02
キングスレー。元魔王軍幹部で、怠惰のあまり人間であることをやめた、ぐうたらエルダーリッチだ。
「おお! ダンテじゃないか、久し振りだのう。元気にしとったか?」
「あんたが起きてるなんて珍しいじゃねえか。明日は槍が降るかもな」
「カッカッカ! 相変わらず口が悪い男だのう」
真っ黒なローブを羽織っただけのだらしない格好も、笑うと顎がガタガタ鳴るのも相変わらずだ。
肉も皮も残っていない骨だけの体は、一見すると脆そうだが、下手すると殴った相手の拳が砕ける。腕を外してぶん回せば、それだけで立派な鈍器だ。
「それで、いつ始められるかのう?」
「始めるって?」
「掃除に来てくれたんじゃろう? もう汚くって堪らんのじゃ。頼む」
「ざっけんな!」
思わず手が出た。ばこっ、と軽い音がして、キングスレーの頭部が地面に転がる。
「何じゃ、掃除でないなら何しに来た」
転がった頭部は、問題なく会話を続ける。
「途端に迷惑そうな顔すんな。ちったあもてなせよ」
「儂は面倒事が嫌いなんじゃ」
「俺達を面倒くさいって切り捨てたか、今?」
両肩を占領するセツを左に寄せ、首からぶら下がるフェルを左脇に抱える。視界が開けたことでキングスレーの頭が見えたのだろう、フェルが大仰にびくりと震えた。
「ガキ共がくつろぐ場所くらいあるんだろうな」
「……うむ、客間の掃除だけはしたぞ」
「あ、そう」
昔から、何でもかんでも面倒がるじじいだった。人間をやめた理由だって、寝るのも食うのも面倒くさい、というとんでもないものだ。そのくせ、楽をするための苦労なら買ってでもするという変わり者でもある。
リッチーになるために買った苦労のせいで当時、王国から指名手配を食らって大立ち回りを繰り広げたという。行き着いた先が魔王軍で、長年そこの幹部をやっていたというのだから堪らない。
「いつまで転がってんだ。中、案内してくれ」
空いた右腕で横たえたクロエの体を抱き上げる。これでもう、何も持てない。両手が埋まった。
「儂もおぶってくれんか?」
「折るぞ、じじい。さっさと歩け」
キングスレーは骨だけのくせにやたら重い。アダマンタイトでも詰まってんじゃねえだろうな、と本気で折って確かめようと思ったことがある。
「ダンテよ、その大荷物は何じゃ? 土産か?」
頭を戻したキングスレーが火の玉を増やして先頭に立った。手招きに応じてついて行く。
「食材だよ。あんたと違って、俺たちには飯が必要なんだ」
「お前さんは食わんでも平気じゃろうて」
「うるせえ」
地下迷宮の入り口は、一見するとただの洞窟だ。火の玉に照らされた壁や地面を見るに、汚い、とは言ってもここまでは侵食していないらしい。
奥まで進んで、行き止まり。地下への階段は地面の一部を切り取った蓋の下で、見つけるのは難しい。なにせただの地面だ。
キングスレーが地面に手を突っ込んで、微量の魔力を流す。
ぐうたらだろうと面倒くさがりだろうと、こいつは魔王軍で最も優秀な魔法使いだった。無駄に長く生きてない。平気で独自の魔法を開発することだってある。魔法省が喉から手が出るほど欲しがっている魔法にまつわる歴史の生き証人だ。
地面が正方形に切り出された。下から階段が姿を見せる。
「ちと狭いかの?」
大荷物を抱える俺を振り返って、キングスレーが首を傾げる。
「問題ねえよ」
先に階段を下りて、待つ。
蓋は閉じると、また地面と同化する。確か停滞と反芻がどうのこうの言ってたはずだ。時空魔法とはまた違う、ややこしい魔法。どんな魔法でも使える自信はあるが、仕組みも理屈も興味がないことを、キングスレーにはよく責められた。
