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心霊坐すところ  作者: 茜黒
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一章 『冷え性お断り』 第一話

第一話 はじまり、はじまり

次の日、朝から橘花はぐったりとしつつ部屋からリビングに降りてきた。理由はなんとなく察しがついており、自身の背を鏡越しに薄目でみる。そこには真っ白な女性の手が橘花の両肩をしっかりと掴んで浮いていた。橘花は小さくため息をつき、椅子に座り朝食を食べ始める。昨日、帰ってきてからコンビニに行ったのが悪手だったのだろう。お祓い、というものに行ってみようか。そんなことを考えるが時間がない。これから学校なのだ、それならば土曜日の明日行ったほうがいいだろう。今日休めば弟の藤梧(とうご)に申し訳ない。元々自分の弟、という時点であまりいい目では見られていないだろ。関係ない藤梧を巻き込むわけにはいかない。そんなことを考えながら朝食の準備をしていると、母と弟がリビングに降りてきた。

「おはよー、兄ちゃん」

「おはよう、きっくん」

「おはよう母さん、藤梧」

二人は寝ぼけつつ朝食の準備を手伝ってくれる。きっくん、は昔からの親二人からのあだ名だ。といっても父は橘花と藤梧が幼稚園生の頃に交通事故にあってしまい、現在も眠ったままのため今は母しか呼ばない。いつ目覚めるかもわからないがそれでも母は待っている。橘花が紅茶をいれ、少し疲れたような顔をした母に手渡した。

「ありがときっくん」

「いいよ、今日の当番は俺だもん」

橘花はそう言いつつ作った卵焼きとウインナー、昨日の残りのサラダ、焼いた食パンをテーブルに用意する。三人で席につき「いただきます」と手を合わせた。食べ始めてから、母が思い出したように話し出した。

「当直だった…ごめんねきっくん、とうくん、晩御飯は作らなくていいからね」

「そうなんだ、わかった」

「ふぁーい」

「とうくん、口に物が入ってる時に返事しなくていいからね?」

母の言葉に藤梧は照れたように笑っていた。食事も終わり、身支度もした後。学校に向かうために橘花と藤梧は玄関にいた。

「行ってきます」

「行ってきまぁーす」

二人が母にそういい玄関のドアを開ける。

「いってらっしゃい、車に気をつけてよー?」

見送る声に背を押されるようにして二人は家を出た。


通学路、橘花は苦しさでうまく歩けないでいた。

「兄ちゃん、大丈夫?」

藤梧の声に橘花はごまかすように笑って「大丈夫」と伝えた。背の幽霊が何かしているようで、息をするのが苦しくなっていた。

「(どうしよ…このまま学校に行ってもたぶん、変わらないし…でもサボるわけにも…)」

橘花がそんなことを考えていると藤梧が橘花の手を握った。

「学校行って、保健室で休ませてもらお!兄ちゃん真っ青だもん」

藤梧の言葉に、橘花は情けないような、安心したような気持でいた。実際昨夜から憑いているのだ、寝れていないし今すぐ横になりたい気持ちもあった。学校につき、橘花は早々に保健室のお世話になる。藤梧は心配していたが説得すると渋々自分の教室に向かっていった。

「職員会議あるから少し待っててね」

その言葉に橘花は力なく頷き、ベッドに埋もれた。先ほどまで重いだけだったが今では苦しく、そして寒くなっていた。先ほどまで肩だった手はゆっくりと首に回ってきた。橘花は真っ青になり、逃げたい衝動に駆られるがそんなことをしても意味がないのは明白だ。

