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【未完作】盤上遊戯愛好家の異世界言行録  作者: 白亜黒糖
第4章 首狩りと表裏の神
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余りにも呆気なすぎる



レイナイト・タナトス・カラーレス View


「《欲求武装(カーマ)()破壊欲(ハンマー)》――ハアッ!!」


 シトラスが赤黒いハンマーを投擲する。

 その身体から投げられたとは思えない速度でハンマーは飛び、首狩りへの回避を許さず、その右腕を破壊する。

 シトラス、いつのあんな欲求を具現化してたんだ?能力の詳細を知っている辺り、結構な試行をしたんだろうとは思う。

 けど性格的に、試行した後に欲求を戻さないなんてことはし無さそうだ。

 だから所持している具現化した欲求も少ないと予測していたんだがな?

 《色欲(ルクスリア)》には俺の知らない機能があるのか、シトラスの力なのか……どっちなんだろうか?


(それは《色欲》の効果対象を詳しく考えれば直ぐ分かるよ~)


 自然と俺の脳内に語り掛けて来たサクラ様が、俺の疑問に対して丁度良いヒントをくれる。

 リュミス様とは大違い、リュミス様なら全部教えるか、全く教えないかの二極だもん。

 この手のことは《(モルス)》と同じで0か100なのだ、リュミス様は。

 にしても、効果対象か……。

 確か対象は自分でも他人でも良い筈だ。


「さて、本気で行くするかニャ《弾丸性質変化(バレットチェンジ)()現実改変(オントキネティック)》……この弾丸、当たらぬことはニャい」


 引き金を引くと共に放たれた蒼色の弾丸は、完全に首狩りに避けられた――かに思えた。

 いや、実際に首狩りは射線から外れ、回避した筈、なのに……。


「当たった?それに撃った弾に対して被弾場所が多すぎる……」


 首狩りの身体には無数の穴が空いており、著しく動きが悪くなる。

 可笑しい……。


(シトラスちゃんは《色欲》や{真理を荒らす罪禍銃(ミストルティン)}に関して大部分を話しているけど~、全てを話している訳じゃない)


 俺のように、手の内を出来るだけ隠すのではなく、出していい情報は出して、奥の手に近しいものは隠してるってことか。

 で、《色欲》の効果対象だ。

 自分でも他人でもいい、サクラ様の良い方からしてそれ以外にも対してがあるんだろう。

 シトラスが気にしないで、欲求を具現化できるような対象な筈だ……。

 ……動物……いや、"死体"か?確かに死体は他人という言い方も出来なくも無いし、返す必要が無い。

 動物でも変じゃないが、動物の欲求は偏ってそうだし単純そう、多くの種類は無いだろう。


「《欲求武装・■■■(ボム)》……粉々になるニャ」


 シトラスが投げた濁った黒と赤色が混じり合った手の平大の立方体が首狩りに当たると……。


「うおっ!?」


 大きな爆発が起こった訳では無いが、空間自体に衝撃が響いたとでも言えばいいのか、俺の身体が芯から震えた……気がする。

 首狩りには特に変化は、無い様に見える。

 不発か?


「終わったニャ」


「いや、まだ……ん?」


<情報、魔道具名『禍ツ首狩り』は完全にその機能を停止・終了しています>


「は?」


 え?解析終って無いんですけど?え?マジで?終わったの?


「シトラスどういうことだ!?」


「どうもこうも、ミャーが首狩りを止めただけニャ、別に危険だからって壊す必要ニャいニャろ?解析とかも出来るニャし、中に手がかりがあるかもしれニャいし」


 そっちじゃねぇよ!その判断は別に良いよ、有難いよ!

 俺が聞きたいのは、何したかって話!


