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1話 『ラノベの神に招かれた男』


「全然ダメだな」


 カーテン越しに朝日がほんのりと差し込む薄暗い部屋。綾崎悠人は慣れた手つきでキーボードを叩き、感想欄に酷評の嵐を書き込む。論理的にわかりやすく、かつ丁寧に一つずつ論破していき、軽快なリズムで文字を刻んでいく。


「つまり、おもんねえ……送信っと」


 エンターキーを派手に叩きつけ、両手を伸ばして欠伸をする。時計の針は7時を指していた。寝る前に夕飯を食べようと悠人は台所へと向かう。

 幾重にも重なったごみ袋を足でかき分け、たどり着いた台所の棚からカップ麺を取り出し、ポットに水を入れてセットする。それからジャージの袖をまくり、沸いた湯を注いで再びリビングへと戻る。麺を啜りながらパソコンの画面に目を運ぶと、すでに送信した感想に他のユーザからメッセージが三つ届いていた。どれも自分に賛同しており、悠人は見る目があるなと愉悦に浸る。


「最近の作品ってどうしてこうも浅いのかね~」


 当然、ネット小説の中にも人の感情の機微を描いた素晴らしい作品も数多くある。本当なら、そのような作品を見たくて訪れているわけだが、最近はそれが減ってきたように思われる。さっき閲覧した作品もいわゆる『異世界チーレム』系の作品で人の深みなど一切無視しており、かなり浅かった――これは由々しき事態だ。

 だから悠人は自身で作品を書いて投稿しているのだが、一向に人気が出ない。それも先ほどの作品に圧倒的大差をつけられて負けるという始末。やはり他の人間は見る目がない。もうこの界隈は終わっている。


 カップ麺の汁を最後まで飲み干し、背伸びをした悠人は横になって目を閉じる。今日も何の収穫もなかったなと不貞腐れ気味にしていると、パソコンの方から音が鳴った。

 目を擦って見てみると、開いたままの感想欄に作者からの返信が届いていた。


『お前、ちょっとこっち来い』


「は? 何言ってんの?」


 どうやってそっちに行けと。いや色々ツッコミたい所はあるが、とりあえずアホなのか?負け惜しみにしても、もう少しマシなものにしてほしかったね。

 悠人は感想欄下部に書かれている筆者の名前に視線を移す。そこには『神』と書かれており、腹を抱えて笑う。


「自分のこと神って! 痛い、痛すぎる」


 笑いを堪えつつ、再びキーボードと向かい合う。そして最初の文字を打とうとしたその時だった。唐突に画面が光りだす。


「へ?」


 瞼を閉じた彼の姿はその光と共に消えた。

 そして誰もいなくなった暗い部屋で、ごみ袋の山が微かにずれ落ちたのだった。


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