「あー……疲れた。ダンテ、肩を揉んでくれ」
「疲れる肩はもうねえだろ。どこを解すんだよ」
「気持ちの問題じゃよ」
気持ちの問題なら揉まねえよ。俺の手が痛むだけじゃねえか。
「客間は……こっち、あっち、……こっちじゃ」
嫌な予感がする。
キングスレーが間違えたら教えるようセツにこっそり指示を出し、おっかなびっくりついて行く。
地下迷宮は、複雑に入り組んだ通路と見分けのつかない外観をした部屋で構成されている。ずぼらなキングスレーが詳細を把握しているかどうか、怪しいもんだ。なにせこいつは居候。家主は別にいる。
「おお! あった見つけたぞダンテ、ここじゃ!」
嬉しそうに指さす部屋は確かに、通りすがりに覗いた部屋とは大違い。あるべきものがあるべきところへ、埃の一つも落ちてない。
「気合入れて掃除したな、キングスレー」
「気合も入るというものよ。儂だってたまには、な」
赤黒い眼光がわずかに柔らかくなる。
「ところでその娘、ちっとも起きんの」
「喋って動く白骨死体とは初めて会ったんだろうよ」
「軟弱な人間だのう」
「そう言ってやるなよ。平和を謳歌してんだよ、こいつは」
「ふむ……まあよかろう」
客間とは名ばかりで、清潔な部屋の中にはクッションが並べられ、タオルケットや毛布がいくつも置いてあった。床に敷き詰められたカーペットは柔らかく、横になっても問題なく体を労わってくれるだろう。……寝ることに重点を置き過ぎだ。
クロエの体を部屋の隅に横たえ、フェルも下ろす。頭の下にクッションを敷き、寒くはないのでタオルケットを腹にかけるだけに留める。
「さて、と」
荷物も下ろして、一息吐く。
「キングスレー、キッチンはまだ残ってるか?」
「取り壊した記憶はないのう。立ち入った記憶もないが」
「……あ、そう」
つまり一切、掃除してないってことだ。
どうなってるか想像するのも嫌になる。こめかみを揉み解していると、服の裾を引かれた。
「ダンテ、お腹空いた」
「さっき腹いっぱい食ったろ」
おかわりもしてたじゃねえか。
「……じゃあ、飯の準備してくるから、フェルはここで待ってろ」
「フェルも行く」
「クロエが起きた時、一人じゃびっくりするだろ。下手に動き回るとマジで迷子になるから、見ててくれる奴がいるんだよ。迷子になると死んじゃうかも」
お願い、とわざとらしく拝む。フェルはちょっと考えて、重々しく頷いてくれた。ホッと胸を撫で下ろす。
下ろした荷物の中から食材だけをまとめて担ぐ。
「助かるよ、フェル」
「ご飯、何?」
「トマトと野菜のごった煮」
フェルの表情が晴れ渡る。
「トマト! たくさん入れて!」
「エレーナがたくさんくれたから、たくさん食え」
きゃっきゃ、と笑いながら、フェルがクロエのそばを駆け回る。元気を持て余しているらしい。
「部屋から出るなよ」
「わかった!」
クッションの上で跳ね回りながら、器用に手を振ってみせるフェルに俺も返し、部屋を出る。
廊下の奥から飛んできたセツの分身の方が肩に乗った。すぐに喋りだすかと思ったが、予想に反して静かだ。代わりにキングスレーが口を開いた。
「ダンテよ、まだ十年しか経っておらんぞ」
責めるのとは違う、けれど血の通わない声だった。
「我らが魔王様であるはずがない」
「わかってるよ」
「ダンテよ、儂はお前さんに感謝しておる。お前さんは望まんだろうがな」
同意するようにセツが俺の頭に顎を乗せた。
「何でも言うがよい。かつてできなかったことも、今ならできよう」
