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お伽噺の後日談  作者: かたつむり3号
第三章 昨日の敵は今日も敵、昨日の友も今日は敵。
20/33

05


 食後、子どもたちは、今日はままごとをすると言ってフェルを引きずって子ども部屋に引っ込んだ。姫ちゃんは、自分の子どもたちが心配だからと森へ帰った。


 話し合いの始まりだ。


「我々の誰も見ていない。ギャビンも知らない。これはもう決まりだろう」


 口火を切ったのはアンジェリカだ。


「魔王軍は存在しない、か……まあ、そうだよな~。そもそもセツの目を掻い潜れるような知能ねえよな? あいつら隠れたりしねえし」

「私も賛成よ」


 俺も異論はない。つまり満場一致。


「じ、じゃあ! 魔王軍がいないなら、魔王は……?」


 クロエが不安そうに俺を見上げる。

 そう、問題はそこだ。魔王軍を存在しないものとして断定すると、再び現れたという魔王、その存在も危うくなる。しかしこちらはそう簡単に断定できない。なにせ、言い出しっぺが女神だ。


「女神の嘘、だったりして……」


 バルトの声にハッとする。みんなが黙り込む中、うつむく中、バルトがちらりとこちらを見た。先に視線を逸らしたのは、バルトだ。


「案外、お前を森の外に引きずり出すのが目的かもしれねえぞ」


 何気なく装ったバルトの言葉にエレーナがぎょっとする。しかし顔を削いだりはしなかった。否定できないと思ったんだろう。アンジェリカからも反論はあがらない。もちろん俺にも、それを否定するだけの材料はない。

 俺を森の外に出すため。そのためだけに偽りの魔王をでっちあげ、フェルに不安を植えつけた。じじいや国王まで巻き込んで。


「……だとしたら、ただじゃおかねえ」


 神だからとて、許される範囲を超えている。


「待って。何で女神様がダンテを森から出そうとするの? 私は……私たちはダンテに会いたいから出てきてほしいって思ってたけど、女神様もそうなの?」


 しまった、と。バルトだけでなく、全員がそう思った。

 女神と俺の関係を、女神と俺たちの関係を、クロエは知らない。懇切丁寧に説明してやるようなことじゃないから、シャーラも当然、言ってない。

 クロエは女神を信仰していない。けれど女神が人々にとってどういう存在かは理解している。そういうものだと、受け入れることのできる奴だ。他人の信仰にとやかく言うような無粋さはない。知らなくていい、と俺は思う。知られたくない、とは違うことが、俺の駄目なところの最たるものだとも思う。


「女神は――」

「ダンテの聖剣が欲しいんだよ」


 遮って、バルトが声を被せた。


「ありゃ元は女神の秘密兵器なんだよ。それをダンテが無理矢理に強奪して、所有権まで自分のものにしちまったからな。うっかり厄介な約束までしたもんで、取り返そうと必死なんだよあいつ」


 正しくはない。でも、嘘ではない。思惑に含まれていないと断定できないから、間違いとも言い切れない。その程度の話。


「あの女神、ほんっと粘着質だよな」


 な? と笑ったフリをして、バルトがエレーナに目配せした。


「スライムだってあそこまでべったりしないわよね」

「む、エレーナ。スライムにもべったりした個体はいるんだぞ。可愛いぞ。愛情表現が過激で、こう張り付かれるともう絶対に満足するまで引き剥がせないんだ。興奮すると呼吸器にまで気が回らず塞いでくるから、要注意だけど」


 乗っかってきたアンジェリカのせいで話の軸が見えなくなった。エレーナの言葉選びはこういう時、過たず最適解を導いてくれる。


「そのスライム飼ってねえだろうな、アンジェリカ。うちの子どもたちに近づけんなよ、危ねえから」

「彼らには留守番してもらってるよ。私だって君たちの子どもたちは可愛いんだ」


 飼っているらしい。しかも複数体。

 みんなが無理矢理に空気を和らげる。それ自体は成功したけど、クロエは騙されてはくれなかった。


「ダンテ、返せないの? 返しちゃいなよ、聖剣」


 ぴくっ、と肩が跳ねたのは俺じゃなく、バルトだった。


「ダンテは勇者じゃないって言ったでしょ? 勇者じゃなくて、魔王もいないなら、聖剣だって要らないでしょ?」


 逃げていいよ、とシャーラによく似た優しい声で、クロエが下手くそに笑った。

 ――なあ、シャーラ。あんたの孫は、あんたによく似た優しい奴になったよ。

 過酷な現実ばかり見てきた子だからと、優しい綿で包んでやりたいってあんたの願い通り。一緒になって、綺麗なものだけ見せてやりたいと甘やかしてきたツケで今、クロエの優しさが俺を刺す。