「何したんだ?」


「仲間だからといって、全て話す訳じゃニャいニャ!それにレイもミャーに言って無いこと、沢山あるニャろ?そういうことニャ」


 ぐうの音も出ねぇ……。

 まあ、仕方ないか。

 さて、呆気なく終わってしまった首狩りを回収して今日は解析に努めよう。

 というか、首狩りって元々外装が真っ黒なんだな、それが認識阻害と合わさることで靄にかかったように見える訳か。


「何か……消化不良だ」


「早く片付いて良かったと思うけどニャ?」


「俺ほぼ戦ってねぇし、確かに手間が省けていいんだけど……こう何か心がモヤモヤするというか」


 不満かと聞かれれば少し違うような気もする。

 はぁ、いいや。


「シトラス、今日は酒飲もう」


「酒に逃げたニャ、まあミャーが付き合ってやるニャ。てことは作業は明日に回すニャ?」


「ああ、そういうこと」


 最近、色々あったせいで精神的に疲労してるんだよ、きっと俺は。

 一気に気分転換してからの方が、作業が捗る気がする。

 飲み過ぎには気を付けよう、酒は飲んでも飲まれるなだぜ。



◆◇◆



 ということで、パライソに戻ってきました。


「あれ?客は?」


「裏で秘め事してるニャ、この時間帯は大体どの客も常連さんも同じような感じだニャ」


「ふ~ん」


 パライソを出る時には、8人くらい居た筈の客が全員居なくなっていたので、シトラスに聞くと、そう言うことらしい。

 まあそうか、もう普通に深夜過ぎてるし。


「メアリィ、レイに合ったカクテルを頼むニャ」


「承りました」


 この黒髪の人、メアリィって名前なんだ。

 というか純粋な黒髪って、この世界で初めて見たかもしれない。

 ……綺麗な人だな、緋色の瞳、身長はそこまで高くない、俺より少しだけ高いくらいだ。

 服装によって、女性か少女か分かれそうな感じかな。

 

「メアリィをそんな見てどうしたニャ?もしかして酒を飲んだ後、裏でハメ――「違うから!!!」――無いのかニャァ……ヘタレめ」


「ヘタレではない、そもそもそんな目的で俺は来てない、ただ黒髪が珍しいなと思っただけだ」


 やはり日本人である俺にとって黒髪とは慣れ親しんだものであり、自分はそうでなくても少し懐かしい気持ちになる。

 まだ二ヶ月くらい?なのにな、不思議なものだぜ。

 

「黒髪ニャァ、そんな良いものニャのかニャ?」


「良いものというか、俺は違うが慣れた親しんだ色だからな。この世界に来るまでは殆ど、髪色と言われたら黒だったし」


「んニャ?その言い方をするってことは、レイは漂流者(ドリフター)ニャ?」


「そうだけど、手紙に書いてなかったのか?」


「それは書いて無かったニャ」


 ネフィラさん、手紙に書いて無かったんだ、一応しとこうぜ?面倒だから。

 漂流者は少ないらしいけど、居ない訳じゃ無いから問題ないだろうに。


「レイは漂流者だったのかニャァ、あっちの世界に思い残してきたこと無いニャ?」


「あるにはある」


 東雲部長、橘先輩、リリーにフクノンのことは、正直心の残りだ。

 だけど、あの人達なら大丈夫だろ、きっと。

 因みに、橘先輩は本名、[(たちばな) (このみ)]一年上の男の先輩だ、身長はシンラと同じくらいで、冷静な人でいつも部のストッパーだった。

 口癖は「備えあれば患いなし」何でもかんでも理論立てて考えてる人だったな。


 フクノンは本名、[福野宮(ふくのみや) 野乃花(ののか)]一年下の後輩少女だ、身長はナユタより少し高いくらい、いつもおっとりとした雰囲気だが、意外と毒を吐いて来る。

 口癖は「勝負は盤外から」割と姑息な手を使うのが上手かったな。


「でも、だからといって、あっちの世界に戻れるわけでもない。割り切りはもうしたからな」


「レイはその歳でしっかりしてるニャァ」


「そんなことない、ただ他人より多く経験をしているだけだ。それが妙に歳よりしっかりしているように見えるだけで、まだまだガキなんだよ、俺は」


「その自己分析が出来てる時点でしっかりしていると思うけどニャァ……その歳のミャーはまだ、飛切り可愛いただ子猫ちゃんだったニャ」


「自慢じゃねぇか」


 自分で自分を可愛いという奴はあまり好かん、けどまあシトラスは納得なので、不快ではない。

 俺には、まだまだ経験が足りない、感情のままに動くこともある、それはいざという時に必要であり、致命的な隙にも成り得る。

 加減が難しいものだが、もう少し感情のコントロールが出来るようにしたいんだよな。

 カルーさんか、ハクソンさん辺りに聞いてみるか?そういうの得意そうだし。


「じゃあ今夜はレイのことをいっぱい知ることにするニャ!」


「何故急に?」


「気になったからニャ!じゃんじゃん酒飲むニャ!」


「いや俺酒弱いし」


 あ~ヤベ、何か変なスイッチ入ったっぽい。

 頑張って付き合ってやるとするかね。

 酔わないように頑張ろう。



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