それは、動く死体?
「《死隠堺》,杖からの《隔絶璧堺》」
空間を破壊した瞬間、即座に血霊教団の奴等全員の気配を隠し、杖に変えた黒白で結界魔法を張る、逃げるのを抑える為だ。
俺は《隠伏隠密》で姿を消しているから、こいつ等には見えて無い筈、殺さない程度に倒すか。
あの液体、明らかにヤバい、他に持っている奴がいないか確認しなきゃな。
「直剣からの麻痺……《破撃》ホイホイホイッ!……ん?」
久しぶりに黒白の命令を使って攻撃したのだが、斬り付けた後の反動に違和感を感じた。
ゴムのような気味の悪い感触が返って来た。
凡そ人間の感触じゃねぇな。
「それに、《破撃》使ったのにも関わらず、普通に動いてやがる……本当に人間か?」
先程、斬った筈の奴らは、不思議そうにただ周囲を見回しているだけで、警戒すらしていない。
法衣は確実に切れている、だが、血が流れている気配はない。
それに近くで見ると行動が何か、機械染みている……これは確認が必要だ。
「そうだな、コイツでいいか。取り敢えず、足の切断、から行動の阻害」
相手の確認の為、近くに居た女の足を黒白で切断して、倒れた瞬間に足で踏みつけて移動を不可能にする。
やっている行為がマジで放送禁止レベルだが、気にしない。
それにしても、コイツらやっぱ人間じゃ無いかもな……足の切断面から"血が流れてない"し。
いや、特徴は完全に人間だ、他種族でもない、機械でもない……生きてない?
「こいつらの行動の感じ、どっかで見たことあると思ったら、アリスの試練のとこで見た奴等と同じだな。あいつらは血、流れてたけど」
<私の試練?ああ、あの都市の駒のことですか>
駒て、まあいいか。
「顔は……普通に見えるけど、何となく生気が無い。眼球に至っては、濁り過ぎだし、よく見たら瞳孔開いてんじゃん、完全に死んでるな……つまりこいつら、動く死体だ」
尚、ゾンビではない、動く死体と言う表現が一番合うな。
血霊教団、きな臭すぎるぞ。
さて、あの液体を持っていないか、確認しよう。
「ふむふむ……これは完全にアウトだな」
<完全に変態ですよ、お兄さん。女性にしたのが失敗でしたね>
倒れている女性を踏みつけにして、その女性の服の中を弄っている男、否定のしようもない犯罪者である。
見ている人いなくて良かった。
<私もレンちゃんも見てますよ?>
「アリスは大丈夫、そんなの気にしないくらい俺にベタ惚れだからさ」
<そっ、そんなことあるわけないじゃないですか!!馬鹿なんじゃないですか!?死んだ方がいいですよ!!>
凄い否定してくるじゃん、普通に傷つくのだが?
まあ、そこまでは俺も思っていないが、好意的ではあるだろ?
