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緊急依頼:迷子の二人を探せ!(★★)

当社比20倍の執筆速度。三話です。

「子供が二人、消えてしまって……!」


フランツ神父の言葉に、僕は息を呑む。


が、すぐに意識を冒険者としてのそれに切り替えて落ち着かせる。

正式な依頼ではないけど、危機にプロとして頼られている以上は迅速で正確な対応をしなくてはならない。

マーガレットは僕よりショックが大きいだろうし、僕がしっかりしないと……!


「フランツさん、落ち着いて僕の質問に答えて下さい。

 まず、どの二人がいなくなったのですか? そして、それはいつの話ですか? 衛兵にはもう連絡を?」


「衛兵にはもう言って、探してもらっています。

 昨日、買い出し当番だったレンとダグが夕食の時間にも帰ってこなかったんです。どうせ長い寄り道をしているんだろうと思ったのですが…」


レンとダグ。この二人は仲良しだったはずだ。

好奇心旺盛でわんぱくなレンと、そんなレンにいつもくっついて回る手先が器用なダグ。二人で協力して仕掛けるイタズラはひだまりの家の名物だ。


子供の中では年長でもあるあの二人なら、確かに寄り道して帰るくらいしょっちゅうだったのだろう。神父があまり心配しなかったのも無理もない。だが。


「夜が更けても帰らなかったと。それで、衛兵には昨晩のうちに?」


「ええ、家々の明かりがほとんど消えた頃でしょうか。事態を直視するのが遅くなってしまった、私の責任です……」


神父は沈痛な面持ちでそうこぼす。責任を感じるのは当然だが、今はできることをして貰わないといけない。


「まだ取り返しのつかない事が起こったわけではありませんよ、神父。

 衛兵の捜索でも見つからず、朝になってからは街の人たちにも声をかけて探してもらっているが、まだ手がかりもない。そういう状況で合っていますか?」


「ええ、おっしゃる通りです。買い出し先のご主人に聞いたら、そもそも昨日は来ていないと言うんです。寄り道と思っていましたが、もしかすると犯罪に巻き込まれたりしたのかも……」


神父の想像はどうしても悪い方に向かっていってしまうようだ。無論、その可能性は残念ながら否定できない。


だが、レンは確か路地裏育ちだった筈だ。


ひだまりの家の子供の来歴は大きく分けて二種類だ。一つは生まれてすぐに親が育てるのを諦めて、家の前に置き去りにするケース。もう一つは、親の突然の死や夜逃げなどで突然一人になり、しばらく街の隅で浮浪したところを見つけられるケース。


後者は多くが、数ヶ月を街の暗い部分で過ごしてから教会の巡回に見つけられることになる。

盗んで、隠れて。そうするしか生きていくすべがないからだ。


レンもそういうタイプだから、やんちゃと言っても本当に入ってはいけない場所はわかっているはず。だから犯罪の線よりは……


「買い物をして荷物が増える前に、どこかを探検でもしたんじゃないでしょうか? そこで事故にあったとか」


「探検ですか……しかし、街の中にそんな場所があるでしょうか? 衛兵に連絡が行っている以上、街を出た可能性は低い筈です」


「ええ、門を通らずに出るのはやんちゃ坊主にも無理でしょうからね。聞いてみましょうか」


僕はそう言って、神父の後ろにわらわらと集まっている子供たちの方を向いた。

心配そうに僕たち話を聞いていた子、何があったのか分からない様子の子。さまざまだが、みんな「何か起こっている」ことは感じているのか、レンとダグ以外は揃っているようだ。


