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ひめみこ  作者: 転々
第十一章 昌に
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神子?

「紬ちゃん、小学校と全然違うから、分かんなかったよ!」


 ノンタンと呼ばれた子はかなり驚いている様子。小学校と言うより普段とだよ。メイクのレベルが違う。

 紬ちゃんは私ほど童顔ではないけど、キレイよりカワイイ寄り。それをここまで大人っぽく持ってくるんだから……、どれぐらい時間をかけてるのだろう。化けて(よそお)うとはよく言ったものだ。


 ひとしきり旧交を温めていた二人だが、それぞれの連れに気づいた。簡単な紹介だ。


『ノンタン』は、水口 望さん。保育園、小学校と紬ちゃんと同じだったけど、中学入学のタイミングで、都市部へ引っ越したらしい。もう一人は望さんの文芸部仲間で、奥田 沙希さん。人見知りするタイプなのか、少し緊張気味だ。無論、紬ちゃんとも初対面。


「私は、ノンタ……、水口さんと同じ小学校で、村田 紬です」


 紬ちゃんはこのときばかりは余所行きの言葉遣いだ、と思ったら、


「こっちは私の彼の小畑 昌クン。今はデート中」


 と私の左腕に右腕を絡めた。

 私は帽子とサングラスを取って挨拶する。


「私は紬ちゃんと同じクラスの小畑 昌です。よろしく。あと、彼氏になるには性別的に問題があります」


 二人は髪の色に驚いたのか、目を丸くしている。変な気を遣われるのも嫌なので、通り一遍に説明する。この反応にも説明にも慣れたものだ。


 せっかくなので、二人二組から四人一組にする。

 私たちは程なくテーブルに案内された。




 ここは注文にタブレットを使う。メニューを見ると、パスタソースは選択で、それに前菜やパン、ドリンク、デザートをつけるかどうか。

 でも、ニンニクを使っているメニューが多い気がする。嫌いじゃないけど、女子が昼間からニンニク臭を散らしながらってのはどうだろ? と思っている端から、紬ちゃんは厚切りベーコン入りのペペロンチーノを選択。いいのか? 望さんと沙希さんは遠慮したのか、それぞれカルボナーラと昔懐かしのナポリタンを選択、私は無難にバジルのトマトソース。でも、これも後から(にお)いそうだ。


 注文したのでドリンクバーへ交代で行く。みんなは甘い飲み物が中心だけど、私はホット烏龍茶。本当は、フレーバー無しの炭酸水あたりがあればそっちを選ぶところ。




 前菜が来たので、早速パンを取りに行く。紬ちゃんは見事に甘いのばかり三つ。私はコッペパンみたいなのと、ミニサイズのフランスパンぽいもの、あとコーンが乗ったの

 望さんと沙希さんは、甘いのと淡泊なのから一個ずつ選択したような組み合わせ。前菜とともに早速食べ始める。




 紬ちゃんは前菜もそこそこにパンを食べ終わってしまう。私はぼちぼち、行儀は良くないけど、スープにパンを浸けて食べる。向かいの二人は甘いのを半分ほどで、パスタ待ちの構え。

 紬ちゃんと望さんは互いに近況報告を交わしている。言葉使いがいつもと違う。『ですよ』口調は中学生になってからなのかな?