<当然ですね!お兄さんは大好きです!!>
う~ん、惚れてはいないが好きではある……総合的考えて、滅茶苦茶嬉しい。
「……おっ!あったわ小瓶、これは全員持っている可能性があるな」
今気づいたけど、こいつら一定の空間から出られないのに気付かず前進し続けてるし、客引きの常套句のような言葉を発し続けている、気持ち悪い。
さっさと片付けるか。
「収納制限開放・剣、《武器主・操作支配》四肢を切断しろ……五月蠅いな……首も落としておくか」
{極昌具}の収納から剣を大量に取り出して支配し、血霊教団の奴らを切り分ける。
R18G確定案件っですねぇ。
じゃあ瓶回収しよ、この状態なら死体共は収納できるから、全部入れてから瓶以外を出そう。
「収納、からの放出、うん便利…アリス、この死体どうすれば良いと思う?」
<そうですね、研究調査用の一つを残して残りは全部空間ごと破壊して消したり、暴食で喰らったりしたらいいじゃないですか?>
ま、そうなるか、じゃあ最初に解体した女の死体だけ回収して壊そうか。
此処で時間を使いすぎる訳にもいかないからな、夜にはシトラスのとこに戻る予定だし、エーロイからも情報収集したいし。
収納から灰塵剣を取り出す。
「イメージは塵も残さない、完全なる破壊、壊れろ《空間崩壊重斬》一応念入りに、『死ね』」
《空間崩壊重斬》は空間の保持する理を少しだけ破壊することで、灰塵剣を中心にある程度の範囲を勝手に崩壊させる技だ。
範囲内の物は、理の破壊具合で空間の崩壊と共に綺麗さっぱり消えるようにも、中途半端に残すようにも出来る。
ただ扱いが難しいところもあり、俺自身が完全に効果範囲を決めることは出来ないし、自身を《死》とか『暴食』で覆って無いと普通にダメージを受ける。
そこは強力だから仕方ないってことで許容している。
「ふーむ、スッキリだな、壊れた地面を《死壊する過去》直してと、退散しますか」
結界魔法と《死隠堺》を解除して、そのまま何事もないかのように立ち去る。
姿が消えてるから、他の奴からは見えていないだろう。
<でも他の人から見たら急に人が消えたように見えません?>
「……確かに…だが、それを説明は出来ても証拠が無いから証明は出来ない、何も問題ない。周囲の人間の被害なんかは正直今考えている暇じゃない」
<確かに…ですか?まあでも、あの瓶の液体や動く死体たちのことを考えると間違ってもいませんね>
分かり易やすく問題なのは、動く死体の方だ。
アイツらの作り方は正直どうでもいい、問題は"材料"を何処から調達しているかだ。
確実にアイツらは人間ではあった、なら生きていた人間を材料にしているだろう。
やっぱ、血霊教団が運営している場所だろうな。
首狩りやあのギルド前の女が関係しているなら、認識阻害はお手の物の筈、それで上手くことを隠しているのでは俺は思っている。
見ず知らず人間の死を悲しめるほど、俺は真面な人間じゃない、だが依頼だからな、早めに対処したいものだ。
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???View
聖堂のような装飾のされた大空間にて。
「『禍ツ首狩リ』が何者かに破壊された?それは本当なのかい?」
「本当でございます、我が神よ」
「なるほどね……」
これは、面倒なことになったかも。
計画は既に八割方終わっている…残りの二割も今の駒で足りる……要は手元にある。
実行には問題ない、だけどアレを壊すか。
厄介な奴が来たと考えるべきか、此処の騎士団ではない外部の犯行……ボクたちの計画の邪魔になるかもしれない。
首狩リには、最後の切り札として、現実崩壊の爆弾を搭載してたんだけど、それが発動したという報告はない。
計画を早めに実行しようか、対策をされるわけにはいかない。
「報告ありがとう、いつも通りの仕事に戻っていいよ」
「分かりました、我が神よ」
「……あの子も、全く可哀そうだよね。ボクなんかに利用されちゃってさ」
出口へと静かに歩いて行く、毛先だけ白い黒髪の少女の背中を見ながら、そう呟く。
まあ、罪悪感なんて微塵も無いけど。
ハハッ、あんなゴミみたいな子でも、今回の計画の要だ、大切にしなくちゃね。
無駄な動く肉として誰にも必要とされずに死んでいく予定だったんだ、ボクに使い潰されるだけマシさ。
価値の無い人生に、贄という価値を与えてあげるボクに感謝して欲しいくらいだよ。
あ~ホント命で遊ぶのは面白い、この機会を与えてくれたアイツにも感謝しなくちゃね。
「決行はそうだね……――日後かな。この都市はどれだけ混乱に溢れかえるだろうか、今から楽しみで仕方が無いよ」
その神は愉しそうに笑う、溢れかえるであろう人の悲鳴と喧騒を想像して。
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