「ただの旅行でお終いにしちゃおう? 聖剣は返して、嫌なことはしなくていいから、ね?」


 それは、できない。


「クロエ――」

「ありがとう、クロエ」


 険しいバルトの声を遮って、言葉を被せる。クロエの頭に触れ、髪を乱暴に乱す。


「そうできるよう、頑張ってみるさ」


 魔王の話がたとえ嘘でも、ただの旅行で終わりにはしてやれない。聖剣は返さないし、嫌なことから逃げるには、嫌なことが多過ぎる。それでも、悪夢は終わりにすべきだと思うから。


 クロエが何かを言おうとして、失敗して。何度か繰り返していると、エレーナが明るく一声、わん、と鳴いた。


「お茶にしましょう」

「いい匂いだな。エレーナ、私はおかわりをすると宣言しておく」

「きっと気に入る、わん。特にダンテはね」


 堪らず空笑いが漏れた。匂いだけでわかった、カモミールティーだ。

 匂いだけで、俺はあっという間に落ち着いてしまった。我ながら、あまりの素直さに笑ってしまう。


「いただきます」


 ゆっくり、ゆっくり飲んで、その温かさに頬が緩んだ。

 俺の森には花が咲いている場所もあるが、カモミールだけは一輪もない。俺が全部、摘んでしまった。だから我が家では、カモミールティーを飲めない。


「魔王の件はともかく、魔王軍がいないというのは良いことだと私は思うぞ」

「そうね。少なくとも、煩わされることはないもの」


 魔王軍。エレーナやギャビンが所属していた、魔王が管理していた軍勢ともう一つ、魔王が生み出した軍勢。前者はギャビンの話で可能性が消えた。あいつが知らないなら、他の誰も知らない。よって今、俺たちが警戒しているのは後者だ。

 

 人間を薙ぎ払い、村や町や都市を焼き払う。人間の脅威となる魔王軍は同時に、魔王軍幹部とその配下が治める領土を食い破り、魔族を食い荒らして進む、魔族にとっての脅威でもあった。魔王が生み出した軍勢とはそういう生き物だ。それがいないということは、そのせいで奪われる命に時間を割かずに済むということ。


「じゃあ行くか、魔王城。今度はみんなで」


 バルトの声に、みんなが頷く。


「どうせ出直すならみんなで行こうぜ」


 いつだって魔王城へは一人で乗り込んできた。魔王を殺した時も、前回も。一人で行って、必ず失敗してきた。


「そうだな……。じゃあ――」


 開いている窓の隣、閉まっている方の窓を破ってセツが飛び込んできた。よっぽど慌てる何かがあったらしい。


「ぎゃあ! ぎゃあ! 魔王軍! 魔王軍!」


 吹き出した。全員が茶を吹き出した。


「っっっっざっけんなセツこらてめぇ!」


 いないと結論付けたばかりの魔王軍の存在を、あっさり肯定するな。


「だって大群だぞ。五十はいるぞ。まっすぐここに向かってきてるんだぜ」


 全身の血が沸騰するような錯覚がした。目の前が真っ赤に染まる。

 言葉を失っていると、胸ぐらを掴まれハッとする。バルトはそのまま俺を強引に立たせた。


「モタモタしてっと置いてくぞ」


 言うなりバルトは部屋を出た。剣を取りに行ったのだろう。


「セツ、ディーナを呼んで護衛に回せ」

「ぎゃ!? 危ないだろそれは」

「言ってる場合か! アンジェリカは魔獣たちを一か所に集めて待機。エレーナは子どもたち連れて家の中で待機、クロエはエレーナの補助、ディーナは家の外で待機。持ち場を離れなきゃ安全にことが済む」


 でもでも、と騒ぐセツに反して、みんなは既に行動を開始した。

 ディーナはあれでも、守ることに関しては森の守護者の中でダントツの実力者だ。森に移住する前もしてからも、あいつは湖を守ってきたドラゴンだからな。誰かを守りながらの戦闘は、あいつが一番よくわかってる。


