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ひめみこ  作者: 転々
第十章 変化の兆し
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新しい出会い

 光紀さんとのお別れ会から半月、久々の合宿らしい合宿だ。メンバーが減って少し寂しくなるかと思っていたら、新しいメンバーが増えていた。


 光紀さんが抜けたことと、私の合宿参加が順調であることから沙耶香さんの負担が減ったので、他のグループから一人新顔さんが移籍(?)してきた。でも私以外はその子のことを知っているみたいだ。


「昌ちゃんは、初めてね。こっちは小堀(こぼり)留美子(るみこ)ちゃん。新しいメンバーよ。高一だから学年は二つ上になるわね。


 留美ちゃん、こっちは小畑昌ちゃん。昨秋からの新メンバーね。最年少だけど、血が出る前に大学出てるから、勉強に関しては神子の中ではトップね」


「小畑昌です。よろしくお願いします」


「小堀留美子よ。よろしくね」


 神子としては取り立てて美人という程ではないけど、纏っているオーラというか存在感に華がある。いや、神子を基準にするから普通の美少女だけど、一般人の中だったら明らかに目立つ美少女か。なんだか、基準が厳しくなってしまった。

 そういえば、私の友達も美人揃いだ。それに慣らされて目が肥えてしまったのかも。




 勉強は普段通りだったけど、いつもと違ったのは武術訓練。


 留美子さんの出で立ちは、七分丈の黒いインナーに短パンとノースリーブ。

 軽くアップした後はシャドー(?)をするけど、身につけた技は、空手かキックボクシングか? 門外漢の私には判らない。とにかく蹴りを主体とする格闘技のようだ。

 舞うように、あるいは独楽のように回転しながら蹴りの連続。なんだろう? 印象として一番近いのはフィギュアのスパイラルシークエンス。もちろんそれより圧倒的に(はや)く、当たり前だが進行方向は前。とにかく華麗だ。




 私は例によって沙耶香さんと組み手。ところが、他の神子たちじゃ、留美子さんの相手にならないから、沙耶香さんが相手をすることに。


 案の定、沙耶香さんは簡単に懐を取って留美子さんを転がす。留美子さんも決して弱くはない。スピードは明らかに上なんだけど、沙耶香さんの位置取りが圧倒的に巧いから、いいように懐を取られてしまうのだ。私の初スパーを思い出す。


 留美子さんは沙耶香さんに振り回されて、あっさりとスタミナ切れの様子。けど、沙耶香さんじゃ相手が悪い。光紀さんでも六対四ぐらいで分が悪いかな? 距離を保てるかどうかの勝負になりそうだ。沙耶香さんといい光紀さんといい、ゆっくりとした動きで相手を追い詰めるのが抜群に巧い。


 留美子さんはかなり悔しそうだ。

 以前のグループで指導に当たっていた比売神子の一人は、古武術を修めていたらしいけど、その人とは互角以上にやり合えたという。まぁ、沙耶香さんが別格過ぎるのだ。


「男子相手でも、負けたこと無いのに!」


 そうかも知れないけど、それは多分同じぐらいの体格までだろうな。純粋な突いたり蹴ったりの強さは、体格に依るところが大きい。現実には、身につけた技のレベルがよっぽど違わない限り、体格差はひっくり返せない。だからこそ、ボクシングを始めとした格闘技には階級があるのだ。

 一般に男性の方が骨格も筋肉も勝る以上、女性に勝ち目は無い。だから神子が修める格闘術は合気柔術のような、力に依らない技が中心になる。それでも、純粋な体重とパワーにはそうそう通用しない。だから鍛錬を続けるのだ。


