表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひめみこ  作者: 転々
第十章 変化の兆し
89/202

お父さん

「顔は普通だねぇ。昌ちゃんのお父さんだったら、もっとイケメンだと思ってた」


 悪かったね。そりゃ、普通だよ。

 何故か、読み合わせはそっちのけで、『私』の写真を見ている。ガチで間違えられたことがある十代のはあらかじめ隠しておいた。

 主に性別がはっきり表に出ない小学校低学年。更に、大学卒業や留学中、そして結婚後のをいくつか。成人後のは、ジム通いのビフォーアフターだ。肉体改造中の五年間分はあえて抜いてある。


「でも、確かに昌ちゃんはお父さんに似てるね」


 確かに、客観的に見ると、小学校低学年の『私』と現在の私は似ている。でも、私の部屋なのに、さっきからアウェイな感じで、どうにも居心地が悪い。


「いい。いい。うふふ。むふふふふふ」


 紬ちゃんが、気持ちの悪い笑い方をしている。


「なに? 紬ちゃん」


 私が訊くと、紬ちゃんがニヤニヤしながら写真を覗き込む。


「生きてるうちに会いたかったのです」


「紬ちゃんって、こういうのがタイプ? あんまり特徴無いわよ」


 由美香ちゃんが変なものを見る目で訊く。そう言う態度は、微妙に傷つく。由美香ちゃんは『私』のタイプだったし。


「タイプとかじゃないですよ。……でも、生きているうちにお会いしたかったのです。惜しい人材を亡くしました」


「「「?」」」


「これほど女装が似合いそうな人はいないのですよ。うん。美人になりそうです」


「え? 取り立てて美少年? 美青年? な感じはないけど」


 由美香ちゃんは容赦なくダメ出しをする。私の心のどこかが削られていく気がする。


「まだまだですねぇ。女装の素材はですね、こういう十人並みの美男子が最高なのですよ。

 この化粧乗りの良さそうな白い肌、小振りな鼻と口、凹凸が少なく左右対称に整った顔立ち。目だけは大きめで黒目がち。

 こういう顔が化粧映えするのですよ」


 私をチラ見して、「うん。紬なら、昌クンをとびきり美人にした感じに仕上げられますよ!」とドヤ顔。いや、まだ何もしてないから。別にしなくていいけど。


「こないだ、馬淵先生が持ってた写真の、昌ちゃんの伯母さんぐらい?」


「アレは、化粧のレベルがまだまだです。言ったですよ。昌クンをとびきり美人にした感じですよ」


 ちょ、なんで紬ちゃんまであの写真見てるんだよ。馬淵先生、ロクなことしない。


「私は見てないけど……、昌ちゃんをとびきり美人にしたら相当だよね」


 詩帆ちゃんは例によって腕組みをして、一人納得したように頷いた。


「くぅー、女装させたかったのですよ!」


「まぁ、由美香ちゃんも写真見たし。私の『お父さん』は、由美香ちゃん好みのイケメンではなかったと言うことで、とりあえず続きしようよ。

 それにこのガタイで女装なんてムリだよ」


「確かにこれはムリだよね」


 詩帆ちゃんは、ビニールプールに浸かって子ども達を抱き上げている『私』の写真を見る。何を思ってか、しげしげと向きを変えて観察している。


「合成じゃないよねぇ」


 詩帆ちゃんも、合成写真だと思うんだ……。ビフォー――二十代の頃――と、首から下がかなり違うから、それを疑っているようだ。


 私は三人を連れ出そうと部屋の扉を開く。この会話を続けてるだけで、心のどこかがガシガシ削られていく。

 鍛えた筋肉や、ビフォーアフターの落差に話題がいくかと思っていたのに、アテが外れた。


「分かったのです。発表原稿の続きをするのです」


 珍しく紬ちゃんが動き始めた。




 原稿に手を加えたものを通して読み、プレゼンと照らし合わせた。男子とのすり合わせは学校でやれば十分だろう。原稿の直し、ちゃんと進んでるかな? 進捗管理は詩帆ちゃんに一任してあるから、大丈夫とは思うけど。


