地下水路って言うとかっこいいけど下水道じゃん
投稿時間て何時がいいんだろう。(現在深夜二時半)
迷子の二人、レンとダグが消えた先を地下水路と推察した僕とマーガレットは、「ひだまりの家」から近い入口の一つまでやって来た。
え、僕の渾身のキメ顔の後はどうなったかって?
そりゃ、マーガレットは感激した様子で丁寧なお礼を述べてくれたさ。神父や子供たちも僕たちの絆に感動していたね。
マーガレットが同じパーティメンバーのシャルルに恋しているということは、あの瞬間僕の頭からは消えていた。
男として良いところを見せようという邪な気持ちしかなかった僕は、しかし見た目は美少女魔導士だ。
誰の目から見てもそれは冒険者仲間の熱い友情、感動のシーンってワケ。
本心がバレることがないのは良いけど、玉砕すら許されない虚しさも感じてしまう。いや、最初に男と名乗らなかった僕の自己責任でしかないんだけどね。
まあとにかく、今から迷子の二人を探そうということなんだけど。
「さて、どうしたものかな……」
無事入れたはいいものの、地下水路はかなり広い。人口5万人のリンド城下の、上下両方の水道として機能する巨大機構だ。
それはこの世界の建築技術だけではとても実現できないのだが、魔法の力を組み合わせることで可能になっている。
そして、僕はその仕組みを一度師匠から聞かされていた。師匠の魔法オタク語りは毎度のことなので、おぼろげにしか覚えていないのだが。
「確か基になっているのは、城にある魔石炉から魔力を回して、水属性の魔力で流れる量とその流れが自動的に操作される魔術、だったような」
それなら、制御するための装置がどこかにあるはずだ。それに辿り着けば、魔力の道を辿ることで人の気配を探せるかもしれない。
そう考えた僕はマーガレットを先導して、とりあえず水路を進み始めたのだが。
探しているような装置が見つかるよりも先に、マーガレットが異変を感じ取った。
「レインさん。ここ、何か澱んだ魔力を感じませんか?」
「そうかな。僕はあまり……でも、メグが言うならそうかもしれない」
「入った時から少し違和感があったんですが、進むにつれて強くなってきている気がするんです」
「わかった。急ごう」
マーガレットは魔術師ではないが、僧侶として回復魔術ーー祝福の魔力の扱いはプロだ。
当然、その逆の力ーー呪いや穢れに属するような魔力にも鋭敏な感覚を持っている。4人パーティで冒険している時も、死体から生まれるような魔物に最初に気付くのは大抵マーガレットだ。
彼女が言う「澱み」も……あるいはそういうことかもしれない。二人を見つけるヒントかもしれないが、緊急性も増したということだ。
ぬめぬめとした水路の床を、転ばない程度の速度で走っていくと、
「開けた場所に出るみたいだ。そろそろ灯りを出しておこう」
急に空間が広くなったので、灯りがわりに魔術で軽く火を灯す。
何度か瞬きして目を慣らすと、どうやら水路が一度合流してまた分かれていく地点のようだった。
「レインさん、あれが探している装置ではないでしょうか」
マーガレットが指差した方には、確かに何やら石造りの物体が置かれていた。
触れてみると、確かに魔力を感じる。
「うん、これで間違いない。上流から来た四本の魔力を一度束ねて、三本に分けて下流に流してるみたいだ」
思った通り、水路に合わせて魔力の道も通っているようだ。ならば。
「ちょっと強引だけど、その道に無理やり僕の魔力を通す。メグが感じた何かなら、それくらいでも感知できるかもしれない」
「わかりました。お願いします」
一度深呼吸して、再び装置に手を触れる。
家々の排水管まで辿るわけではないとはいえ、街を縦断する長さに魔力を流すことになる。
クソ女神様のおかげで生まれつき魔力量に自信はあるーーというか一級魔術師の資格も魔力量のゴリ押しで取った僕だが、それでもかなりの大仕事になる。
「いくよ。……っ!?」
魔力を流し始め、体内の魔力がぎゅんぎゅんと目減りしていくのを感じていたのも束の間ーーそう遠くないところで、突然魔力の道が寸断された。
予想通り、かなりタチの悪い魔力だ。分かりやすいのは良いが、本格的に危険かもしれない。
「どちらですか!?」
「ふぅ、はぁ、はぁっ……うん、方向的にはあっちだ。多分下りの一番右の道」
思ったより短く済んだとはいえ、一気に魔力を失って疲労感が襲ってくる。マーガレットが軽く回復をかけてくれて初めて喋れるようになった僕は、答えながら方角を示した。
「道さえ間違えなければ、走れば五分くらいの距離だ。とりあえず進もう」
方向はわかったのだが、道がそこに真っ直ぐ通じている訳ではない。
枝分かれしていく道を何度も間違えれば、時間がかなりかかってしまう恐れもあった。
だが、進んでいくにつれてその心配はなくなった。
僕にもわかるくらいはっきりと、邪悪な魔力が満ちてきたからだ。
「こちらです!」
これなら、マーガレットなら迷いなくその根源へと進むことができる。
しかし、予想以上の大物だ。
地下水路で魔物が発生するとしたら、水から生まれるスライムか、住み着くネズミが濁った魔力にあてられて変異するくらいだと思ったのだが……。
「っ、止まって!」
いくつめかの角を曲がった瞬間、嫌な気配がして先導していたマーガレットを止める。出しっぱなしにしていた火を強くして、奥まで照らしつつ攻撃に移れる構えを取った。
「あれは……!」
通路の奥にぼんやりとだが、何か大きな塊が見える。いや、あれは水路から溢れた何かが通路を塞いでいるのか。
マーガレットの前に出て、ゆっくりと進む。
そろそろ相手の正体が見える距離まで詰めたところで、僕の足が何か柔らかいものを踏んだ。
と、思った次の瞬間。
「何!?」
突然足に何かが巻きついてきて、相手の方に引きずりこまれる!
僕は尻もちをつきながらも、咄嗟に手に出していた火球を地面に叩きつけた。
僕の足から伸びる何かに火球が直撃する。
それで一応止まった隙に、僕は新たに3つ火球を生成した。その一つを敵の頭上に飛ばす。
そこでようやく、敵の正体が見えた。
僕の予想は実は当たっていた。
そこにいたのはスライムだった。
ただしそれは、水から生まれ出た普通のスライムとは似ても似つかない。
水路からはみ出て通路を塞ぐほどの大きさに、どす黒い血のような赤色。
何より、スライムは口しかないはずなのに。
そいつの上部には、目玉としか思えない部位が無数に付いていた。
「化け物……!」
僕の足に巻きついてきたのはヤツの体を触手の状に伸ばしたもののようだ。めちゃくちゃ気持ち悪いが、焼き切れて本体から離れたそれはもう溶けて床に広がっているのでとりあえず忘れる。
「レインさん、あいつの左奥に……!」
マーガレットの声の震えに、嫌なものを感じながらも目を凝らす。
残念ながら予感は当たった。
僕の足のよりも太い、人間の脚くらいはあろうかという太さの触手が体の左側から何本も伸びている。
そのうちの二本が、見覚えのある小さな身体を抱え込んでいた。
最初の魔物はやはりスライム。ところでラブコメとは?
連休だし明日も投稿したいですね〜(願望)
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