「だ、ダンテ! 私も、ここに残るの?」

「俺に守ってほしいなら連れて行ってやるけど、お前、確か『誰かを守れる大人』じゃなかったっけ?」

「~~っっま、任せてよね! エレーナさんも子どもたちも、私が守ってみせるんだから!」

「おう、期待してるぞ。頑張れ」


 くしゃっとまた髪を乱して部屋を出る。子ども部屋に駆け込むと、六つ子を抱き締めるエレーナが俺の部屋へ顎をしゃくった。

 ほとんど飛び込むような形で部屋に入ると、フェルは隅で真っ青になっていた。


「フェル!」

「だ、ダンテ……」


 見上げるフェルの二つの宝石が不安げに揺れた。強張っているだろう自分の顔に力を込める。口角を吊り上げ、震えそうになる喉に喝を入れる。笑え。


「おう。俺さ、今からバルトのお仕事見学行くんだけど、お前も来る?」


 へらへら笑う俺に呆れたのか、フェルの表情が溶けた。ヒヒ、と中途半端な笑みをこぼす。涙は忘れたらしい。


「行く」

「よし、すぐ準備しろ」


 荷物の中から剣を取る。俺のちょっと本気装備、アダマンタイト製の一級品。保険のつもりで持ってきただけなのに、まさか使うことになるとは。


「笛は持ってるな」

「持ってる」


 フェルが首から下げた笛を持ち上げる。俺と万が一はぐれたら吹け、と言ってある。


「大声出せるな」

「出せる」


 フェルが、がぱっ、と口を開ける。知らない奴に声をかけられたら俺に聞こえるくらいの大声で返事をしろ、と言ってある。


「よし、行くぞ」


 肩に担ぎ座らせる。


「走るからな、髪は掴むなよ」

「わかった」


 目を塞がれた。……いや、うん。見ようと思えば見えるけどね、魔眼あるし。

 フェルの両手を掴んで額まで移動させる。


「行くぞ」


 外に駆け出ると、バルトはもう待っていた。そばにディーナもいる。表皮に触れる瘴気が浄化されているのだろう、ディーナの流水の体はわずかに発光していた。


「遅ぇぞ」

「悪ぃ」


 ディーナが声に反応して尾を振った。絡みとって抱き締めようって魂胆だろうが、そうはいかない。巻き込まれかけたバルトを引っ掴んで大袈裟に避ける。いくら頑丈でも、ディーナの尾はバルトの体を潰しかねない。


「ディーナ! 頼りにしてるぞ!」

「任せてダンテちゃん。ママ頑張っちゃうわよ」

「お、おう頑張れ。中にエレーナたちがいるから、気をつけて暴れろよ」

「大丈夫よ、心配しないで。守ることに関しては、姫にだって負けないわ」

「任せた。行くぞバルト」


 走る。セツを呼び寄せ案内させる。

 魔王軍に自我はない。歩くこと、とにかく世界の端から端まで移動することが唯一の目的だ。通り道にある障害物は、それが人間でも魔族でも関係なく薙ぎ払ってひたすら進む。魔王の魔力器官で生成された魔素を変換して生み出された魔物は、それだけでその辺の魔族の力を凌駕する。ただ頑丈な魔物が大群でひたすら突き進む。魔族であっても悲鳴をあげるような存在だ。人間なんてひとたまりもない。

 そんな連中が今、こっちを目指して進んでいるという。自我も知性もないはずの有象無象が、目的地を一か所に定めて進んでいる。これは、非常にマズい。


「何で急に現れた? どこから湧いた?」

「ぎゃぎゃ! 知らねえ。俺様だって驚いてんだぜ」


 ちくしょう、勘弁しろ。


「ダンテ、ダンテ!」

「何だよセツ、今ちょっと――」

「俺様を連れてた時と動きがまるで違うんだぜ。ぶつかれよ、樹に。へし折った樹の破片を食えよ」


 ぶはっ、と。俺のすぐ後ろでバルトが吹き出した。思わず掴まっていた枝を砕いた。

 ダサかった話は内緒にする約束だったろ。忘れっぽいにも程がある。


「フェルを抱えてんだぞ。丁寧に走ってるに決まってんだろ」


 あの一回で感覚を思い出して器用に走れてるだけだが、癪なので適当なことを言う。


「ぎゃぎゃ!? 扱いに差をつけるの良くないんだぜ! 差別反対! 差別反対!」

「前見て飛べバカ! お前は抱っこしててやったろ――いってぇ!? フェルは目はやめろ鍛えられない部位はやめろ痛い痛い!」


 あまりに迷いのない攻撃だった。まさか目に指を突き刺されるとは思わなかった。とんでもなく痛い。眼球が潰れる感触で背筋が凍って、うっかり樹を蹴り倒した。傷は完治させたが、痛みが残ってる気がして落ち着かない。


