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チートも過ぎれば邪魔となる?

特大の火球が、化け物スライムごと水路の一角を飲み込む。


大量の水が熱で一気に蒸発して、僕は後方に吹き飛ばされた。一瞬の出来事に、綺麗な受け身も取れないままどうにか頭だけは守ろうと腕で覆って倒れ込む。


仰向けに倒れたまましばらく待って、勢いがおさまったところで目を開けると、尚も残る湯煙で視界が曇っていた。


息を吸えば、蒸した空気が悪臭付きで喉に舞い込んできて思わず咳き込む。最悪だ。

戦っている間は気にならなかったけど、肉が腐ったような酷い匂い。


あのスライムは完全に溶けて消えたようで、当たりの通路やら水路の中やらに、赤黒い液体がべちゃべちゃと広がっている。悪臭の原因はこの液体のようだ。


死んでまで面倒なやつだな、なんてぼうっと考えていた僕だったが、そこで急速に現状を思い出した。


「メグ!」


二人の子供のところに駆け寄ったはずの仲間の名前を呼ぶ。すると、


「無事です! ただ、視界が……」


僕よりも至近距離で爆発の余波を受けたマーガレットだが、無事だったようだ。とりあえずスライムは倒し切ったようなので、


「わかった、もう安全だよ! 少し待ってて」


と、現況を伝える。


にしても、火力が少し強すぎた。あんなに早く触手で反撃に転じてくるとは思わなくて、焦って必要以上の魔力を込めてしまったんだ。慣れない正面切っての戦闘に取り乱してしまった、己の未熟さを感じる。


おかげで、地上に出た部分だけを狙ったはずの火球は水路まで広がり、爆炎に加えて水蒸気の爆発的突風も起こしてしまった。


魔力量には自信がある(その辺は女神様が大盤振る舞いしてくれた)僕だが、逆に少し加減を誤れば味方や守るべき人を巻き込んでしまう。


そんな反省を心の中でしているうちに、湯煙が収まってきた。


マーガレットのいるはずの壁際に目を向ければ、黄色に光り輝く魔力壁が見えた。


マーガレットは僧侶。アンデッド系の魔物相手を除いては、攻撃手段は無いに等しい。ただ防御に関しては、《守護の祈り》と呼ばれる魔力壁を展開することができる。


それは物理的にも中々の耐久性を持つが、特に優れているのは魔法攻撃への防御力だ。そのため、マーガレットが子供たちのところに着いた時点で、僕の魔術に巻き込む心配はしなくてよくなった。


期待通り、魔力壁は火球の爆炎そのものは完璧に防いでくれたようで、彼女には少しの火傷もない。水蒸気の方には巻き込んでしまったが、壁を解いた彼女は特に怪我もないようだった。


そして、僕はその背後に彼女が守った二人の子供を見た、のだが。


「まずいね。かなり弱ってる」


「ええ。応急処置をしたら、すぐに運ばないといけません」


二人とも顔は青白く、目元にはクマができている。触手が直接巻きついていた腕や首の皮膚は、アザとも違う妙な色に変色していた。


マーガレットが左右の手をそれぞれにかざして、回復の魔術を軽くかけると、顔色は少し良くなった。ただ、衛生環境も悪く薬もないここでは、生命力を吸い取られた二人を本格的に治療することは難しい。


背の高いダグを僕が、レンをマーガレットがそれぞれ背負う。一戦交えた後では少しきついが、まだ時間との勝負は続いている。

僕らは来た道を戻り始めた。





「ひだまりの家」に戻ってから、清潔な水で体を洗ったり、何種類もの薬草(僕には違いがわからない)を変色した部位に擦り付けたり、果物の果汁を混ぜた水を飲ませたり。


フランツ神父と協力していくつかの処置を施してから、マーガレットが回復魔法を二人にかけた。


その後すぐは、二人はむしろ苦しそうな顔になって少し心配したけど、「終わりました」と言ったきりのマーガレットを信じなければ、と何も聞かないでいたのだが。


そんな僕の様子を見たフランツ神父が、「痛みや苦しさを感じ始めたということは、身体機能が戻ってきたということです」と小声で教えてくれて一安心した。


僕らは宣言した通り、手土産の野菜を子供たちが料理している間に二人を連れ帰ったけど、どうやら一緒に食べることは難しいようで、約束は半分しか守れなかった。


けれど、これ以上できることはないし、二人も介抱に向かうらしいので、出来上がった昼食は一度頂くことにした。


不安そうな目で僕らを見たり、小声で何かを話している他の子供たちに、これ以上心配をかけてはいけないと思ったからだ。


「二人はもう大丈夫ですが、目を覚ますまでに少し時間がかかります。冷めてしまいますから、作ったお昼ご飯はみんなで頂きましょう」


神父がそう呼びかける。それでもまだ戸惑った様子の子供たちに、


「遅くても明日の朝には起きるはずです。明日また何か持ってきますから、二人にはもう一度作ってあげましょう」


とマーガレットがさらに声をかけた。出発前の宣言と同じ、優しく、それでいて頼りになる声で。


神父もマーガレットも、回復しつつあるとはいえ未だ目覚めない二人のことが心配なはずなのに、子供たちまで不安にさせまいと努めて落ち着いて振る舞っているのだ。


治療には役に立てなかった僕だが、せめてここでは明るい顔をと意識しながら、子供たちと食堂へ向かったのだった。

次回でひと段落の予定です! そのあとはもう少し短い、ギャグメインの話をいくつか考えてます。

だんだん書くペースが上がってきました。今後もこの調子で行きたいですね。


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