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0話 プロローグ

「赤井陽妃」

 眼前のラスボスは、私の名を呼ぶ。

「その魂は百パーセントが肉体に宿り、その肉体は外皮から内蔵まで徹底して〝機械〟化された人類」

 完成形。

 真っ白な軍服姿に収まらない百八十センチ九十キロの男――(とび)(ヨル)は表情を変えずに。

「それじゃあ」

 まるで全ての説明を終えたかのように、話を切り出す。

「さようなら赤井陽妃」

 良い夢を。

 頼はやはり表情を変えぬまま、挨拶を告げた。

 本当は、奴らは――頼を筆頭にした『私に敵対した全人類の代表者たち』は気づいているのだ。

 本当は私を〝封印〟しても、それはいつか解けてしまうもので――奴らの〝封印〟は〝封殺〟では決してないのだ――いつか私は平然と復活してしまうのだが。

 まるで、二月に復活し一年間掛けて力をつけた敵を、こちらも力をつけたヒロインたちが翌年の一月に斃す――日曜朝の女児向けアニメのように。

 復活したら、彼ら彼女らの意志を継いだ誰かが、また闘って〝封印〟するだけだし――

 それはただの蛇足だ。

「わかりました。私も年貢を納めます」

 だいぶぼやっとした日本語で、私は答えた。

「なんて――」

 言うわけがない、とまで発言できなかった。能力の発現さえろくにできなかった。

 私は停止した時間の中で動作を開始した――使役できる全ての魂のエネルギーを総動員させて――大地は青白く輝いた。

 しかしそれも一瞬。

 頼が瞬く間もなく腰に差したレイピアを左手で抜く。五度。私の五体をそれぞれ突き刺した。ばさりとマントが彼の動きを追う。

 かしゃん――眼鏡が大地に落ちる。私は大地に倒れ、首、手首、足首が、

「〝(トドメ)〟」

 美子――一目で超高価だと理解できる着物の女性の、そんなたった一言で私は頑丈に固定される。〝祝詞(のりと)〟――発声した言葉が全て魔術となる――二つ以上の意味をもつ限り。

 頼が剣を、心臓の位置に突き立てる。背にする地面には、二重の円の中に六芒星。魔方陣。

 仰向けの私の横に、ぱたり、と、こちらも仰向けに。

 晴雪が――私の最愛の彼が、静かに眠るように――私に寄り添うように。

「魂の〝封印〟に関しては――君の察しの通りだ」

 死することのない魂は、死することのない肉体に強固に紐付けされたまま、無理矢理引き剥がしてただ別々の場所に分担して〝封印〟するだけだ。

 急場凌ぎの対症療法。

 そんなことは美子たち全員の能力の仲介をしている飛頼は当然として。

 自身の魂と肉体のこと。幾億の魂を常に扱っていた――当然私にもわかりきったこと。

 まるで癌患者が自身の病状を告知なしに知ってしまうように。

 頼は立ち上がる。彼は二歩歩み、美子の隣へと行く。一つぽんと彼女の肩を叩いた。

「赤い夕陽が沈んだ後には」

 私はつい、負け惜しみを。

「必ずまた太陽は昇るのだから」

 飛頼の隣に立つ美子は、一つ小さく深呼吸――浅呼吸して、私を封じる〝祝詞〟を。

 たった一言――小さく、けれど確かに発する。

「〝(シマイ)〟」



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