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ひめみこ  作者: 転々
第十章 変化の兆し
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男の娘じゃない

「割とやるわね」


「手も足も出ませんでした」


 留美子さんの態度はちょっと軟化した。少しは認めてくれたみたいだ。何この少年漫画的な展開は。


「留美ちゃーん。昌ちゃんは明らかにド素人でしょ。でも、身体能力があるだけでもここまでできるのよ。

 まして、普通の男性は私よりも大きいのよ。そんな相手に突きや蹴りだけじゃ勝てないわよ」


「でも、私は……」


「そういうことは、私から一本でも取ってから言うのね。

 相性の問題もあるけど、私から見てどっちがやりにくいって言ったら、貴女より昌ちゃんね」


 沙耶香さんは、十回やったら一回ぐらいは不覚を取るかも知れないなんて言うが、正直、百回やっても勝てる気がしない。留美子さんを煽っているに違いない。




「まぁ、仕方ないわよ。

 昌クン、去年までは優奈ちゃんにも転がされてたけど、春頃には神子で昌クンに勝てるの、光紀ちゃんだけになってたもん。

 昌クンみたいな男の娘じゃ、相手が悪いって」


 聡子さんの言葉に留美子さんの表情がこわばる。そして私をじっと見る。もしかして男性に対して何かあるのか? それ以前に、私は肉体的には女性なのですけど。


「オト・コノ・コ?」


「こんなかわいい子が女の子のはず無いでしょ」


「聡子さん。なんでそんなネタぶっ込むんですか!」


 聡子さんは、光紀さんがいなくてもこういう話に持ってくんだ。むしろ盛ってくの方か。それをよく知っている神子たちはあきれ顔。沙耶香さんもため息をつく。

 留美子さんはこわばった表情のまま、心ここにあらずといったところだ。この子って、常識で考えるとか、疑うってことしないのだろうか?




「聡子ちゃんも馬鹿なこと言ってないで。さ、沐浴よ」


 沙耶香さんの先導に皆がドアの方に向かうと、(ようや)く留美子さんも動き出した。私の方をチラチラと見る。まさか本気にしてないよね。




 脱衣所で例の白い服に替える。沙耶香さんだけは身体の線に自信があるのか、何の気負いも無く脱ぐ。ほかの神子は皆下着になってから羽織って、その内側で下着を脱いでかごに入れている。どうせ濡れたら透けるのだからあまり隠す意味は無いとは言え、脱ぎ着する最中を見られるのは、同性相手でも恥ずかしいものだ。


 ふと見ると、留美子さんは脱がずにこちらを伺うように見ている。

 まさか、聡子さんの冗談、本気にしてるの? そもそも、神子は女性だけだし、ここも男子禁制の脱衣所。あり得ないでしょ。


 皆の段取りが終わったことに踏ん切りがついたのか、留美子さんも同じ格好になった。


 例によって、年齢順に始める。沙耶香さんは堂々としたものだ。未だに濡れて透ける姿を直視するのが恥ずかしい。ちょっと頬が熱くなる。毎回のことだけど、これって神子として何の意味があるのだろう?


 聡子さん、千鶴さんと続いて、留美子さんの番だ。顔を赤くしてこっちを一瞥する。そんな目で見られると、なんだか変な気持ちになってくる。そしてぎこちなく手桶を使う。濡れた布が張り付いた胸と下腹部を腕で隠す。そんな風にされると、こっちまで恥ずかしくなってくるよ。なんだか、悪いことをしている気分だ。


 直子さん、優奈さんを挟んで、最後は私の番。

 私も手桶で同様の姿になるが、留美子さんの疑いを取り除くためにも、あえて隠さない。でもああいう姿を見た直後だからか、こっちも恥ずかしい。鏡に映る私は、首筋や胸まで赤くなっている。


 なんだか、沐浴を終えて汗を流しても、気まずい。

 でも、『私』が留美子さんの様子を見たら、鼻の下を伸ばすどころか、鼻の穴をおっ拡げてたに違いない。




 合宿――今回は宿泊はなかったけど――も終わり、解散近くになって留美子さんが私に話しかけてきた。


「さっきはゴメン。なんか、変なこと考えちゃった」


「いーよ。悪いのは主に聡子さんだから。

 ところで、光紀さんって知ってる? 聡子さん、光紀さんとはこんな話ばっかりだよ」


 光紀さんとは、三年ほど前に同じグループだったそうだ。短期間で分かれたせいで印象は薄い。武術訓練は何度も転がされたという記憶しか残っていないらしい。

 当時は聡子さんとは別グループだったので、二人が揃ったときの濃い話も聞いたことが無いという。


 留美子さんってツンデレ(最近覚えた言葉)なのかな。訓練のときの強気な態度と、今の柔らかい雰囲気の落差が大きい。こういうのが好きという人も少なくないだろう。




「貴女が、女の子で良かった」


「?」


「私、男の子には負けたくないから」


 あー、うん。でも、私は全然勝ててない。と言うより一方的に負けた。

 この子、過去に男と何かあったのだろうか? でも、そんなのは詮索するべきことじゃない。私だって『私』のことを言うわけにいかない。

 ふと、ずいぶん馴染んできたな、と思う。こういう女性だけの場では、自然に自分もそうであることを受け容れている。


「聡子ちゃん、ライバル出現だね」


 千鶴さんが聡子さんにそーっと言う。聞こえてます。何のライバルですか。




 帰りの道すがら、沙耶香さんに留美子さんのことを訊いてみた。やっぱり男性との間に何かしらあったのか、踏んじゃいけない地雷が無いか、その辺を知りたかったが、巧く話をはぐらかされた。

 こちらも単刀直入に訊いたわけではないから、それ以上は突っ込めない。


 沙耶香さんの口からは、単に他の比売神子たちでは、抑えが効きにくいからこちらに来たとしか聞けなかった。

 ただし、私とペアにしたのはそれなりに意味があるとのこと。

 体格が同じぐらいで、明らかに技術で未熟な者が、自分に追いついてくるという経験をさせたいらしい。ってことは私があのレベルに追いつかなくちゃいけないわけ?


「留美ちゃんも、将来有望な神子なのよ。『格』も直子ちゃんに近いレベルだし。でも、ちょっと心のバランスがね。

 だから、別の意味でバランスの悪い貴女と組ませたわけ。お互いに学んでいって欲しいわ。

 いずれは貴女も指導する側に立つんだから」


 私が比売神子になるのは、沙耶香さんの中では既定路線のようだ。

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