「昌ちゃんから見て、留美ちゃん、どう?」


「留美子さんは……、疾いし、華麗で魅せられます。なんか、格闘ゲームのスピード重視キャラって感じですね」


「男性相手に戦えると思う?」


 それはどうだろ? 見たところ、体格は私と同じぐらい。一般的な男性はそれより三割程度は重たいから、純粋な殴り合いじゃ勝負にならないだろう。


「うーん。難しいんじゃないかなぁ」


「なんですって?」


 やばっ。聞こえてた。


「じゃぁ、留美ちゃん。昌ちゃんとやってみたら? この子も結構やるわよ」


「ちょっと、沙耶香さん。私じゃ留美子さんと勝負になりませんって。そもそも、柔術始めて一年も経ってないし、それまでは格闘技自体やったこと無かったんですよ」


「大丈夫。初めから真っ直ぐ突いたり蹴ったりができてたし、この何ヶ月かで足捌きと受けも学んだんだから、そこそこ勝負になるわよ。

 それに体格は同じぐらいで、リーチは多分貴女が上、瞬間的に出せるスピードとパワーも明らかに貴女が上なんだから」


 そうかなぁ。パワーはともかく、スピードは微妙に負けてる気がする。




 結局、留美子さんと立ち会うことになった。防具とグラブを着けて向かい合う。凄い迫力だ。何か気に触るようなこと言ったんだろうか?


「始め」


 留美子さんはボクシングで言うところのオーソドックススタイル。私もそれに合わせて構えた。


 いきなり右のローキック。

 私は後ろに下がって空振りさせる。そして踏み込もうとしたら、留美子さんは回転を止めずに、左の後ろ回し蹴り。

 咄嗟に後ろに跳ぶ。と言うとかっこ良く避けたように聞こえるけど、へっぴり腰で無様にお尻から跳ぶ。何かにびっくりした猫のようなポーズ。


 その後も逃げ回るだけでいいところが無い。うわっ! 後ろ回し蹴りが上から降ってきた。ほとんどフライングニールキックだ。

 私は床に転がって逃げた。

 足捌きと受けを学んだおかげでなんとか逃げ回れてるけど、それも限界近い。


 それを察したか、留美子さんは動きを止める。足は肩幅で、くっと顎を上げる。一本にまとめたサイドテールが揺れる。

 昔のアニメで見たことありそうな立ち姿で、ちょっと格好いいかも。セリフをあてるなら、逃げ回るだけ? 口ほどにも無いわね、だろうか?


 そう思ったら、留美子さんがニヤリと笑う。まるで心を読まれたみたいだ。




「止め」と沙耶香さんが一旦試合を止める。呆れたように私を見る。


「もう少しやるかと思ったんだけど。

 中途半端に技を憶えたら、かえって下手になったんじゃないかしら。初めて私とやったときの方がマシよ」


 改めて向かい合う。

 そうだ。あのときはくっつくことで技を封じようとしたんだ。沙耶香さんには通用しなかったけど、突きや蹴りが主体の留美子さんなら。少なくとも密着すれば、蹴りの大半は封じることができるはず。

 今度は柔術本来の構え。右手を前に身体は半身になる。多分、身につけた足捌きとスタンスが逆だから、うまく動けなかったんだ。


「始め」の合図とともに、私は間合いを詰める。

 留美子さんはそれを嫌って、蹴りとフットワークで突き放そうとする。蹴りをいなしながら踏み込むが、回り込むように逃げられる。


 漫画で学んだ知識、カウンターの名手を相手にしたときのハードパンチャーを真似て、まず足を見る。

 何をするにしても、軸足に体重が移動するのだから、それを頼りに追いかける。よし、留美子さんもやりにくそうな表情だ。




 でも、結局時間いっぱいまでかけても、追い切れなかった。何度か懐を取ったけど、そこまでが限度で、互いに有効打を取ること無く終わった。まぁ、私のレベルでそこまでできれば上等だろう。


 沙耶香さんが留美子さんに何か話しているけど、こっちは疲労困憊だ。聞きに行く元気も無い。




「じゃ、今度から武術訓練は、留美ちゃんと昌ちゃんがペアね」


 沙耶香さんが軽く言い放つ。毎回こんなに疲れるのはやだなぁ。


「昌ちゃん、ちょっと」


 沙耶香さんが手招きする。付いて来いってことか? 今は立つのも面倒くさいんだけど。


 なんとか、沙耶香さんのもとにいくと、一言目は一応お褒めの言葉だったが、その後はダメ出し。要するに、スピードで勝ってるのに追い切れないのは、私がヘタクソだってこと。


 確かに沙耶香さんは、圧倒的に疾い相手を簡単に捕まえている。光紀さんもそうだった。


 二人に共通するのは……、私をお嫁さんに、じゃなくて、スキンシップが……。あ、これも違う。


 ダメだ、疲れすぎると変なことばかり考えてしまう。

 とにかく、シャワーを浴びてゴロゴロしたいよぉ。

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