 一昨日の読み合わせのときも、詩帆ちゃんは男子にかなりのダメ出しをしていた。言ってることは的確だし、反論の余地が無いけど、かなりスパルタ。

 原稿のところでは、聞く方は聞いた端から抜けてくんだから、とにかく簡単な文で。重文・複文は禁止。漢語表現も少なめに。

 読み方でも、助詞――『を』とか『が』とか『の』――にアクセントをもって来たら聞き苦しいから、名詞と動詞にアクセントを持ってくるとか。

 さすがアナウンス部門で県大会に出てるだけある。

 まぁ、私の方も読むのが速くなりがちなのと、間が持たなくなって、つい次に進みたくなることに注意が入った。


 私たちの部分はほぼ完了。なぜか学校ではUSBメモリの使用が禁止なので、データはCDに焼いて学校に持って行く。


 今日はここでお開きとなった。由美香ちゃんは用があるとかで、足早に帰って行った。詩帆ちゃんも遠いから以下同文。




 当然、紬ちゃんも帰るのだが、二人を見送ってさぁ帰ろうというときだった。


「うふふふふ。

 馬淵先生が見せてくれたあの写真」


「ん?」


「アレはお父さん本人ですね」


「!」


 背筋にゾクりとした感覚が駆け上がる。寒気を感じたというのに、顔に、耳に、熱いものが駆け上がってくる。背中に悪い汗が流れる。


「どういうことかな?」


 私は極力いつも通りに応えた、……つもりだ。目を合わせられない。


「隠さなくてもイイですよ。コスプレのメイクもしているですから、私の目はごまかせないですよ」


 紬ちゃんはいつもの笑顔。ここはどう応えるのが正解だ? 私は知らなかったことにするか? いや、写真は『伯母』さん――姉とは別人だ。この言い訳は通せない。ここは正直に行くしかない。学祭の余興に無理矢理つきあわされたのだ。


「あれは、父の教育実習のときだそうです。実習のお礼に学校を訪ねたときに、生徒達に捕まったらしいです」


「なるほどです。

 でも、二十歳過ぎであそこまで女装が似合うなんて、やはり惜しい人材を亡くしたものです」


「でもさ、どうして分かったの?」


「まぁ、いろいろあるですけど、一番分かりやすいのは、瞳と鼻の頭を結んだ三角形ですね。あとは耳の形」


 更に紬ちゃんによると、骨格を視ることでほぼ判るとか。

 頬骨がやや高めであることや耳の形は、私にも受け継がれているとのこと。

 なんだか恐ろしくなってくる。紬ちゃんって、ほわほわした雰囲気は作りもので、実際は恐ろしく緻密な思考をしているのかも。


「そ、そんなに似てる?」


「もう、そっくりですよ。

 お父さんが中学生か高校生ぐらいだったら、昌クンとは美人姉妹に見えたですよ、きっと。

 同じ系統の顔で、キレイ系とカワイイ系で、どちらを選ぶかお好み次第」


「私にも選ぶ権利あるけど」


「そこはそれ、オカズですから実害はありませんですよ」


「オカズって何の」


「それを乙女に言わせるですか?」


「乙女はオカズなんて言葉使いません!」


「ってことは、昌クン、しっかり分かってて訊いてるですね」


「……」


 顔が赤くなる。何で、こんな簡単に言い負かされるんだろう。


「誰にも言わないでよ」


「さぁ、どうするですかねぇ?」


「言わないでよね」


「じゃぁ今度、紬とデートするのです。

 その日は昌クン、ちょっとボーイッシュな感じで」


「その日はやっぱり『ボク』?」


「おぉう。昌クン解ってますねぇ。では、そういうことで」


 紬ちゃんは、きっと光紀さんと仲良くなれるタイプだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