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29話 『巫女の行方』


 スラスト町の神社の巫女――ルナが失踪した。フロック曰く、神社の屋敷に戻ったときにはすでに使用人たちが騒然としており、彼女の行方を捜していたらしい。

 彼女がいなくなったことを知ったフロックは知人と言う知人に探すのを手伝ってもらい、今もなお町中を駆け回っている。


 悠人もまた、ラフス、フロックと共に行方を捜していた。風が強まる一方、何の音沙汰もなく時間だけが過ぎていき、場に緊迫と焦燥がはびこっている。


「おい! そっちはいたか?」

「ダメだ! 見つからない!」

 風の音にかき消されぬよう大声を上げたラフスに対し、フロックは首を振って答えた。裏路地から出てきた彼は、ラフスたちのところへと走り寄ってくる。


「こっちはもういない。次は商店街を探してみよう」

 悠人とラフスは頷き、商店街へと向かっていくフロックの後を追いかける。


「ルナ。ルナ……」

 一向に見つかる気配がなく焦りだけが先走り、フロックは溢れ出る不安を吐露する。

 溺愛していた妹の失踪。それは彼にとってとても耐え難いことであった。青ざめた表情で必死に捜している彼の計り知れない気持ちに、悠人たち二人はかける言葉がない。今はただ見つかることを祈って捜し続けるしかなかった。


 果たしてたどり着いた商店街。しかしやはりどこにもルナの姿はなかった。募る焦りに次第に声を荒げるフロック。ラフスもどうしていいかわからず狼狽えている。


 そんな二人を眺めて、このままでは見つからないだろうと考えた悠人はフロックに声を掛けた。


「フロック。お前、屋敷で何か聞いてないのか? このまま闇雲に捜してても効率悪いだろうが」

「何か?」

「ああ、理由もなくいなくなったりはしねえはずだ。どうしていなくなったのかとか、ルナの行きそうな場所とか、何でもいい。思い当たることはねえのかよ」


 強風が三人の顔に吹き付けた。しかし、フロックは強風を気にも留めずに目を瞑って思考に(ふけ)る。

 しばらくの間、彼は顎に手を添えて考え込むように俯く。妙に長く感じた時間の先に、フロックは目を開き、何かを思い出したように語りだす。


「そういえば、金色の魔水晶がなくなってた」

「何だ? それ」

 フロックから零れ落ちた聞いたことのない単語に、ラフスが問いかけた。悠人も同様に不可解な表情を呈する。


「うちの神社に代々伝わる悪魔払いの秘宝だよ。昔、この町を襲った邪神を魔水晶を使って追い払ったって逸話があるんだ。魔水晶の金色の光にあてがわれたものはその身が一瞬で燃やし尽くされる。それほど強力な代物なんだ」

「何それ、えげつねえ!」

「でも、何でなくなって……まさか!」


 唐突に叫び声をあげたフロックは何の説明もなしに走り出した。

 向かうは嵐がやって来る方角。悠人とラフスは彼のただならぬ雰囲気に後を追った。


「おい! ちょっと待てよ! どうしたってんだ!」

 後ろからの問いかけに、フロックは走ったまま首だけをこちらに向けて答える。


「金色の魔水晶は魔物にも有効だ! グランドタートルも例外じゃない! ルナはきっと追い払おうとしてるんだ!」

「おいおい! でもそれってかなり危ないんじゃ――」


 途中、言いかけたラフスの視界に青ざめた表情のフロックが映った。緊迫した、切羽詰まったように走り続ける彼を見て、それだけでラフスは今の状況が尋常でないことを悟る。


 かくして口を紡いだラフス、心配に顔を歪めるフロック、そして悠人の三人はルナの安否を確かめるべく、グランドタートルのいる方角へと急ぐのだった。


2021年2月27日以前から本作品を読んでくださっている方へ。


赤髪の騎士、ソフィアが所属している団体名を『王国騎士団』に変更しましたので、この場でお知らせいたします。

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