 ふと顔を上げると、沙希さんが私をじっと見ている。


「何かな?」


「いえ、あの、こんな女の子がいるんだぁ……って」


「あぁ、この髪だと、ちょっと純粋日本人には見えないよね」


 うーん。会話が続かない。でも、コスプレとか不穏当な単語が出るあたり、やっぱり紬ちゃんの友達の友達だ。

 パスタ、早く来ないかなぁ。




 続かない会話を二言三言、何度か繰り返したところで、漸く待望のパスタが並んだ。


「じゃぁ、みんなでシェアしましょう!」


 紬ちゃんは高らかに宣言すると、いきなり初対面のはずの沙希さんの前から、ナポリタンをフォークとスプーンでぐるり。

 ちょっと固まる沙希さんを余所に、望さんもペペロンチーノをガバッと取って、それを自分と沙希ちゃんの皿へ。私も、ペペロンチーノを箸でひとつまみ。

 でも、この取り分けで沙希さんの緊張も少しほぐれたのか、会話が始まる。


 みんなフォークとスプーンを器用に使ってパスタを巻き取っている。スプーンの腹にフォークの先端をあててクルクル。上手く一口サイズになる。

 以前同じことを自分でやったときは、際限なく巻き付いて巨大な玉ができた。それ以来、麺類は箸なのだ。二筋ぐらいをするりと引っ張り出して一旦お皿に降ろし、それを改めてつまめば、啜る必要が無い。




 私が望さんにもトマトソースを勧めたら、望さん、トマトが苦手らしい。でも、ナポリタンもケチャップ味なんだから、広い意味ではトマトなのに。


「残ったソースは、これ!」


 いつの間に取ってきたのか、フランスパンの輪切りや、フレーバーのついていないパンで残ったソースを拭き取って食べる。私も真似して、ペペロンチーノのオイルにパンを浸して食べる。パスタそのものより、こういう食べ方の方が好きかも。


「そんなに食べて、太らないの?」


 望さんからもっともな問いかけだけど、私の場合は体脂肪率をできれば十五%ぐらいまで上げるよう指示されている。でも、紬ちゃんはどうなんだろ。


「私ね、中学校に行く頃に体質が変わったんだ。小学校の卒業式の二日後から熱出して三月一杯寝込んで、入学までの半月ほどの間に体重も十キロ近く減ったんだけど。

 で、なぜかいろいろ調子が良くなって太らない体質になったの。小六と中一で、体重が十キロ以上違ったし。

 肌の調子も良くなって、周りからいろいろ聞かれましたよ」


 十日ほど寝込んだとか、体質が変わったとか……、そしてさっきナンパされているときに感じたのは、――弱いながらも格だった。

 もしかして、紬ちゃんも神子なのだろうか? でも、沙耶香さんや他の神子を見ても何の反応もしてなかったし……。


 私は思考がそっちに捕らわれてしまって、それ以後の会話は上の空だった。そのせいで、紬ちゃんにはともかく、望さんと沙希さんからは、孤高を保つクールキャラだと思われてしまうことに。以前の天然よりはマシだけどね。




 その夜、沙耶香さんに連絡した。


「ちょっと確認したいのですけど、もしかして私と同じクラスに、神子っていませんか?」


「何よ、急に。その学校で神子として認められた子、貴女以外にはいないわよ」


「あの、もしかしたら、同じクラスの村田紬ちゃんって、神子かも知れません」


「あぁ、その子なら分かってる。明らかに血の発現を経てるわね」


「じゃぁ、どうして?」


「発見したときには遅かったのよ。年齢も変わらず、変容も少なくて、分かったときには日常生活に戻っていたの。

 それに、現実問題として、彼女に比売神子になれるだけの格はある? 発現が早すぎて格のレベルは最低。実際、光紀ちゃんよりも弱かったでしょ。

 今更、神子です、って引っ張ったところで無意味よ。相当な努力を重ねて、実際かなり伸ばした光紀ちゃんですら届かなかった。こればかりは努力だけではどうしようも無いの」


 紬ちゃんはそういうタイプでもなく、まして戸籍の変更も不要で、比売神子になれる見込みもない。

 実際、把握し切れていない神子だって、少なくないだろうと。


 沙耶香さんは「わざわざ予算をつけて、その子たちの将来を狭くする必要があるかしら?」と言う。


 その通りだ。私の連絡や報告は、興味本位の出自暴きの域を超えない。紬ちゃんの立場を変えたって、沙耶香さんの言うように、何の意味も無い。なんでこんなつまらないこと、わざわざ訊いちゃったんだろう?

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