噛みしめるようなその言葉を、否定したい気持ちはあるけれど口を噤む。
感謝されるようなことは何もしていない。俺が魔族に強いた犠牲は決して、許されることじゃない。望まれるまま振るった剣で散らした命を償う義務すら放棄して、森へと逃げ込んだ男だ。
「……今は、キッチンに案内してほしい」
茶化すにしては力ない声になったが、精一杯だった。
「……こっちじゃ」
深々と吐き出された溜め息に込められた諦念は、痛むが受け止める。茶化されてくれる優しさに甘えんだ、痛いくらいなんだ。
歩を進めながら、キングスレーは話題も逸らしてくれた。
「随分と大荷物じゃが、あの娘そんなに食うのか?」
「フェルだよ。それに、アイリスのとこにどれくらいいるかわかんねえから、大目に作って置いて行く」
「ほう、アイリスのところへ」
「いい加減、逃げ回っちゃいられねえからな」
「何じゃ、今になって臆病を自覚したのか? ダサンテめ」
「……俺をバカにする時ばっかり生き生きしやがって」
「カッカッカ! じじいなんぞそんなもんじゃ」
ろくでもねえ。
「ふむ、ではあの子らは儂が預かる、ということでよいかの」
「ああ、頼む」
そのために寄ったんだ。
「任せろ。子守りは得意じゃ」
「そう願うよ」
「しかし、アイリスの店は人間領ではなかったかのう?」
「転移魔法が使えるんだから、世界の裏側にいたって俺にとっちゃご近所さんだよ」
「……」
じぃっと突き刺さる視線を無視していると、不意に足元の地面が拳大に盛り上がった。
「~~っあ、っぶね!」
辛うじて避けた俺に向け、キングスレーは舌打ちしやがった。
「何すんだよ!」
「儂とて魔法使いの端くれじゃ! 赤子ほどの年齢の男に負けて気分がいいわけないじゃろう!?」
「みみっちい嫌がらせしてるじじいが何言ってんだ! 喧嘩は口でしろ口で!」
「そっちでも負けたら立ち直れんじゃろうが!」
「せめて挑んでから言えよ! 魔王軍幹部としての誇りはねえのか!?」
「もう魔王軍所属でも幹部でもないもんね~! あるのは積もり積もった埃だけじゃよ~ん!」
くっそムカつく。
肉も皮もないくせに、全力でバカにしてきやがる。鼻に当ててる両の親指、そのまま眼窩から引っ張り出してやろうか。
「ぎゃあぎゃあ! ダンテ、ついたぞ」
返事の代わりに舌打つ。
睨み合いながらキッチンへ踏み込んで、すぐに逃げ出す。キングスレーの顎が外れた。予想外だったらしい。
「きったねえ! あとくせえ!」
「ぎゃ、ぎゃぎゃ……し、死んじゃう。ダンテ、俺様ってば毒にやられたんだぜ」
「おぞましいのう」
噛みつく余裕もない。
かつて、清潔にしてから出て行ったはずのキッチンは見る影もない。汚染。これはもうゴミが散らかってるとかそういう規模じゃねえ。汚染だ。
のんびり顎を拾い上げるキングスレーを視界の隅に収めながら、地面にへたり込む。セツもスライムのような動きで肩から流れ落ちた。
「おぇ……ダンテ、死んじゃうんだぜ」
「脳まで腐る……おぇ、」
ありったけの魔力を練る。掃除なんて言ってる場合じゃねえ。
巻き戻す。魔力を練って、練って練って、キッチンの時間を十年前の清潔だった頃まで巻き戻す。魔力器官がギリギリと痛むが、中に踏み込んだ瞬間に鼻がもげると思えば大したことじゃない。新種の生物が誕生してると言われても信じるぞ。
「相変わらず、でたらめな魔力じゃのうダンテ」
「感心してる場合か。セツが死を覚悟する悪臭だぞ、反省しろ怠け者が」
「食事の必要のない我が家にキッチンをつくったんじゃ。管理はお前さんの仕事じゃろう」
