芽吹きの頃
初めまして、茜黒という者です。
この度は興味を持って頂き誠にありがとうございます。
まだまだ拙い文ですが、よろしければ読んでやってください。
同じクラスの橘花くんはいつもブランコにいる。あたしはまだ引っ越して1ヶ月しか経ってないから話し掛けづらいのかと思ってた。あたしは橘花くんと話してみたい。だって、橘花くんの雰囲気は他の人と違うから。不思議っ子って言うわけじゃない。ただ、すこしだけ他の人より1歩引いて見てる。そんな感じ。なんでか話してみたいと思った。だから、今日のあたしはすごく運があるんだと思う。今日はたまたま橘花くんとあたしで日直になって、先生のお手伝いをしたから帰る時間が遅くなった。このタイミングしかない!あたしはすぐに話し掛けた。
「橘花くん!」
「え、あ、ど、どうしたの、宮下さん」
「凪って呼んで!あのね、橘花くんはいつも1人なの?」
「え」
橘花の足が止まり凪はすぐに気が付く。
「(間違えた。いつも居ないからどこにいるの?って聞こうとしたんだけど…あれ?あんまり変わんないかも)」
「……俺、い、虐められてて…いつも隠れてるんだ…」
「虐め?なにそれ」
「宮下さんは学校に来てまだ1ヶ月だから仕方ないよ」
「仕方なく無い!そいつらバカだ!」
「あはは…ありがとう…宮下さん優しいね、でもいいよ、宮下さんも虐められて酷い目にあっちゃう…夕方さんも話聞いてくれてるし、大丈夫…」
「夕方さん?」
聞いたことの無い名前に凪は首を傾げた。
「うん、いつも夕方になるといるんだ、だから夕方さん」
「どこにいるの?」
「えっと、いつもブランコに座ってるよ、あそこ」
橘花は学校のブランコを指差す。ブランコには誰も居らず、風に吹かれているのかユラユラと揺れていた。鎖の当たる音が遠くでもよく聞こえる。
「いないよ?」
凪が橘花を見つめる。嘘をついているようには見えない。
「え…あー、えっと…」
橘花は困ったように凪とブランコの方をキョロキョロと見る。
「橘花くん、誰か見えてるの?」
凪は興味津々に聞いてくる。
「えっと……え?ぁ、そ、そっか…でも、いいのかな」
橘花はすぐ隣に誰かいるかのように話し、おどおどしながら凪に向き直る。
「宮下さん、手を貸してもらっていいかな…?」
橘花はそう言い、凪に手を出した。
「うん」
凪が手を握ると、目の前に和装の男性が現れた。しかし現れたという表現は正確ではない。元よりそこにいた。その表現が正確だろう。
「よぉ、お転婆娘」
男性はそう笑った。
「誰?いつから居たの!?」
凪が驚きの声をあげると橘花も驚いたのか一瞬手を離しそうになる。すると相手の男性が見えづらくなる。霞がかかったようだった。
「おうこら橘花、離したら見えなくなるだろーが」
「う、うん、ごめん…」
「謝る事じゃねぇべや」
「う、うん…」
「意地悪だったか、そんな落ち込むなって、あー…俺が今しがた話に出た夕方さん、だ。あ、本名ではねぇぞ?こいつがそう呼んでるだけ」
男性はそう言い、しゃがみ凪の視線にあわせる。
「お前さんは?」
「凪、です」
「突然しょぼくれんなや、っとー…いっても無理か、目の前にいきなりおっさん出てきたら驚くべ」
男性は「よっこらしょ」と呟きつつ立ち上がる。それと同時に学校のチャイムが鳴り響いた。午後5時。早く帰らなければ叱られるだろう。
「おぉー、そろそろ逢魔が時かぁ?こりゃ早くあるって帰らねぇとなぁ」
「おうまがとき?」
「お馬さん?」
