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ひめみこ  作者: 転々
第十一章 昌に
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連絡

 沙耶香さんから電話だ。一応、書斎で取ると、夏休み中の集まりについて事務連絡だ。まだ、期末試験も始まってないですけどね。


「ところで、学校では気になる男の子とかいないの?」


 そろそろ、女性としての恋をしてないか、気になると言う。


「なかなか、そういう人には出会えないです。でも、いずれは恋だってできると……、いいんですけど」


「そう。残念。

 ところで、比売神子様が貴女の通過儀礼、前倒ししようかって言ってるのよ」


「なんですか? 突然。私はまだ、公称十四歳ですよ。通過儀礼は原則十五歳以上で、大体は十六になってからでしょ? 戸籍上はもう十七ですけど、それはプロフィールに矛盾をださないためで」


「うーん。隠しても仕方ないから言っちゃうわね」


 本当は比売神子たる条件に、生娘であることは必須でない。

 歴史的に、比売神子は権力に近いところに在った。また、見目も良く能力――特に知的能力――も高い。当然、そういう女性を、という者も多く、中には事実を先行させようとする者もいたらしい。

 そこで、神子がそういう状況にならないためにも、生娘という条件を後から追加したという。

 比売神子となってしまえば、(めと)る側にもそれなりの立場が要る。また、神子も『元』になってしまえば、少なくともそこについてくる政治的な力を欲して、という者は興味を失う。

 それでも、見目が良く、若さを永く保つ彼女たちを側女(そばめ)にという者は多かったらしい。


 沙耶香さんが心配しているのは、私の場合、少なくとも大人としての知識や経験があることだ。恋愛関係になったときに、そういったことに対する抵抗感は、未経験のうちに血の発現を迎えた少女たちより少ないと思っているようだ。

 一応、建前としては崩せないところなので、さっさと比売神子としての身分を与えた上で、きちんと恋愛相談を受けたいとのこと。


「今のところは、そういう心配は無いですよ」


 生粋の女性なら、そういう心配が発生するかも知れないけど、私の場合は男性として生きた記憶が、それに対するブレーキになっている。多分、それが緩み、あるいは外れるのはまだまだ先だろう。恋をすればそれが外れるのか、外れたら恋をできるのか……。


「そういう心配をさせてもらえたら、貴女も成長ね。楽しみにしてるわ」


「うん。まぁ、御期待に添えられれば……」




 女性としての恋、か……。

 でも、どうしても成人の知識が邪魔をして、同年代の男の子はそういう対象として見られない。中学二年生ぐらいだと、少年というより年少の男の子として見てしまう。


 そういえば、足首を骨折して松葉杖で来た男子、朝、教室に入って一分間だけはヒーローだった。けど、一分後、その松葉杖は別の男子のスナイパーライフルやアサルトライフルになっていた。

 やるかな? やるかな? って見てたら、案の定だ。


 そういうおバカ男子を、女子たちは呆れた、あるいは冷ややかな目で見ていたけど、私なんかは微笑ましい気持ちになる。女性でもある程度社会人としての経験――海千山千のおっさんたちとの遣り取りとか――があれば、きっと同じように感じるだろう。

 この辺の感性は、性別ではなく年代なりの経験や大人としての記憶の方が、影響が大きそうだ。


 感性が相応に変化していることは自覚している。いや、もっと前から気づいていたけど、気づかないふりをしていただけだ。でも、それも止めるべきなのだろうな。今の自分の感性に従って、より良く生きることを考えるようにしなくては。




 書斎ついでで、勉強をすることにした。試験が近いことなどに関わりなく、毎日一~二時間は勉強をする。これは習慣にしておかないと、どんどん怠け癖がついてしまう。行儀直しだ。

 実際のところ、中学校の勉強は社会科以外ほとんどしてない。紐解くのは主に学生時代の教科書で、最近は、物理と数学のおさらいだ。光紀ちゃんのレポートを手伝う約束もしちゃったし。

 そして、先週からは古典を読んでいる。高校時代は、なんでこんなの、と思ってたけど、大人の知識で読むと案外面白い。これはEテレのこども向け番組に影響されたからだ。

 本当は『源氏物語』あたりに心が萌え上がるようになったら、女性としてかなり前進なのだろうとは思うけど、あれはまだまだ難しそうだ。




 あ、また電話だ。今度は紬ちゃんだ。


「もしもし? 電話なんて珍しいね」


「メールじゃ、面倒くさいですから。

 ところで! 私を差し置いて、由美香ちゃんとデートしてたですね? お見通しです」


「デートって言うより、買い物だよ。弟と妹もついてきてたし」


「明日は、紬とも()()()するのです。約束でしたから」


「でも、来週から期末試験だよ。試験勉強はいいの?」


「別に、一日中勉強するわけないですよ。

 普段、勉強しない人が三時間ぐらいやったって意味無いのです。それに、どうせ三時間もできるわけないのですよ。試験前だからって特別に勉強するのは無意味なのです」


「それは、普段から勉強している人が言うことだよ」


「紬は普段から五時間ぐらいしてるですよ。学校で。

 授業中は真面目なのですよ」


 地頭が良い子は、言うことが違う。


 結局、明日はボーイッシュな格好でデートすることに。夏用の服ももう少し買い足さなきゃだし、書店にも行っておきたい。




 翌朝、ユニセックスな服を着て出る。

 自分で服を買いに行くことがほとんど無いし、渚が選ぶ服の大半は女の子寄りで身体の線が出る。

 とにかく身体の線が出ないよういろいろと探した。ボトムは踝までのパンツ。更に、身体の線が出にくいよう薄手のパーカーを羽織る。

 ウィッグは着けない。髪を後ろに引っ張ってキャップを着ければ、前から見れば短髪に見える。そして目の色を隠すために、屋内でしていても変に思われない程度に薄く色が入ったサングラス。いつもは素通しのUVカット眼鏡だけど、今日はこれだ。

 ちなみに、サングラス等の明るさを落とす機能があるものは、必ずUVカットだ。そうでないと、減じられた明るさで開いた瞳孔に、まともに紫外線が入ってしまって、全くの逆効果になってしまう。


 姿見で自分の姿を確認。見慣れないせいか、今一つ似合っていない気がする。サングラスが、背伸びした小学生っぽい。かといって、取れば明らかに女の子の貌だし……。

 それに、ちょっと暑い。膝上はともかく、膝下まで覆う服は最近着ていなかった。こういう部分では、女性の方が服の選択肢が広い。


 待ち合わせの時間も近い。私は駅に急いだ。

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