「大丈夫?」

「おーおー、随分なのに好かれてるな」

「あ…」

橘花が視線を上げるとそこには凪と逢魔がいた。

「あ、れ…なんで、二人とも…」

「おう、今会った」

「二人?誰もいないよ?」

凪はきょとんとするが、すぐさま昨日のことを思い出し勝手に橘花の手を握った。すると、凪のすぐ隣に逢魔が立っていた。

「おーまさんだ!おはよ!」

「おう、おはよーさん、…あー、凪?今だけ橘花の方見るなよー」

「なんで?」

「幽霊に好かれるぞー、ついてこられたら困るべ」

「別にいいよー?わかんないもん」

「…お前さんはそういうやつだな、まぁ、取り敢えず斬んべや」

「え?」

逢魔の言葉に橘花は起き上がろうとする。凪はわからないのか、橘花と手を握ったまま2人をキョロキョロとみた。今のところ凪に橘花の背にいる幽霊は見えないようだった。

「一回“ソレ”を橘花から離さねぇとだべや、もう肩に痣出来てるだろうし、酷くなる前に、な?」

「おーまさんって、除霊出来るの!?」

「そんな上等なモンな訳ねぇべ、ただ斬って橘花から離す、それだけ」

逢魔は橘花の背中にいる幽霊を見つめたまま鞘から刀を抜き迷いなく橘花に向けて、幽霊に向けて振り下ろす。刀は橘花をすり抜け幽霊に当たった、ようにみえた。幽霊は驚いたのかすぐさま橘花から離れ、橘花からも見えなくなる。

「ほれ、おしまい」

「び、っくりした…おーまさん危ない!橘花くん怪我しちゃう!」

「死んだ幽霊の刀が生きてる人に当たるわけねぇべ」

「あ、そっか…」

「あはは…逢魔さん、あんまりその…無理やり引き剥がすみたいなこと?して大丈夫かな…」

「さぁ?」

「さぁって…」

「そんな細けぇこたぁ考えてる間にお前さんが死んだらどーすんだ、それなら多少危険でもやんべぇよ」

逢魔は欠伸をしつつ、懐から紙を出し刀を拭ってから鞘にしまった。それとほぼ同時に学校のチャイムが鳴る。予鈴だ。生徒たちの急いで教室に戻る足音が廊下から聞こえる。

「予鈴だ、あたし戻るね!橘花くんは?」

「あ、俺は…」

「勝手に行ったら保健室の先生に心配されんべ」

「確かに!じゃあ、あたしだけ行くね!また後でね!」

凪は橘花の手を離し保健室の扉を開け橘花の寝ている、今は座っているベッドに向かって「おーまさんはまた夕方にね!」と言って廊下を走って行った。後ろからは保健室の先生の「宮下さん、廊下は走らないの!」という注意の声と、凪の「ごめんなさーい」という謝罪と走る足音が遠ざかって行った。

「…走ってったね」

「注意されたら走るのやめるもんじゃねぇのか」

「ひ、人それぞれ…かな?」

「ゆっる…まぁ、いいか、凪っぽいし」

「あはは…あ、逢魔さん、ありがとう…助けてくれて」

橘花は逢魔に微笑み、感謝をする。逢魔はそれには答えず、そのままあの幽霊のように消えてしまった。

「あ…お、怒っちゃった…かな…」

橘花はそんな心配をしつつ、戻ってきた先生の「寝てた方がいいわね、まだ顔色が悪いから」という言葉に従ってベッドに横になった。


橘花が安心感と睡魔に襲われている頃。凪は教室に戻ってきて、橘花のことを心配しつつもクラスの女の子とお喋りをしていた。

「せんせーこないねー」

女の子の言葉に凪は先程注意されたことを思い出す。

「さっき保健室の先生は戻ってきてたよ?」

「そーなんだ」

「保健室?凪ちゃん怪我したの?」

「ううん、橘花くんに会いに行ってたの」

周囲の人たちが黙る。凪はきょとんとしたまま先ほどまで話していた女の子に話しかける。

「変な事言った?」

凪の不思議そうな顔を見て、女の子たちは心配するような声で「あんまり阿座上くんのこと言わないほうがいいよ」と囁いた。

「なんで?」

「なんでって…」

「阿座上くんいじめられてるから、関わると男子たちに何言われるかわかんないじゃん」

「ふーん」

凪はつまらなそうな声で返事をした。女の子たちは引っ越してきてすぐの凪を心配してくれているようだった。だが、長く一緒にいるであろう橘花のことは心配していないようだった。

「変なの、席に戻るね」

凪はそういいさっさとその場を離れ教室の端、窓側の自分の席に戻っていった。女の子たちは驚いたまま凪を見送り、そのすぐあと先生が来たため凪の言葉は女の子たちからその時は薄れていった。