「フェルも抱っこ!」

「対敵直前なんだよ俺たち! こんな大声で会話するのがそもそも駄目なの! 緊張感どこに落っことしてきたんだお前らいい加減にしろ! バカトてめぇはいつまで笑ってんだ!」


 ぎゃあぎゃあ、と叫んでいたセツが、不意に分裂して視界を塞いだ。急停止。茂みの裏に隠れて様子を窺う。

 自分たちの声で気づかなかったが、前方から近づく別の騒音があった。


「何の音だ?」

「声……?」


 セツを飛ばし、視界を共有する。

 群れだった。魔獣の群れが走っていた。狼や犬、狐の魔獣が中心の群れだ。隊列を組んでいるように見えるが、どこか歪だ。先頭の一匹が率いているのだろうが、そいつも時折ふらついている。


「様子が変だ」


 セツに接近させる。


「あ? 泣いてる?」

「は?」

「泣いてんだよ。魔獣の群れが疾走しながら泣いてる」


 涙で視界が滲むのだろう、時折ふらつくのはそのせいだ。遠吠えのような鳴き声を響かせながら、足を止めることなく駆けている。錯乱している、と言ってもいいだろう。正気だとは思えない。異常な光景だった。


「おい、泣いてるってまさか……」

「例の発作かもな」


 急に泣き出す、エレーナも難儀していた発作。


「っ……!」

「どうなってんだよ……。ダンテ、どうす――」


 バルトの言葉を無視して茂みから飛び出し剣を抜く。


「ダンテ? おい!」

「事情は生き残りに聞く。まずは足を止めて、数を減らす」

「急に短気を起こすのやめろよ。手伝うけどさ」


 確かに聞こえた。泣き声に紛れて、遠吠えの合間に、俺の名を呼ぶ声が確かに聞こえた。俺の名が出るということは、連中の目的が俺ということだ。自我もある。知性もある。魔王が生み出したのではなく、管理していた方の軍勢が今、俺を目指して迫っている。


「気合い入れろよ、バルト。あいつらは、ちゃんと考えて動くぞ」


 空気が張り詰める。


「いないんじゃなかったのか?」

「知らねえよ。本人たちに聞いてみよう」

「そりゃ手っ取り早くていいな。……どこまでやっちゃっていいの?」

「俺は今、満腹のフェルを抱えている!」

「よし、虎の嬢ちゃんがビビらない程度だな」


 か子は冗談でなく本当にお嬢様だったので、元々のビビりも相まり、魔族を見ては泣き、俺たちが魔物を殺しては泣き、千切っては吐き、中身をぶちまければ吐き。もうありとあらゆる討伐行為で吐いていた。魔物を殺すことが生活の一部になっていた俺たちの間で、か子が吐かない、という基準は画期的だった。斬ったり潰したり千切ったりしない戦闘は、俺たちが頭を悩ませていた臓物を浴びて鼻がもげるほど体が臭いとか、体液を浴びたバルトが変な幻覚を見るとか、そういった類の不利益を一掃した。


「剣は置いてくりゃよかったな」

「負荷かけてんだよ。良い運動だろ」


 姿が見えた。

 直接見て、その鳴き声を聞いて、確信する。やはり俺の名を呼んでいる。はっきり聞こえた。

 踏み出す――


「待てダンテ止まれ!」


 悲鳴にも似たバルトの声で急停止する。


「何だ!」

「攻撃するな。あいつら、エレーナの部下だ」

「は?」

「エレーナの部下だった銀狼(ぎんおおかみ)の群れだよ!」


 牙が迫る。爪が迫る。

 話し合ってる時間も、考える余裕もない。

 魔力を練る。


「ダンテ!」

「わかってるよ黙ってろ!」


 こんな大群と正面衝突なんざごめんだ。かといって乱暴な手段で怪我をさせたら、エレーナが悲しむ。


「今の俺であったことに感謝しろよ!!」


 ぶん投げる。

 時空魔法をぶん投げる。まずは動きを止めて、話はそれからだ。


「古の魔法はなあ! 乱発すると俺だってしんどいんだぞ!」


 やけくそだった。

 魔王軍じゃなかったのかよ。エレーナの部下って何だよ。


「わかったら、しばらく良い子でおねんねしとけや!」


 再び魔法をぶん投げる。同時に時空魔法を解除していく。倒れた体で圧し潰し合わないよう位置をズラすための風魔法とフェルを寝かしつける時に使う、睡眠の魔法。意識を塗り潰して強制的に眠らせる、精神に干渉する魔法の応用だ。