小学生の2人には聞き覚えのない言葉に反応する。男性は困ったように笑い歩きだす。二人の通学路を三人でゆっくりと歩きながら男性は説明を始め、二人はぼんやりと聞いた。
「逢魔が時ってぇのは、夕方の薄暗い頃のこと。魔に逢う時って意味な」
子供2人は「へー」と話を聞いてはいるが、理解はしきれていないようだった。
「ねぇねぇおーまさん」
凪がそういい、突然男性の袖を引っ張った。和装のせいか、着物がずれたようで男性が共襟を一瞬浮かせて正した。
「あぁにすんだよォー凪…まさかとは思うけんど、おうまさんって俺のことか?」
凪はにっこりと笑い「他に誰がいるの?」と聞いてきた。
「その言い方だとそりゃ馬だべや、逢魔、な?…待て誰が逢魔だ」
「だって夕方さんは変だもん!おーまさんのほうがまだいい!だからお兄さんは今日からおーまさんね!」
凪の言葉に橘花は否定するどころか納得したように何度も頷き「逢魔さん刀持ってるし、かっこよくなったね」と微笑んだ。逢魔は諦めたようにため息交じりに「男の子だぁな…」答えるしかなかった。
三人で帰り道を歩いていると、通りに出た。すれ違うサラリーマンはまだ仕事中なのか小さな二人のそばをギリギリで通ろうとする。橘花が気を利かせて繋いだままの手を優しく引き寄せぶつからないようにする。
「無理やり中側通ろうとするか、大人のやることじゃねぇな」
逢魔がそういうと橘花は苦笑いする。凪は焦ったように橘花と逢魔に囁くように聞いた。
「大丈夫?はっきり言ったら聞こえちゃうよ?」
その言葉に橘花は薄く笑い「大丈夫」と答えた。
「逢魔さんは幽霊だから、見えない人には今のは聞こえないよ。」
「幽霊!?」
通りに凪の驚いた声が響き、辺りの人が二人を見た。
「ばーか、声がでけぇよ」
逢魔がケラケラと笑う。凪は注目されていることに気が付き、顔が熱くなるのを感じた。
「い、言ってなかったもんね、ごめん宮下さん…」
橘花が落ち込んでるのをみて、凪はすぐにいつものように元気よく「大丈夫!他の人に見えてないんだもんね!」と答えた。気にしていない様子に橘花は安心した。
「じゃあなんで橘花くんは」凪が聞こうとすると、橘花が凪の手を離した。「え?」凪が橘花を見ると、視線は前に向けられていた。その視線の先にはクラスの男子が数人でこちらを見てニヤニヤと笑っていた。
「…なにあれ」
凪の言葉に彼らはニヤニヤとしたまま去っていった。
「ごめんね、宮下さん…明日色々言われるかもしれない…逢魔さんはされたりしてないじゃん…」
橘花は逢魔がいるのであろう方向を見ながら文句を言った。
「橘花くん、あたしおーまさんの声聞こえない」
「あ、う、うん」
橘花は思い出したように凪の手を握る。すると呆れ笑ったような顔をした逢魔が橘花の頭の上に顎を乗せて手を振っていた。
「おう、さっきぶり」
「ぶりー、ねぇねぇさっきのなに?」
凪の質問に橘花は悲しそうにうつむいた。
「あー…まぁ、うんー…所謂、思春期男子ってやつ…?」
「シシュンキ?」
「あー、まぁ「女子と一緒にいるのは許せん羨ましい」ってことだ、気にするだけ損だぁよ」
凪は理解がしきれていないのか首を横に捻っていたが橘花は2人の会話で安心したのか、くすくすと笑っていた。
通りを過ぎ、公園に差し掛かったところで「あ、そうだ」と、橘花が凪のほうに向きなおる。
「さっき、俺のことで何か言いかけてたけどどうしたの?」
「へ?なんだっけ?」
凪は先程のことを思い出そうとする。自分が大声をだして、逢魔が幽霊と確認し、そして。
「そうだった!橘花くんはなんで幽霊が見えるの?」
言いたかったことを思い出しすっきりしたような様子で橘花に質問した。
