表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/29

6話 『早とちり騎士』


「この通りだ。本当にすまなかった」


 謝罪と同時に赤髪の騎士――ソフィアが首を垂れた。勘違いで始まった疑惑は晴れ、悠人は土下座する彼女の前に立ち尽くしていた。


「き、騎士様、どうか顔をお上げください」

「違うだろ。まだ早い」

 ミアが慌てた声をあげ、紫色の髪を揺らしながら騎士の元へと近づく。しかし悠人はそれを制し、サメのように下卑た笑みを浮かべて鋭い目で見下ろした。


「だってよ。こいつ公衆の面前で犯罪者呼ばわりしたんだぜ? しかもその理由を聞いたら勘違いときた。碌に調べもしないで散々喚き散らして、間違いが発覚してからごめんなさい。それで済むなら警察はいらねえよな? それに俺は何度も違うって言ってんのに聞きやしねえ。もうこれ冤罪じゃね? 正義の騎士様がこれだから世界中の罪のない人が――ん? この剣はなんだ?」

 そっと差し出された長剣を訝しげに受け取る悠人。それを見るや否や彼女は滑らかな動作で一歩分下がり、頭をこちらに傾けた。


「悠人。お前の言う通りだ。私は謝るだけでは済まないことをした。だからこの命をもって罪を償わせてくれ」

「そこまでしろとは言ってねえ!」

 悠人は剣を押し戻すが、彼女も譲らない。


「それでは私はいったいどうすればよいのだ」

「お前の命なんぞほしくねえよ。それよりも、もう少し誠意をだな――」

「誠意……まさか!」


 急に立ち上がり、体を震わせた。かと思いきや、勇んで白の鎧を脱ぎ始め、黒のシャツとスカート姿になった。目を見張るほどの豊かな胸を寄せ、やはりもじもじと恥ずかし気な表情を浮かべている。

度し難い行動に加え、二度も会話を挟まれた悠人は戸惑いを隠せない。ミアも目を点にしている。


「ふ、ふふ。なるほどな。確かにそれは命を差し出すより困難だな。この私に裸で全力のすっとぼけ音頭を踊れとはな」

「は?」

 さらに訳の分からないことを言い始めたソフィア。悠人は訝し気にその様子を見つめていたが、見つめている場合ではないと気付く。ミアも同じ反応をしていた。


「騎士様! どうかお辞めください!」

「止めるな! 私はこれを踊りきって正義を貫き通すんだ!」

「違うから! ってかお前の正義の基準ってどうなってんだよ!」


 公衆の面前で服を脱ぎ捨てて踊る方が、よっぽど立ち悪い。悠人も止めに入ったが、邪魔をするなの一点張りで一向に止まる気配がない。黒のシャツから浅く焼けた肌がちらりと見え始める。


「いい加減に――しろ!」

 言葉を短く切り、悠人は彼女の脳天に鋭いチョップをお見舞いする。かなり手加減したつもりだったが、効いたようだ。ソフィアはぐらりと首を回し、地面に膝をついた。


「人の話は最後まで聞けって何度も言ってるだろ。冗談だ。冗談。少しからかっただけだろうが。真に受けんな」

「悠人様……」

 ミアは何か言いたげな表情で悠人を見つめていたが、鋭い視線を向けると顔を伏せた。代わりに落ちていた鎧を拾い上げようとする。


「だがな、それでは私の気が済まない……どうしたものか」

「それはまた別の機会だ。それより実は今、宿を探しているんだ。お前、この辺に詳しいんだろ? いい宿があったら教えてくれよ」

「それは構わないが……それでよいのか?」

「とりあえずは、だ」

 ソフィアは暫く考え込むような仕草をしていたが、ふむと頷くと立ち上がった。それから鎧を持ち上げるのに未だ苦戦しているミアの元へ行き、軽々と拾い上げて身に着ける。


「了解した。私の知人に宿屋をやっている者がいる。そこまで案内しよう」

 彼女は振り返り先頭切って歩き出し、悠人とミアもそれに続いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=27451956&si ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