「レンとダグから、新しい遊び場の話とか聞いてない?」


そう問いかけるも、子供たちは首を横に振るばかり。


代わりに答えたのはフランツ神父だった。


「もちろんそれも考えて全員に聞きました。誰も場所に心当たりはないようで」


その通りのようだ。でも、どこかそわそわした子が何人かいることが、僕には気になった。


「じゃあ、最近二人が何かこそこそしてるのを見たり聞いたりした人は?」


「きいた!」


突然一人が元気よく答えた。あの子はいつも本を読んでる……たしか、ジナ。


「あのね、レンがダグに、またでぐちをみつけたぞ!っていってたの。なんのでぐちかきいたら、ひみつ!って」


「ぼ、僕、それ覚えてる」


ジナに続いて声を上げたのは、背が高い(僕以上シャルル以下)けど怖がりのトッド。


「レンが、すごい服をよごして帰ってきた日だ。ま、マザーにすごく怒られてた……」


興味深い情報だ。僕はトッドに、意識してゆっくりと問いかける。


「汚してって、どんな汚れか覚えてる? 泥とか?」


「ど、泥よりもっと、フケツな感じ。ズボンのすそにゴミがくっついてたし、ぼ、僕、どぶにでも入ったのかと、思って」


また出口を見つけた。不潔に汚れた服。

おそらく二人が行ったのは……


「地下水路を、探検していたのでは」


僕が行き着いたのと同じ考えに、ずっと黙っていた彼女ーーマーガレットも、たどり着いたようだった。


「さっと入れば、一瞬で人目につかずに消えてしまいます。もし何かあって出られなくなってしまったら、街の人にも衛兵にも見つけられない」


「うん。暗いし他の人は寄り付かないし、おまけに街の至る所に繋がってる。男の子なら探検したくなるんじゃないかな」


「地下水路ですか……! 考えてもみませんでしたが、たしかに。すぐに連絡しないと」


フランツ神父が光明を得たとばかりに衛兵を呼びに行こうとする。だが。


「おそらく、街中に張り巡らされた地下水路を、子供一人のためにくまなく捜索はしてくれないでしょう。今はパトロールがてら見て回れるから、やってくれているだけです」


「そんな……しかし、どこで足を取られているとも知れない。人手がないと」


どうする……? 依頼をギルドに出すのは正規の手順じゃ時間がかかりすぎる。声をかければ協力してくれそうな冒険者友達もいなくはないけど、彼らを探すのにも時間がいる。伝言だけギルドに頼むか?


「大丈夫です」


そう、一言。


静かな、しかし芯の通った声でマーガレットが言う。


「レンも、ダグも、私たちが連れ帰ってきます」


「マーガレット……君の冒険者としての活躍は聞いているし、もとより信頼していますが……」


困った顔のフランツ神父に、マーガレットはもう一度言う。


「必ず、連れ帰りますから」


そうだ。僕が励ましたりしなくても、彼女はすぐに自分を取り戻す。


マーガレットは、街の人が慕うシスターさんで、子供たちの優しいお姉ちゃんで、そして。


僕らのパーティの頼れる回復役。一流の冒険者なんだ……!


「ほら、お野菜をたくさん頂いてきたんです。フランツ神父の言うことをちゃんと聞いて、みんなで美味しく料理してくださいね」


そう言ってマーガレットは、手に持っていた野菜をトッドに渡す。


「出来上がる頃には二人も帰ってきますから。全員で食べましょう」


その時のマーガレットの笑顔は、柔らかで慈愛に満ちて、けれどどんな不幸にも負けないような強さを秘めていて。


見た人は恋に落ちるかもしれない。あるいは彼女こそを信仰してしまうかもしれない。


僕自身が感じた思いが何かは、わからないけどーーただ僕も自然と、彼女を真似るようにして子供たちに笑ってみせていた。


「……やはり、貴女を教会の外へ送り出して良かったと思います、マーガレット。どうか二人を、頼みます」


彼もまた信仰に生きる人だからなのか。フランツ神父の目には薄く涙が見えていた。


「ええ、任せてください。私はまだまだ未熟ですが」


そう、マーガレット、君こそ本当に聖女候補に相応しい人だ。


「私の仲間は凄い魔導士ですから。二人をあっという間に見つけてくれます。ね、レインさん」


そう、レインさんなら絶対に二人を……レインさんなら?


屈んで自分の野菜を子供たちに渡していた僕が、ゆっくりと顔を上げると。


子供たちが、フランツ神父が、マーガレットを見ていたのと同じ感動した顔で自分を見ていた。


その純心な視線が、まるで縛り付ける鎖のようで。僕の動きは急にギチギチとぎこちなくなる。


そうか……僕が、一人で、このリンド全域の地下水路を……いやそれは、ふかの……?


亀のようにゆっくりと振り返る僕の両目は、しかし自分の魔力量と状況から客観的結論が導き出されるよりも一瞬早く、マーガレットを視界にとらえた。


そこにあったのは、先程までと寸分も変わらぬ聖女の笑み。それが見えた途端、急に僕の顔面は速やかに動き始めーー


「もちろんさ、メグ。任せてよ」


僕は自分史上ベストのキメ顔でそう言っていた。


ああマーガレット、君は男にとっては悪魔でもあるかもしれない。

とりあえずこの事件の結末までは決まってるのでサクサク書けそうです。しかし苦手克服でラブコメを選んだ筈なのに要素がどんどん薄れてるような…?


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