「~~~~っっくっそ、」


 大規模に展開する魔法は久し振りで、魔力器官が悲鳴をあげる。循環する魔素がごっそり減った。痛ってえ……。


「フェル、怪我してないか」

「ない」

「バルト、本当にエレーナの部下なんだな」

「嫁さんの部下だぞ、間違えねえよ」

「セツ、終わったって連絡して、ディーナはすぐ帰せ。エレーナ連れてこい」

「ぎゃぎゃ、任せろ!」


 その場にどっかり座って胡坐をかく。ちょっと疲れた。


「一個わかったな。隠密行動は得意な連中だ。セツが見落としてもしかたねえ」

「むしろわかんなくなったろ。何でこいつらが襲ってくんだよ」

「発作でパニくって、助けを求めにきたとか?」

「こいつら俺の名前を呼んでたぞ。エレーナの部下が俺に助けを求めんのか?」

「……起きたら聞いてみようぜ」


 例の発作を起こしていた場合、大した情報はきっと得られない。なぜ涙が出るのかわからず、なぜ悲しいのかもわからない。自発的な行動であるかさえ不明なんだ。


「ダンテ、何を考えてる?」

「……魔法なら、納得できるよな」


 相手の精神に干渉し、服従させる古の魔法。


「例の発作も、セツが見たっていう壊滅した人間の村の原因も、こいつらも全部。魔法による影響だとしたら?」

「おいおい、待てよダンテ。嘘だって話になってたろ……? だって、そうじゃねえと、」


 そう、問題が再び浮上する。


「よし、ユリウスに会ってくるわ俺」


 ぎょっとしたのはセツだ。


「ぎゃ!? ダンテ、あいつのとこ行くのか? 正気じゃねえんだぜ」

「無視はできねえだろ」


 俺の思考がわかるセツだからこそ、避けるべきだと警告している。それでも、あいつだって仲間なんだ。黙ったままではいられない。


「ダンテ、どこ行く? フェルも行く」

「フェル、今回ばかりは駄目だ」

「……何で」


 ユリウスは駄目だ。フェルの体を地面に下ろし、視線を合わせる。


「あいつはお前を歓迎しないからだ。いじめられるとわかってる場所に出向く必要はない」

「ダンテは?」

「あいつは俺のこと嫌ってるけど、喧嘩じゃ俺に勝てないから大人しいさ」

「ダンテ、フェルを守る」

「あいつがいるのは、ディーナが住処にしてた場所だ。守ってやるには土地ごと吹き飛ばすことになる。でもそれは、したくない」

「……烏は」

「置いて行くよ。セツはあいつのこと嫌いだから」


 嫌だ、と顔に書いてある。どこかに行くときは誘うと約束して、仲直りした。でも結局、俺はフェルを誘うより置いて行くことの方が多い。


「ユリウスはさ、俺のこと大嫌いでめちゃくちゃ意地悪すんだよ。だから用事が終わったらすぐ帰りたいんだけど、逃げたと思われるの嫌じゃん? そこで、フェルが待ってるから急いで帰る必要があるって口実が欲しいわけ。おじさんの見栄のために、フェルの協力が必要なんだけど、手伝ってくれない?」


 フェルにしか頼めないんだ、お願い。

 拝んで見せる。


「ダンテ、フェルがいないとダメダメね」


 フェルは、顔面が溶けるほど満面の笑みでにやけた。声まで溶けた。求めていた結果ではあるけれど、ちょっとモヤッとする。ぶふぉっ、とバルトが吹き出した。


「フェル待っててあげる。……ふふ、ダサンテ」


 うーん、腹立つ。


「あー……うん、頼むな」


 立ち上がる。


「セツ、報告しろよ。バカト、フェルのこと頼むぞ」


 返事は待たず魔力を練る。

 晴れた視界の先に広がるのは、崩壊し、荒廃した神殿の残骸と広大な湖。ディーナのかつての住処、元聖騎士ユリウスの現在の住居だ。

 

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