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ひめみこ  作者: 転々
第十章 変化の兆し
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研究発表

 社会見学のレポートは、私たちの班が校内では最優秀という順当な結果となった。学校代表としてこれを県でも発表するのだけど、工場と農業法人の二本立てに近い内容では焦点がぼけてしまう。そこで、私たちの班は工場の話に絞ることとなった。

 農業法人については、次点となった班が私たちの発表資料を付け加えることで、互いに再編集する。

 と言っても、ウチの班の発表内容は、先生方の想定範囲を超えた内容だったので、付け加えることは特に無い。


 次点となった班は二組のトップだったけど、私たちの直後の発表で、グダグダになっていた。ただ、発表内容自体はレベルが高く、構成もしっかりしていた。

 聞くと、メンバーの一人が成績優秀者。常に学年トップ付近にいる生徒が一人で原稿のほとんどを作ったらしい。でも、ワンマンチームの悲しさか、発表者のうち一人は、明らかに『ひらがな』で読んでいた。ちゃんと意味が判ってないまま不十分な読み合わせで本番に臨んだようだ。


 とりあえず、二組担任の山本先生を通じて、農業法人に絞った発表の資料を渡す。日本の野菜栽培全体における輸入依存度の統計だ。

 個人的には、肥料の原材料――例えばリン鉱石とか――の輸入依存度の話や、それらの枯渇の話も入れたいところだけど……、法人のレポートとしては話が大きくなりすぎてしまうので、山本先生の判断でざっくりカットされてしまった。逆に、フードマイレージの話などが追加されていた。これは盲点だった。




 原稿を作る段では、詩帆ちゃんの指導が山本先生より厳しい。

 一文一文を短くして、漢語表現は大半が置き換え。学年トップもこの分野では詩帆ちゃんに負けるようだ。

 意外だったのが、松田君。私たちにはボソッとしか話さなかったのに、男子相手には強い。ヒョロい外見の割に体育会系の男子にも睨みが利く。

 由美香ちゃんによると、学校では帰宅部だけど、小二から空手を続けていて、去年は全国大会にも出たとか。人は見かけによらない。

 女の子にもこういう自然体で接することができればモテるのに。




 県でも、私たちの発表は高評価。当然のように最優秀だ。

 基本構成は私だけど、原稿はもちろんのこと、発声についてまで詩帆ちゃんの指導が入った。特にカ行やサ行の発声――無声化――が難しかった。ここまで練習したチームは多分ウチだけだろう。

 それに発表者の見栄えもウチがトップクラスに違いない。

 でも、不思議なことに、こういう発表会に出る生徒って、華は無くても結構見栄えがいい。書類選考でもしているのだろうか?


 幸い、更に上のブロックでの発表が無いので、これでお終い。だと思っていたのだけど……。




「素晴らしい発表だったよ」


 社長の息子が私たちとティータイム。まぁ、自社工場がお題の発表だから、立場上見学に来るのもおかしくはないのだけどね。


「ところで、小畑さんはカツラを着けてるんだね」


 校外では個人を特定されないように白髪を隠しているのです。本当は社会見学もそうするつもりだったけど、車で駅に送ってもらったときに着けそびれちゃったんですよ。

 それにしても、今日は社長の息子、饒舌だ。「君たちには、高校か大学を卒業したら、ウチに就職してほしい」とか……。

 男子は、こういう場では今ひとつ話しに混ざれない。まぁ、自分が中学生だったときを考えれば当然か。




「昌クン。ここは一つ、永久就職なんてどうですか?」


「ちょっと紬ちゃん、変なこと言わないでよ」


 紬ちゃんに一言入れようとすると、笑い声。


「君みたいな素敵な女性なら大歓迎だよ。

 結婚できる歳になってもその気があったら、この番号に連絡してくれたらうれしいな」


 二枚目の名刺を渡される。断っておくけど、物理的に二枚目の名詞を渡されただけ。渡し主は、うーん。一歩間違えると二枚目半だな。

 一応は受け取っておく。でも、こういうリアクションに困る振りは、正直、困る。


「お、昌クンもまんざらじゃ無いですね。ちょっと頬が染まってるですよ」


 ちがーう。これはそういう話のネタされていることに対してで、決してそういう意味じゃないから。こらっ、詩帆ちゃんもそんな目で見ない! 確かに戸籍上は十七になっているけど、今のところは男性にそういう感情ありませんから。


「むっ、むしろ私より、藤井先生は、どうかなっ?」


「悪くない話だけど、年下はちょっとね」


 え? 藤井先生も三十過ぎているんだ……。もっと若いと思ってたよ。




 いろいろ疲れたティータイムを終え、帰りの電車の中、紬ちゃんが耳打ちする。


「永久就職、まんざらでも無さそうですね」


「だから、その話はもういいよ。私は興味ないし」


「違うですよ。あっちの方が、ですよ。

 さっき、明らかに一瞬目がおよいだです。笑ってごまかして、あんな強がり言ってたですけど、明らかに意識してるですよ。ロリコンなのです。

 昌クンがデートに誘って、ハニートラップかければ楽勝ですよ」


 もう……。その話はいいのに。それに、私にも選ぶ権利あるし。


「でも、その前に紬とデートなのです。約束したですよ」


 う。憶えてたんだ。中学時代の『私』なら、喜んで応じたんだろうけど、今は素直に喜べない。

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