人類へのカウントダウン
その現象は唐突に人類におこった。
僕が10時に床に就き、眠りに入るとすぐ、夢で10という文字が見えた。起きるまでそれは続いた。不思議な夢を見たなぁ、と思ってベッドの中で伸びをすると、朝食のためにリビングへ行く。すると両親がテレビに釘付けになっていた。
僕の気配に気づくと
「お、おい。お前変な夢見なかったか?」
と父が聞いてきた。
「うん。なんか10っていう字が寝てる間ずっと見えてた」
「俺たちもそうだし、世界中がそうらしいんだ」
「えっ!」
僕はあわててテレビの画面に目をやる。緊急特番として、全人類が同じ夢を見た不思議を報道していた。
僕は唖然として、テレビ画面から目をはなせなくなった。
だが、なにはともあれ、学校へ行く。学校も大騒ぎになっていた。教師がパニックにならないように、と必死で騒ぎを収めようとしていた。
不思議な事もある物だ。その日はまだ、その程度の感想だった。大パニックはそれから起こる事になる。
その一日を終え、眠りにつく。
9という数字が夢に出てくる。朝までそれは続いた。
ガバっと飛び起きる。なんだ今のは。まさか・・・。
リビングへ行くと、顔面蒼白の両親が、パニックに陥った街の様子をうつしたテレビを見つめていた。
今日も数字が全人類に見えていたようだ。9だった。
昨日が10。今日は9。では今日寝たらなにが見えるのか。街はパニックだったが、冷静な人々もまだいて、きちんと生活が送れた。
眠りたくない。でも夜がくると眠気がやってくる。抗えず眠りに入る。
8という数字が見えた。
朝、両親が僕の部屋を叩く音で目を覚ます。
「おい。8という数字を見たか!?」
僕は何も言えずただ、うんうんと、うなずいて返す。
間違いない。何かのカウントダウンが人類におこなわれていた。
全世界は大パニックに陥った。ある人は世界の終わりがくるのだ、と予想して泣き崩れていた。ある人は人類が新しいステージに入るカウントダウンだと言っていた。またある人は、宇宙人からの攻撃に違いないと予想したし、どこかの国が開発した装置による攻撃なのでは? と予想する人もいた。
とにかく、人類には何かがおきていた。
数字は確実に減っていった。
7、6,5。
人々はこの現象に対していろいろな行動をとった。安易で攻撃的な人はとにかく暴れまわり、今まで欲しかったものを店を襲って手にしようとした。
逆に最後の日には平穏をと、静かにいつも通りの日常を送ろう、と呼びかける人々もいた。
いろんな宗教家たちは自分たちの教えを、宣伝してまわった。
死の床にある人々が注目をあびた。彼らは、自分たちより先に人生の終わりを覚悟した人々だったから。いったい、彼らは何を考えるのか。それを知りたがった人たちがたくさんいた。
僕は、世界がどうにかなってしまうのなら、その前にしておかなければいけないことがあると思った。くだらないことだった。
好きなあの子に告白しよう。今までは勇気がでなかった。でも今こんな状況になって、言っておかなくては後悔すると思った。本当にくだらないけれど、それが僕が考えたことだった。
数字は着々と減っていった。もう学校も閉鎖になっていた。
僕は彼女の家に向かう。数字は1になっていた。今日が最後かもしれない。
インターホンを押す。どなたですか? と警戒した声がする。街は完全に治安を失っていたからそれも当然だ。どうやら彼女の母親らしい。
「鈴井と申します。美和さんのクラスメートの。」
しばらくお待ち下さい、との答えが帰ってきて、5分ほど待たされる。
ガチャという音とともに、ドアが開かれる。美和だ。
「こんな時に、どうしたの?」
「実は伝えたいことがあって来たんだ・・・」
そして、想いを伝える。美和はなんとも言えない顔で僕の告白を聞いていた。
気持ちは嬉しいけど、今日という日を私は大事な家族と過ごしたいの。そう言われた。
それはそうだ。こんな日に告白なんて馬鹿げてる。でもどうしても、気持ちを伝えたかったんだ。
美和は、ありがとう、でも鈴井くんも家族とこの時間を過ごしてあげて。と言う。
僕は、わかったよ。と答え、帰路につく。
そして、両親の待つ家へと戻る。出迎えた両親は怒らなかった。この緊急事態に家からいなくなったというのに。僕の行動を信頼してくれていたらしい。
家族はありがたいものだな、とつくづく思う。
家族でリビングに集まる。いろんな話をする。そして眠気がやってくる。
1の次は0なのか? それともこれが最後の夜なのか? 僕らはリビングに布団を敷き、3人で寝る。子供の頃いらいだ。
この話はあっけない幕切れをみせる。1の次は0でも、世界の終わりでもなかった。その夜から人類は同じ夢を見なくなった。
そうなると、あっと言う間に人類は元の日常を取り戻した。平穏だったり、戦争があったりする、あのおなじみの日常に。
僕の生活も元に戻った。
ただ一つ違う事。
それは僕に、恋人ができたこと。それだけ。