相手をする、能力が厄介そうなことと堕ちた者のことは広げない方が良いからな。
簡単に行く相手じゃないことは知っている、だが『血霊』も厄介、正直ベティアとギルドの三人では荷が重い、だからシトラスをそっちに回さざるを得ない。
切り札を全て出さなきゃいけないかもな……必要なら"神器"もな……。
<本当に大丈夫なんですか?お兄さん、少し無茶な気もします。ユーティリナさん達に応援を頼んでは?>
それは本当に本当の最後の手だ。
ユナさん達は俺に対応できると信じ、俺に今回の件を任せてくれた。
ユナさん達を頼ることは俺にとって、最大の敗北と言って良い。
その手を使うのは全てを出し切ってからだ、もしギリギリでもユナさん達なら秒で来るはずだし。
<ふむむ……はぁ、分かりましたよ。お兄さんの意志は本当に固いですね、私も全力でサポートしますよ……一応アレを使えば、何とかなるかもしれませんしね>
<同意、私も全力でマスターをサポートしてみせます>
全く、頼もしい仲間だ。
「決行は、明日の深夜でいいんだよな?」
「オッケイニャ!」
「私の方もそれでいいよ」
「私のファミリーもだね」
「こちらも問題ない」
「キリングスも了解した」
準備は整った。
「諸君、良い働きを期待しているよ」
<その喋り方はお兄さんに合ってませんね>
あ、そう?
良いと思ったんだがな……。
ま、俺も頑張るとしようか、求めるは勝利のみ。
『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになります!