「なんで…うーん、なんでだろう、ずっと見えてるからわからないや…ごめんね」
橘花が苦笑いしていると、逢魔が口を出す。
「ガキってのはあっちとこっちの境界が薄いんだぁよ、だから見えるやつもいる。大人になれば見えなくなるのがほとんどさ」
「あっちとこっち?」
「生きてるお前さんたちの世界と、死んじまってる俺ら幽霊や妖、妖怪の世界のこと」
凪はその言葉を聞き、わくわくとした様子で逢魔のほうを見た。
「妖怪いるの!?」
「あぁ?お、おう、居るぞ?」
「そうなんだ!ねぇ!会える?会える?!」
キラキラとした目で質問をどんどん投げかけてくる。
「どこにいるの?」「今すぐ会える?」「普段何してるの?」「どんなのがいるの?」と、終わりそうにない。
「お、おぉ…あによ、凪。お前さんそういった話好きなんか?」
「うん!」
「危ないよ宮下さん」
「なんで?危なくないよ?あと凪って呼んでってさっき言った!」
凪は橘花に向きなおり手を強く握った。
「え、あぁ…な、凪、さん?」
オドオドとしつつ橘花は凪の名前を呼ぶが本人は納得がいってないのか不貞腐れたような表情をする。
「凪、あんま橘花いじめてやんなよー」
「いじめてないもーん!」
「うぅ…じゃあ、凪ちゃん…?」
絞り出すような言い方ではあったが、凪としては満足なのか笑顔でうなずき、すぐさま逢魔に「妖怪に会いたい!」と言い出した。橘花はほっとしたが、凪の言葉に意識が遠のく。危険な場所にわざわざ行きたいという自分と同じ年齢の少女が理解しきれそうにない。
「凪ちゃん、逢魔さんは優しいけど他の幽霊さんとか妖怪さんは怖いかもしれないしやめよう?ね?」
「なんで?会ったこともないしわかんないじゃん!」
もっともな意見だ。橘花は真面目ゆえにそう思ってしまい止めることができない。
「うーん…連れてってもいいけど、遅くなると親御さんが心配するんじゃねぇか?」
その言葉に凪は少しずつ悔しいような納得がいかない、そんな表情になっていく。どうやら親に何か言われていたのを思い出したらしい。
「凪ちゃん、今日は帰ろう?その、また今度じゃダメ?」
橘花がそう妥協案を出すと、凪は明るい表情になる。
「わかった!じゃあ、明日会う!」
そういい、橘花の反対の手をとり、無理やり小指を絡ませる。
「ゆーびきりげんまん!嘘ついたら針せーぼんのーます!」
そして凪は嬉しそうに「ゆーびきった!」と言い小指を離した。
「なーぎー、せーぼんじゃなくて千本な?」
「へー、そうなんだー。あ!あたし家ここだから帰るね!」
そういい、凪は橘花と手を離して自宅の玄関まで走っていき
「また明日ね!」
と言い残しさっさと自宅に入っていった。
「え、あ、…うん、また…」
橘花は放心状態のまま凪を見送ると、自宅に向けて歩き出す。
「…あによ橘花、しっかりしろぃ。お前さん明日凪と通りに行くって約束しちまったんだぞ?」
橘花は立ち止まり、ボロボロと泣き出しながら逢魔の袖をしっかりと掴む。
「ど、どうしよう…」
「…お前さん、断らにゃならんときはちゃんと断ろうな?」
逢魔は呆れつつ、橘花を自宅まで送り届けた。
読んでいただき誠にありがとうございました。
まだまだこれからな話です。どうか人間2人と人外1人を見守って頂ければ幸いです。
3人の物語は長く、ゆっくりと進んで行きますのでどうかゆっくりとお待ちください。
ちなみにこれはフィクションです、登場する人物、団体、場所、名称は実在する可能性はありますがなんら関係ありませんのでご了承ください。