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暗闇に光る花2

やっと次話が完成しました。五月末のキネティックノベル賞に応募したいので今月あと8万字書きたいけどリアルも忙しいんですよねえ。

 僕が呪具の存在に感謝したのは後にも先にも今回だけだろう。リリさんの素顔を見て惚けた僕の動揺が言葉から読み取られなくて本当に良かった。


「マキア、入ってくるね」

「はい。ごゆっくり」

「……感情が分からないの面白くない」

「それがこの呪具の効力でしょう」

「みんな、そう思ってるかな」

「いいえ。少なくとも僕はそうは思いませんよ」

「そっか」


 僕の本心が届いたのだろうか。リリさんは満足そうな表情を見せて浴室に姿を消した。大部屋に一人残された僕はそれを見届けた後、嘆息した。昔から僕は美しい物に目がなかった。家に飾られていた絵画。父の趣味であった彫刻、母が好んで収集していた陶器。それらは全て僕の心を打ち響かせる。しかし人に対してはその限りではないと思っていた。僕が好む美しさは神智から生み出されるものであり、人工を超越したものが常であったからである。


 自分の気持ちがよく分からなくなってしまっていた。本当の彼女を見てから、僕は如何ともし難い高揚感を自覚していたが、同時に何か取り返しのつかないことをしてしまったような罪悪感を感じていた。それがどういうことか、自分で気持ちの整理をつけようと、もう一度ため息をついた。


「坊ちゃん、えらく早起きだねえ」

「お、おはようございます」


 そうやって一人考え込んでいたところに背後から声をかけられる。覚悟ができていなかったということもあり、びくりと体が震えたが、声には感情は乗らない。振り返って挨拶をするとそこには寝起きのカレンさんがいた。気になることがあったようでこちらをマジマジと見ている。


「なんだ、まるでリリみたいな喋り方だね」

「呪具を一度引き受けたんです」


 左手にくっついた仮面を見せるとカレンさんは腑に落ちたような表情を見せる。


「ああ、昨日言ってた解呪かい。本当にできるんだね」

「初めてでどうなるか、緊張しましたがおそらく成功です」

「てことは、リリのやつ今素顔か」

「そうですね」

「今どこだ?」

「お風呂に……」


 それを聞いたカレンさんはニッコリと笑って乱暴に僕の頭を撫でるとそのまま浴室へと消えていった。


 その後リリさんとやけに艶々と調子の良さそうなカレンさんが入浴を済ませて出てきたと同時に男性陣も起床し、大部屋に全員が集まった。湯上がりのリリさんはローブを羽織っておらず、その白髪が光に当てられてキラキラと光っているように見えた。髪が乾くまでは僕に仮面を持っておいてほしいとのことだった。彼女に目を取られたのは僕だけではないらしく、ナシサスさん、ダグラスさんもリリさんに興味津々である。


「リリ、おめえそんな別嬪さんだったのかよ。顔隠してんの勿体ねえなあ」

「そう?」

「おう!それなら世の中の男なんか手玉に取り放題だぜ」

「手玉……?」

「ダグラスさん、リリに変なことを教えないでくれ」

「何カマトトぶってんだよナシサス」

「そんなことは……断じてない!」


 また二人はじゃれあいのような本気の喧嘩を繰り広げ始め、カレンさんの拳によって床に沈められた。


「それにしても」


 すぐに復活した二人は次に僕の方を見た。


「呪具の解呪なんて、まさかそんなことが出来る人がいるなんてな」

「やるじゃねえか坊主!」

「やり方を偶然記憶していただけのことですから」

「普通は記憶してねえんだよ!もっと自信持ちやがれ」


 そうして二人にもみくちゃにされるが、悪い気はしなかった。この頃は自分の存在に懐疑的になってしまっていたから、どんな形であれ認められるのは嬉しい。誰かの役に立っているという事実は僕をここに存在させてくれていた。

 朝食をとることになってリリさんと意外にもダグラスさんが台所に立っている間に昨日僕が思い出した情報を共有しておく。


「昨日、カレンさんから旅団の皆様が請け負っている依頼について少しお伺いしました」

「そうか、マキアさんには迷惑をかける。もう数日は東霧の平原から離れられないと思う。君をどこかに届けてあげたいところではあるんだけれどな」

「いいえ、気にしないで下さい。拾っていただいて、しかも食料を分け与えていただいているだけで十分すぎるほどです。それで……依頼のことなんですが」

「ああ『東霧の平原に存在する私にとって最も価値のあるものを持ってきて欲しい』なんて、本当に無茶苦茶な依頼だと思うよ。その上、成功の報酬が半年生きていけるほどの高額だし、失敗しても必要経費は全部補完してもらえる。リスクがあまりにも少なすぎるよな」