暗に引きこもっていた俺を責めている。わかったから、これ以上は責められない。
「……次は間を開けずに来るから、簡単な掃除くらいしてくれよ」
キングスレーの顎が、今度は頭ごと落ちた。脆くなってんじゃねえか。
改めてキッチンに踏み込む。巻き戻したことで清潔なキッチンであることはわかっているのに、どうしても警戒してしまう。セツも同じ気持ちなのか、器用に翼で俺の腕にしがみついている。
担いできた荷物を下ろして、調理器具の確認をする。問題なさそうだ。知らず詰めていた息を吐き出して、さっそく準備に取り掛かる。
野菜を洗ったり皮をむく俺の手元を、興味深そうに頭を拾い上げたキングスレーがのぞき込む。
「器用なもんじゃのう」
「毎日やってりゃ慣れる」
手早く下ごしらえを済ませ、ちゃっちゃと煮込む。
悪臭がなくなって落ち着いたのか、セツが地面をひょこひょこ歩きながら鳴く。
「ぎゃっぎゃ! ダンテ、この骸骨じじいには魔王軍のこと聞かねえのか?」
味見する。問題なさそうだ。
「知ってりゃ言うだろ」
魔王への思い入れは深い方だ。偽物を見過ごしてやる男じゃねえし、魔王軍が暴れてりゃ、面倒くさがりなのも忘れて飛び出して行くだろう。
キングスレーは返事の代わりに肩を竦めた。
「ぎゃっぎゃ! のんびりするじゃねえか、ダンテ」
「自覚はあるよ」
のんびりし過ぎている。
「よし、できた。キングスレー、あいつら呼んで来い」
「娘の方は起こしても、また気絶するんじゃないかのう?」
「慣らせ」
「ぎゃっぎゃっぎゃ! 荒っぽいんだぜ!」
やれやれ、と首を振ったキングスレーを見送って、セツの体を抱き上げる。
「それで? お前は何を言いたがってんだ?」
言いたくないなら別に、黙っててもいいけど。
「ぎ、ぎぎ……。俺様はただ、ちょっと考えただけなんだぜ」
「何について?」
「旅の終わり」
俺が魔王の件を片付けて、そのあと。
俺が考えないようにしていることを、セツは考えたという。
「何か思いついたか?」
返事はなかった。思いついたけど、言いたくないらしい。
無理にしろうとすることはせず、セツの頭を撫でる。俺が考えてないことだ。代わりに考えてもらうようなことでもない。
「悪いな。そっちはもうしばらく、逃げ回るつもりなんだ」
「ダサンテ」
「知ってるよ」
俺はただの意気地なし。力はあっても勇気はない、弱虫だ。
「ぎゃっぎゃ、しかたねえなあ。ガキんちょには内緒にしといてやるんだぜ」
「助かるよ」
こちらへ向かう足音が聞こえたので、セツを下ろす。見つかったらフェルが拗ねる。
「ダンテ、トマト!」
一番乗りで飛び込んできたフェルが声を張る。
「ダンテはトマトじゃありません。手、洗ってこい」
「わかった!」
「カッカッカ! 元気じゃのう」
次に入ってきたキングスレーも、フェルに続いて手を洗っている。きちんと石鹸で洗っているところを見ると、良いカッコしたいらしい。
「……食欲ない」
最後に入ってきたクロエの顔は真っ青だ。
「慣れてくれ。愉快なじじいだ、怖くねえよ」
「人間と魔族が仲悪い理由、ちょっとわかったわ」
「そこから一歩、踏み出せるかどうかが分かれ目だ」
「……頑張る。時間がかかるかもしれないけど」
「幸いキングスレーには永遠がある。とことん付き合ってくれるさ」
面倒くさがりだが、気は長い。
「手を洗ったら飯だ」
「うん」
理解を拒まない。クロエは優しいだけの女の子じゃなく、強さも持ち合わせている。本当、良い子に育ったもんだ。さすがはシャーラの孫。
早く、早く、と急かすフェルの声に引っ張られ、急いで用意を済ませた。