「おはようございます…」

朝の会が終わったころ、橘花は教室になんとか来れた。まだ顔色は優れないが朝の憑かれていたときよりはマシ、と言えるだろう。

「橘花くん!もうへーきなの?」

凪は橘花のほうに走り寄り、顔を覗き込むようにした。橘花は薄く笑い「大丈夫、ありがとう凪ちゃん」と答えてからハッとした。橘花はすぐに凪の隣を通り自分の席にランドセルを置き、目だけを動かし周囲を確認する。男の子たちがニヤニヤとしつつ橘花に向かって笑いながら全員に聞こえるように言った。

「あ、橘花ちゃんじゃーん、サボりかよー」

「女の子みてー」

「きのー女子といただろー」

「やっぱ女の子なんじゃねーのー?」

そんな馬鹿にするような声に橘花は反応を示さず、一時間目の準備を始めた。

「…ねー、橘花くん」

凪が話しかけると、声に驚いた橘花はオドオドした様子だったが、凪だとわかり安心したのか悲しそうに笑った。「巻き込んでごめんね」と言いたげな、そんな表情だった。

「…橘花くん!」

凪は橘花の手を取り、にぃーっと笑って見せた。突然のことに橘花は目を丸くしたまま固まってしまう。

「今日の帰り!忘れてないよね?」

橘花は驚いてしまっているせいか、本心では楽しみにしていたのかつい頷きながら答える。

「う、うん…覚えてるよ…」

「よかった!ならまたあとでね!」

有無を言わさぬそんな笑顔でうなずき、凪は席に戻っていった。驚いたままの橘花と、驚いたクラスの女の子たち、固まった橘花を馬鹿にしていた男の子たちを放置して。


その後、授業や休み時間は滞りなく帰りの会が終わる頃。橘花は再び真っ青になっていた。理由はわかっている。凪の「今日の帰り!」である。橘花としては凪を危険な目に合わせたくないと、いじめられるかもしれないという危機から遠ざけたかった。しかし、ちゃんと話したのは昨日の帰りだけでも、凪の性格は大体わかる。自由人。そんな言葉がしっくりくる。そんな彼女を説得して帰らなければならない。先生の話をメモしながら考えるが結論はどうしても「説得とかできない、むしろ聞いてくれないと思う」に到達する。

「…さて、明日から二日間のお休みです、みんな不審者に気を付けるようにしましょう」

そんな先生の長い話が終わり、日直の子が「きりーつ」と言った。クラスメイト全員が立ち上がる。橘花も少し遅れて立ち上がり、ランドセルにメモをしまった。

「きよつけー、れいー、せんせーさよーならー」

「はい、さようなら、みなさん気を付けてね」

クラスがその声と同時に騒がしくなる。橘花は苦い顔をしつつ教室を出ようとして凪に捕まった。

「橘花くん!おーまさんとこいこ!」

「え、あ、え!?な、凪ちゃん……!?」

窓側の席の凪が何故、廊下側の席の橘花を捕まえられるのか。そんなことを橘花は一瞬考えるがすぐさま凪に注意をしようとする。「関わったらいじめられる」そう言い、離れようとするが凪は言わせてもくれない。

「早く行こ!楽しみにしてたの!」

「ま、まって、なぎちゃ、」

「なんで?早く!!」

そのまま橘花は凪に引きずられるように連れていかれた。クラスの女の子たちは今後凪と仲良くするか、ということを話していたが話題が逸れ、アイドルやファッションの話に花を咲かせつつ帰る支度を始めてた。男の子たちは月曜にからかってやろう!とそんなことを二言三言話し、最近流行りのゲーム「ドラグンクエスタ」の話を始め二人のことをその後話題に出す人はいなかった。


あざがみ きっか

阿座上  橘花

小学六年生の男の子。変わったものが見えてしまう泣き虫で怖がりな普通のどこにでもいる子供。

自分の橘花という名前が女性らしく、好きではない。体つきもまだ華奢でありか愛らしい子狐のような顔であり、それも災いして小学一年生からいじめられている。

弟の藤梧のほうがガタイがしっかり身長高いので、服のお下がりならぬお上がりをもらっておりいつも服に着られている。姿勢が猫背になる手前のため凪と並ぶと凪のほうが身長が少し高く見えてしまう。


読んでいただき誠にありがとうございます。

最近寒くなってまいりました。北海道はもう雪が降っているらしいです。

北海道はでっかいどー(ごめんなさい、やりたかっただけです)

Twitterにて投稿しましたと報告しておりますのでよろしければフォローのほどをよろしくお願いいたします。@senkoku_so_saku


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