「だからあたしは反対したんだよ。あまりにも怪しすぎるだろう」

「だが、彼は真剣だった。俺に頭をさげたあの人はきっと絶望の淵にいた筈なんだ。断れるわけないだろ。カレン、お前だって同じ立場だったら、同じ行動をとってただろう」

「そうかもしれないけれど、あんたと違ってもう少し詳細を聞くにきまってんでしょうが」

「あの、すみません」


 あんたはそもそも、とカレンさんによる説教が始まりそうだったため、話を遮らせてもらう。何故か自然と床に正座しようとしていたナシサスさんも我に返って椅子に座り直した。この二人は一体どのような関係なんだろうか。気になるところだけれども、今はそれよりも優先しなければいけないことがある。


「その依頼で今探しているのが『暗闇に光る花』だとお伺いしたのですが、私は東霧の平原を彷徨っている間に洞窟の中で『暗闇に光る花』を見ています」

「マキアさん、それは本当か」

「はい。申し訳ないのですが生死の狭間にいたころで記憶も朧気なので具体的な場所は分からないのですが、ここ二、三日の間に見ていると思います」

「よしっ!これで依頼達成の希望が見えてきた。今日からは君の進んできた道を辿ることにしよう」


 僕が依頼達成の鍵を持っているとわかり、瞳を煌めかせて喜びを露わにするナシサスさん。隣から手が伸びてきて僕の頭を撫でられて、そちらを見るとナシサスさんとは対照的に落ち着いた目をしたカレンさんがいた。


「坊ちゃん、元々達成失敗でも当然なんだから、あんまり気負わないでね」

「ありがとう、ございます」


 朝食は穀物を乾かしたものを家畜の乳に浸した料理で、僕は初めて食べたのだけれど好みの味だった。食べ終わって今度はナシサスさんとカレンさんが食器類を片付けている間に、リリさんに仮面を戻す。先ほどの逆をすればいいだけだから、先ほどに比べて魔力も使わないし、疲れも蓄積しなかった。リリさんの美しい顔が再び封印されてしまうのはとても勿体ないと素直にそう思った。しかし、同時に安堵している自分もいた。


「ほら男共、そろそろ出発だよ。思いっきり寝てたんだから、その分きびきび働きな!」

「昨日は酒盛りだったんだから仕方ねえだろうがよ」

「うるさいよダグラス。あんた昨日の酒残ってないだろうね。フラフラの状態で運転するんじゃないよ」

「そりゃ大丈夫だ。おらぁ寝たら全部飛んじまう」

「そしたら坊ちゃん。運転室の方へ。色々手伝っておくれ」

「分かりました」


 ダグラスさん、カレンさんの後を追うようにして車内前方にある運転室へと向かう。そこで作成中であろうマップを手渡される。今まで三日間の動向がここに書かれているのであれば、僕が彼らの痕跡を見つけた場所を見つければ、洞窟の場所を予測して特定できるかもしれない。


「なんですかこれ」


 希望をもって確認した地図は、地図ではなかった。ミミズの這ったような線が乱雑に書かれており、目印となる物も少ない。昨日移動した部分だけを確認しても、方向は合っているみたいだが距離があまりにも不正確であった。


「これは誰が描いていたんですか」

「あたしだよ」

「カレンさん。因みにマッピングの勉強などは……」

「独学でやってる。今回はなかなか上手く出来てると思う」


 カレンさんに詳しくマップについて教えてもらうけれど、地形など必要な情報が全く読み取れない。それでも一つ分かったこととしては不自然な方向転換が随所に目立つと言うことである。


「あの、ダグラスさん」

「なんだ坊主」

「この、車はどういう目的をもって動いているんでしょうか」

「おう、俺の行きたい方向に進んでるぞ」


 カレンさんの顔を確認する。笑顔だった。

 もしかして、誰も、誰一人として計画を立てていないのか…………?

 マップを持つ自分の手が震えている。これで、これで旅団を名乗ってもいいものなのだろうか。魔導装甲車の無駄遣いではないだろうか。


「ダグラスさん。カレンさん」

「「なんだ?」」


 感情の勢いに任せてマップを破る。呆気にとられる二人を目前に笑顔で言い放つ。


「これは使えませんので、僕が新しく作りますね。あと、今日から移動は僕の言うとおりにしてもらってもよろしいでしょうか」


 後に旅団には一つ戒律が追加される。『マキアは怒らせるな』、僕がそれを知るのはもっと先の話である。

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