◇
みんなが食べ終え、フェルが最後のおかわりをした頃、俺は席を立った。
「ダンテ?」
きょとん、と食事の手を止めたフェルが首を傾げる。
「フェル、俺は今からちょっとお出かけだ」
「フェルは?」
「悪いけど、また留守番しててくれ」
「嫌!」
ラインハルトだけ、とそう言って置いてきた。限定したくせに、また置いて行こうとしている。納得できないのはわかるけど、さすがに連れて行ったら非難されるだけじゃ済まない。
「今から行くところは、お子様立ち入り禁止なんだ」
「フェルお兄さんだもん!」
お兄さんは、だもん、なんて言わねえよ。
「フェル様や、今晩はおじじと遊んでもらうわけにはいかんかのう?」
思いがけない助け船に、フェルが口ごもった。
「明日からの食事のために肉を調達に行きたいんじゃが、老体ではちとしんどいのでな。優秀な魔法使いがいてくれると、助かるんじゃがどうかのう?」
優秀、の部分でフェルが、魔法使い、の部分でクロエが反応した。
「いいよ。遊んであげる」
「私も手伝う!」
二人の返事にキングスレーは顎をガタつかせながら笑った。
「じゃあ、肉は頼むぞ」
「わかった」
「キングスレー、くれぐれも、頼むぞ」
「大丈夫じゃから、行け」
任せた、と告げて舞い上がったセツを振り返る。
「セツ、行くぞ」
がちゃん、とフェルがスプーンを落とした。大きく見開かれた目が、不満を強く訴えてくる。
「烏は例外」
「フェル麻袋お化けだから! 人じゃないからフェルも例外!」
「子どもだから駄目」
「ダンテ嫌い!」
こっそり呼べばよかった。気が緩んだな。
「狩りに行くんだろ。終わったら、キングスレーのじいさんが遊んでくれるってさ。疲れ知らずだ。一晩中かけっこに付き合ってくれるぞ」
力強く頷くキングスレーの顎がガタガタと鳴る。
フェルは限界まで頬を膨らませたけど、二度目の嫌はなかった。
「いってくる」
「……いってらっしゃい」
苦笑が漏れる。
言っても聞かない俺の頑固さを、ここにきてフェルも諦め始めている。
気が変わらないうちに、さっさと魔力を練って転移する。
「ぎゃっぎゃっぎゃ!」
歪んだ視界が晴れる。
場所を移動しただけではない理由で、空気がガラッと変わった。
夜を撥ね返すような明るい街にずらりと並ぶ店は、軒並み男を相手に夢を売る目的のものだ。人間領内にある秘境、サキュバス街。その名の通り、サキュバスが住みついて商売している街だ。
人間と魔族との共存共栄を目指す、と張り切って発展させたらしいが、いかがわしさばっかり発展してるような気がするのは俺の気のせいだろうか。サキュバス以外の魔族もいるし、店も随分と増えてるし。やっぱりフェルを置いてきたのは正解だった。
「そこのお兄さん、寄って行かない?」
「あたしの店においでよ」
すり寄ってくる女たちの腕を躱しながら、目的の店へ急ぐ。
サキュバスだけでなく、獣人や有翼人の嬢までいる。……ハーフリングは人間相手の商売だと問題になりそうなもんだが。
目当ての店は街の奥にある。人の波をかき分けて進んでいると、遠くで名を呼ばれた。
「ダンテ!? ダンテじゃねえか!? そこ動くなよお前!」
絡みつくような女たちの声を切り裂いて、ざわつく男共の声をかち割って、野太い声が空気を震わせた。
視線を向けて、後悔する。目を背けたくなるような狂人が、全力疾走で俺に向かってきていた。
溜め息が重くなる。……何でみんな、俺に向かって突っ込んでくんの?
「うぉおおダァアアアンンンテェエエエエッ!」
勘弁してくれ……。




